「京都」と聞くと、どんなものを思い浮かべるでしょうか。
神社やお寺、古き良き街並み、着物姿の舞妓さん、八つ橋などの名産品…。
京都には長い歴史があり、「はんなり」とした「みやび」なイメージのあると思います。和歌を詠むことが教養のひとつだった平安時代、京都が日本の都だったということもあり、「京都を詠んだ歌」は数多く残されています。
〜大江(おほえ)山
いく野の道の
遠(とほ)ければ
まだふみもみず 天の橋立〜百人一首にも出てくる京都の天の橋立行ってきた😇✨ pic.twitter.com/2ZHHosx53T
— つるちゃ (@keeeeee86) May 5, 2017
都が東京にうつったあとの近・現代でも、京都を歌に詠む歌人は後を絶えません。
今回は、「京都」にまつわる短歌・和歌を20首紹介していきます。
京都にまつわる有名短歌(和歌)集【前半10選】
ほとんどが現代語で詠まれていますので、「古典で習うような和歌はちょっと…」という方も読みやすいと思います。気軽に鑑賞してみてください。
【NO.1】与謝野晶
『 清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき 』
【意味】清水に行こうと祇園を通り過ぎる、桜が咲き誇る朧月夜。今夜すれちがう人々は、誰もが皆美しく見える。
【NO.2】澤村斉美
『 逢ふ前のとほき祭日あかねさす天満宮に絵馬をかけたり 』
【意味】意味:あなたに会うよりずっと前のお祭りの日、北野天満宮に絵馬をかけた。※「あかねさす」は枕詞なので、意味ある言葉としては取っていません
【NO.3】島田幸典
『 南禅寺水道橋のみずの下くぐり帰りぬ恥多き日を 』
【意味】南禅寺の水道橋の水の下をくぐって帰った、(若い頃の)恥の多かった日々を。
【NO.4】辻喜男
『 いつ来ても光も音もひそかなり寺町二条三月書房 』
【意味】いつ来ても、光もあまり当たらず音もあまりせず密かだ。寺町二条にある三月書房は。
【NO.5】田附昭二
『 大文字の火床青葉にかくろへば寂しき五月の山となりたり 』
【意味】大文字山の火床が青葉で隠れている。寂しい。五月の山になったなぁ。
【NO.6】梅内美華子
『 階段を二段跳びして上がりゆく待ち合わせのなき北大路駅 』
【意味】(地下鉄の駅から地上へ)階段を2段飛ばしで上がっていく。待ち合わせがない北大路駅。
京都市北区にある北大路駅は、地下鉄の他に市営バスの大きなターミナルもあり、比較栄えた場所です。その階段を、「二段跳びして上がりゆく」…とても躍動感があり、若さが感じられます。作者がこの歌を詠んだのは同志社大学の学生時代、20歳の時。待ち合わせがあろうがなかろうが、階段を思い切り駆け上がる。その若さがとても清々しいですね。
【NO.7】初井しづ枝
『 賀茂川の流せる夏の夕日にて光しだいに弱くなりゆく 』
【意味】賀茂川が流す夏の夕日(夕日が水面に映って流されているように見える)。その光は次第に弱くなっていく。
【NO.8】川本千栄
『 明治の疎水今も流れる藤森・深草・墨染 まち貫きて 』
【意味】明治時代に作られた疎水は、今も流れている。藤森・深草・墨染のまちを貫いて。
【NO.9】永田和弘
『 路面電車のまだありしころ京都には荷車馬蹄の響きもありぬ 』
【意味】路面電車がまだあったころ、京都には荷車や馬蹄の音の響きもあった。
【NO.10】佐藤佐太郎
『 夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝きを垂る 』
【意味】夕日の光の中に、まぶしく花を咲きほこらせて、満開のしだれ桜は輝きを垂れている。
京都にまつわる有名短歌(和歌)集【後半10選】
後半は、『百人一首』などでもおなじみの、歴史ある「和歌」を紹介します。
現代語で書かれたものよりも難しいと感じるかもしれませんが、詠まれている「京都」は今に通じるところがたくさんあります。あまり構えずに読んでみてください。
【NO.11】小式部内侍(こしきぶのないし)
