【思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ】徹底解説!!意味や表現技法・句切れなど

 

五・七・五・七・七の合計三十一文字からなる短形詩「短歌」。

 

歌人の瑞々しい感性が限られた文字数で生き生きと表現されます。調子よく口ずさみやすいところや、短く手軽なことなどから愛好する人も多くいる文芸です。

 

今回は現代を代表する女流歌人・俵万智さんの短歌「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」をご紹介します。

 


この歌は国語の教科書にも掲載されているので、ご存知の方も多いと思います。

 

本記事では、「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」の意味や表現技法・句切れなど徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」の詳細を解説!

 

思い出の 一つのようで そのままに しておく麦わら 帽子のへこみ

(読み方:おもいでの ひとつのようで そのままに しておくむぎわら ぼうしのへこみ)

 

作者と出典

この歌の作者は俵万智です。1962年大阪生まれ、現在も活躍されている歌人です。

 

この歌の出典は「サラダ記念日」

 

サラダ記念日は、俵万智の第1歌集で1987年に初版が発行されました。発行後は280万部のベストセラーとなり、俵万智さんは現代短歌の先駆け的存在となっています。

 

 

現代語訳と意味(解釈)

この歌の意味は・・・

 

「過ぎてしまった夏の楽しい思い出の一つのように感じて、へこんだ麦わら帽子をそのままにしておこうと思う」

 

となります。

 

文法と語の解説

特になし

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」の句切れと表現技法

句切れ

この句に句切れはありませんので「句切れなし」です。

 

句またがり

五七五七七の、下の句にあたる最後の「しておく麦わら帽子のへこみ」は「句またがり」になります。

 

思い出の 一つのようで そのままに しておく/麦わら 帽子のへこみ

 

通常の短歌の音韻とはズレが生じるため最初は読み手に違和感を与えますが、句またがりを用いることで歌に独特のリズムを生み、歌に音楽性をもたらします

 

俵万智さんの歌には、この「句またがり」を用いたものが数多くみられます。

 

字余り

短歌は、五・七・五・七・七の三十一音が基本です。しかし、この句は第四句が「しておくむぎわら」と八音になっています。このように字数が多いものを「字余り」といいます。

 

あえてリズムを崩すことで印象を強めています。

 

体言止め

体言止めとは、文末を名詞や代名詞などの体言で止める技法の事を指します。

 

文末を体言止めにする事で、文章全体のイメージが強調され読者に伝わりやすくなり、また句にリズムを持たせる効果もあります。

 

この句は語尾を「(麦わら帽子の)へこみ」で締めくくることによって読み手にイメージを委ね、句の印象が残りやすくなっています。

 

倒置法

倒置法とは、本来の言葉の順番をあえて入れ替えて逆にして印象を強めたり、余韻を残す表現技法のことです。

 

「麦わら帽子のへこみ」は本来目的語となるべき語ですので、普通の文章であれば助詞を使い「麦わら帽子のへこみ・を・そのままにしておく」となります。

 

しかし、それを「そのままにしておく・麦わら帽子のへこみ」とすることで、「へこみ」という目的語を強調しています。

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」が詠まれた背景

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」が収録されている『サラダ記念日』は、作者の俵万智さんの代表作であり、表題にもなっている“「美味しいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日”にもみられるように、恋愛の歌を詠んだ歌集です。

 

何気ない日常の中に溢れるときめきや、切ない感情を素直に表現していて、多くの読者から共感を得ています。

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」も特に人気のある作品の一つで、軽い切り口ながらもはっとするような気持ちにさせられます。

 

俵万智さんの短歌の特徴でもある口語調のものは、ライト・ヴァース(light verse)と呼ばれています。1980年代のバブル期の波に後押しされ流行した形式です。

 

口語で書かれているため、ともすれば軽いと思われがちですが、それまでの短歌では一般的であった文語から口語になったことにより、若い世代にも広く受け入れられるようになったのです。

 

「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」の鑑賞

 

暑い盛りを過ぎ、季節が秋にさしかかった頃、夏の間被っていた麦わら帽子をしまおうとすると帽子にへこみがあることに気づいたのでしょう。

 

麦わら帽子は英語でストローハットといい、その名の通り麦穂を刈り取ったあとの麦と茎を編み込んで作ったものです。ドーム型の形が一般的で、「麦わら帽子のへこみ」というとそのドームの上のあたりがへこんでいると想像できます。

 

歌中では明言こそされていないものの、夏を一緒に過ごした“誰か”との思い出のように感じて、そのへこみを直さずにとっておこうとしたのです。

 

ここで、「へこみ」という単語に注目します。前述のとおり、この歌は体言止め、さらに倒置法を使って「へこみ」という語を強調しています。

 

「へこみ」とは、本来の状態よりへこんでいる、というマイナスのイメージをもつ言葉す。

 

「夏の思い出」の「へこみ」、すなわち失恋の歌であると解釈できます。

 

ひと夏の恋、という言葉もありますが、夏の間に終わってしまった恋の切なさを、麦わら帽子のへこみと重ね合わせているのです。

 

作者「俵万智」を簡単にご紹介!

 

作者の俵万智さんは、1962年大阪生まれの歌人です。早稲田大学在学中に歌人の佐佐木幸綱に影響を受け、短歌を始めました。

 

1986年「八月の朝」で角川短歌賞を受賞すると、翌年に出版された「サラダ記念日」が、短歌集としては異例の280万部を記録しました。

 

当時は高校の教師をしながらの創作活動だったといいます。

 

作詞やエッセイ、翻訳などマルチに活躍しながら2003年には男児を出産し、現在は息子さんと2人で沖縄の石垣島に住んでいます。

 

 

俵万智のその他の作品

 

  • 「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ『サラダ記念日』
  • 来年の春まで咲くと言われれば恋の期限にするシクラメン『かぜのてのひら』
  • 男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす『チョコレート革命』
  • まっさきに気がついている君からの手紙いちばん最後にあける『とれたての短歌です。』
  • 生きるとは手をのばすこと幼子の指がプーさんの鼻をつかめり『プーさんの鼻を』