【京都の有名短歌 20選】春夏秋冬!!知っておきたいおすすめ現代短歌&和歌を紹介!

 

「京都」と聞くと、どんなものを思い浮かべるでしょうか。

 

神社やお寺、古き良き街並み、着物姿の舞妓さん、八つ橋などの名産品…。

 

京都には長い歴史があり、「はんなり」とした「みやび」なイメージのあると思います。和歌を詠むことが教養のひとつだった平安時代、京都が日本の都だったということもあり、「京都を詠んだ歌」は数多く残されています。

 

 

都が東京にうつったあとの近・現代でも、京都を歌に詠む歌人は後を絶えません。

 

今回は、「京都」にまつわる短歌・和歌を20首紹介していきます。

 

短歌職人
意味や鑑賞文も合わせて紹介していますのでぜひ目を通してみてください。

 

京都にまつわる有名短歌(和歌)集【前半10選】

 

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まずは、近・現代の短歌を10首紹介します。
ほとんどが現代語で詠まれていますので、「古典で習うような和歌はちょっと…」という方も読みやすいと思います。気軽に鑑賞してみてください。

 

【NO.1】与謝野晶

『 清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき 』

【意味】清水に行こうと祇園を通り過ぎる、桜が咲き誇る朧月夜。今夜すれちがう人々は、誰もが皆美しく見える。

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「朧月夜」は、春の夜にほのかに月がかすんでいる情景のこと。作者はそこに桜が咲き誇っている様子を「桜月夜」と表現しています。美しい言葉ですね。会う人が皆美しいと感じるのは、主人公自身が楽しく幸せな時間を過ごしているからでしょう。一緒に桜を見ている人の存在が、そうさせているのでしょうか。

 

【NO.2】澤村斉美

『 逢ふ前のとほき祭日あかねさす天満宮に絵馬をかけたり 』

【意味】意味:あなたに会うよりずっと前のお祭りの日、北野天満宮に絵馬をかけた。※「あかねさす」は枕詞なので、意味ある言葉としては取っていません

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北野天満宮は学問のご利益で有名な神社で、毎年たくさんの受験生が祈願をしに訪れます。この歌の主人公も、受験生のときに絵馬をかけに来たのでしょうか。その後に出会った「あなた」を、あの頃はまだ知らなかった。そんな過去へのほのかな思いが漂っています。作者は京都大学の学生の頃にこの歌を詠んだそうです。

 

【NO.3】島田幸典

『 南禅寺水道橋のみずの下くぐり帰りぬ恥多き日を 』

【意味】南禅寺の水道橋の水の下をくぐって帰った、(若い頃の)恥の多かった日々を。

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琵琶湖疏水の有名スポットのひとつである、南禅寺の水路閣。明治23年に建てられたアーチ橋の上には現在も琵琶湖の水が流れ続けています。アニメの聖地としても、またSNS映えスポットとしても人気で、現在では人が多く訪れる場所となりました。しかし、この歌からは「人気(ひとけ)のない静かな時間の水路閣」が想起されます。偉大な旧跡である水路閣と、恥の多い日々を過ごす自分の惨めさ・情けなさとを対比させた一首です。

 

【NO.4】辻喜男

『 いつ来ても光も音もひそかなり寺町二条三月書房 』

【意味】いつ来ても、光もあまり当たらず音もあまりせず密かだ。寺町二条にある三月書房は。

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京都には個性豊かな書店がたくさんあります。その先駆けともいえる、1950年創業の三月書房。文芸書のチョイスに定評があり、短歌に関する本や歌集も多く取り揃えておられ、有名な作家や歌人も通ったそうです。残念ながら、2020年末に廃業されました。そんな京都ならではの書店の雰囲気を詠んだ一首です。

 

【NO.5】田附昭二

『 大文字の火床青葉にかくろへば寂しき五月の山となりたり 』

【意味】大文字山の火床が青葉で隠れている。寂しい。五月の山になったなぁ。

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毎年8月16日に行われる、五山の送り火。(「大文字焼き」と呼ぶのは、京都人は好みません。)お盆に帰って来ていたご先祖様を見送るための行事で、京都に住む人にとっては大切なものです。しかし、送り火の日ではない「普段の火床」はというと、山の中にとても地味に佇んでいます。その火床を見て、お盆の盛り上がりとの対比に、作者は寂しく感じたのでしょうか。

 

【NO.6】梅内美華子

『 階段を二段跳びして上がりゆく待ち合わせのなき北大路駅 』

【意味】(地下鉄の駅から地上へ)階段を2段飛ばしで上がっていく。待ち合わせがない北大路駅。

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京都市北区にある北大路駅は、地下鉄の他に市営バスの大きなターミナルもあり、比較栄えた場所です。その階段を、「二段跳びして上がりゆく」…とても躍動感があり、若さが感じられます。作者がこの歌を詠んだのは同志社大学の学生時代、20歳の時。待ち合わせがあろうがなかろうが、階段を思い切り駆け上がる。その若さがとても清々しいですね。

 

【NO.7】初井しづ枝

『 賀茂川の流せる夏の夕日にて光しだいに弱くなりゆく 』

【意味】賀茂川が流す夏の夕日(夕日が水面に映って流されているように見える)。その光は次第に弱くなっていく。

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京都、特に京都市内での暮らしには、日常に「川」があります。特に鴨川(その上流の賀茂川と高野川も含め)は、観光で来た人も思わずぼーっと眺めてしまうような魅力があります。作者の初井しづ枝さんは兵庫県の姫路の方ですが、この歌は京都を訪れた帰りに詠まれたそうです。「川が夕日を流す」という表現が新鮮で素敵ですね。