『 おほえ山 いく野の道のとほければ まだふみもみず天の橋立 』
【意味】大江山を越えて幾つもの野を通る道が遠いので、まだ天の橋立の地を踏んでいないし、まだ母からの手紙も見ていない。
【NO.12】藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)
『 みかの原 わきてながるる泉河 いつ見きとてか恋しかるらむ 』
【意味】三香の原に湧き、原を二分して流れる泉川。(その川のように)一体いつ(あなたに)逢ったから、これほど恋しいのだろうか。(一度も逢ったことがないのに)
【NO.13】曽禰好忠(そねのよしただ)
『 みそぎする 賀茂の川風吹くらしも 涼みにゆかむ妹をともなひ 』
【意味】禊(六月祓)が行なわれる賀茂に、(涼しい)川風が吹いているらしい。涼みに行こう。妻を連れて一緒に。
【NO.14】中務(なかつかさ)
『 桜花 散りかふ空は暮れにけり 伏見の里に宿や借らまし 』
【意味】桜の花が散り乱れた空は暮れてしまった。伏見の里に宿を借りるとしよう。
【NO.15】藤原俊成
『 貴船川 たまちる瀬々の岩浪に 氷をくだく秋の夜の月 』
【意味】貴船川の岩に(水がぶつかって)散る波。その波が(月の光で光って)氷を砕いているように見えてくる。秋の月が美しい。
【NO.16】大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)
『 もみぢせぬ ときはの山にすむ鹿は おのれ鳴きてや秋をしるらむ 』
【意味】紅葉しない常盤の山に住む鹿は、自分の鳴き声で秋を知るのだろうか。
【NO.17】紀貫之(きのつらゆき)
『 秋風の 吹きにし日より音羽山 みねのこずゑも色づきにけり 』
【意味】秋風が吹きはじめた日から、音羽山の峰の梢も色付いたのだった。
【NO.18】権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)
『 朝ぼらけ 宇治の川 霧たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木 』
【意味】夜がほのぼのと明けて、宇治川にかかった朝霧が途切れ途切れになってくると、現れてきたのは川の浅瀬にある網代木だった。
宇治川は京都南部を流れる川です。網代は魚を捕るための仕掛けで、当時(平安時代)の宇治川の風物詩でした。網代木は川に打たれた杭のことです。平安時代、宇治川の周辺は貴族の別荘が多く建てられ、都の貴族にとってリゾート地のような場所でした。そこで見た、ずらりと並ぶ網代木が、面白く美しいものに思ったのでしょうか。普段の生活では見ない、変わった情景を眺めたときの楽しさが感じられる歌です。
【NO.19】貞信公(ていしんこう)
『 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ 』
【意味】小倉山の峰の紅葉よ、もしも人の心が分かるのならば、今一度、天皇がいらっしゃるまで散らずに待っていておくれ。
【NO.20】順徳院(じゅんとくいん)
『 百敷や 古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり 』
【意味】宮中の古びた軒先に生えているしのぶ草を見るにつけても、しのんでもしのびきれないほど懐かしいのは、古き良き昔であることよ。
現代から見れば、この歌が詠まれた時代も「昔」なのですが、この歌はそこからさらに昔
を偲んでいる歌です。長く続いた貴族の文化が終わっていく様子を描いています。この歌は『百人一首』の最後、100首目となる一首です。貴族の栄華の時代を収めた百人一首。その最後にこの歌をもってきたのには、深い意味が感じられますね。
以上、「京都」にまつわる有名短歌/和歌集でした!
たくさんの魅力があふれる京都。
そこで詠まれた作品からは、歴史を感じるだけでなく、今なお変わらない「人々の姿」や「思い」も感じることができたのではないでしょうか。