 

【NO.8】川本千栄

『 明治の疎水今も流れる藤森・深草・墨染 まち貫きて 』

【意味】明治時代に作られた疎水は、今も流れている。藤森・深草・墨染のまちを貫いて。

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琵琶湖疏水は京都の暮らしには欠かせないもので、明治期の竣工以来、今もなお現役で活躍しています。その歴史の流れと水の流れをともに感じさせる歌です。この歌に出てくる「藤森(ふじのもり)」「深草(ふかくさ)」「墨染(すみぞめ)」という地名は、どれも京阪電車の駅名でもあります。※深草駅は、現在は「龍谷大前深草駅」です。

 

【NO.9】永田和弘

『 路面電車のまだありしころ京都には荷車馬蹄の響きもありぬ 』

【意味】路面電車がまだあったころ、京都には荷車や馬蹄の音の響きもあった。

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今はもうありませんが、京都市内にはかつて「京都市電」という路面電車が走っていました。日本最古の路面電車で、当時は街の繁栄の象徴でもありました。一方で、同じ風景の中にはまだ、昔ながらの荷車や馬車もあったようです。古きものと新しきものが共存する街というのも、京都の特徴のひとつかもしれません。

 

【NO.10】佐藤佐太郎

『 夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝きを垂る 』

【意味】夕日の光の中に、まぶしく花を咲きほこらせて、満開のしだれ桜は輝きを垂れている。

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桜についての短歌はたくさんありますが、たくさんあるからこそ普遍的になりがちです。この歌の作者 佐藤佐太郎さんは、しだれ桜のようすを「輝きを垂る」と表現しました。ここにこの歌の魅力が詰まっています。作者本人もこの表現を思いついたことで、「余の桜の歌の前蹤なり」と得意になったそうです。作者が見たのは「裏庭のしだれ桜」だそうですが、京都でしだれ桜と言えば、丸山公園の桜が有名です。

 

京都にまつわる有名短歌(和歌)集【後半10選】

 

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後半は、『百人一首』などでもおなじみの、歴史ある「和歌」を紹介します。

現代語で書かれたものよりも難しいと感じるかもしれませんが、詠まれている「京都」は今に通じるところがたくさんあります。あまり構えずに読んでみてください。

 

【NO.11】小式部内侍(こしきぶのないし)

『 おほえ山 いく野の道のとほければ まだふみもみず天の橋立 』

【意味】大江山を越えて幾つもの野を通る道が遠いので、まだ天の橋立の地を踏んでいないし、まだ母からの手紙も見ていない。

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作者の小式部内侍は幼少期から歌がうまいと評判でしたが、あまりに上手なので母親である和泉式部が代作しているのではと噂されていました。そんな中、母が不在の時の歌合せの席で、代作についてからかわれた小式部内侍が即興で詠んだのがこの一首です。大江山・生野・天橋立の位置関係を瞬時に思い浮かべ、「生野」と「行く」、さらに「踏みもみず」と「文も見ず」を掛けた華麗な歌。小式部内侍が自分の歌の才能を証明して見せた、有名なエピソードです。

 

【NO.12】藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)

『 みかの原 わきてながるる泉河 いつ見きとてか恋しかるらむ 』

【意味】三香の原に湧き、原を二分して流れる泉川。(その川のように)一体いつ(あなたに)逢ったから、これほど恋しいのだろうか。(一度も逢ったことがないのに)

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「瓶原(みかのはら)」は、現在の京都府の南部を流れる木津川の、北側の一部を指します。この歌の解釈は諸説ありますが、「一度も逢ったことがない女性への恋」という説が有力です。現代で言えば、「会ったことはないけれど憧れるアイドルへの恋」のようなものでしょうか。千年以上前の歌にも、今に通じる恋心が詠まれていると思うと面白いですね。

 

【NO.13】曽禰好忠(そねのよしただ)

『 みそぎする 賀茂の川風吹くらしも 涼みにゆかむ妹をともなひ 』

【意味】禊(六月祓)が行なわれる賀茂に、(涼しい)川風が吹いているらしい。涼みに行こう。妻を連れて一緒に。

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京都には、夏の終わりに上半期の厄を払う「六月禊(みなづきばらえ)」があります。一般的には「夏越の祓(なごしのはらえ)」と呼ばれ、現代でも神社で茅の輪(ちのわ)をくぐり、6月30日に和菓子の水無月を食べると言った風習があります。こうした行事の名前が歌に自然に詠み込まれているのも、京都の歌ならではの良さを感じます。京都の夏は猛暑ですが、川沿いは心地よい涼しい風が吹いています。

 

【NO.14】中務(なかつかさ)

『 桜花 散りかふ空は暮れにけり 伏見の里に宿や借らまし 』

【意味】桜の花が散り乱れた空は暮れてしまった。伏見の里に宿を借りるとしよう。

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伏見は京都市の南の方にある地域です。京都に桜の名所はたくさんありますが、この歌の舞台となった場所も桜が美しく咲いていたのでしょう。現在でも、伏見の琵琶湖疏水沿いなどは桜の木がたくさん並んでいます。作者は「宿を借りよう」という部分に、「この場所に野宿して、寝ながらでも桜の花が散る様子を眺めたい」という思いを込めたようです。

 

【NO.15】藤原俊成

『 貴船川 たまちる瀬々の岩浪に 氷をくだく秋の夜の月 』

【意味】貴船川の岩に(水がぶつかって)散る波。その波が(月の光で光って)氷を砕いているように見えてくる。秋の月が美しい。

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貴船は京都市の中でも北のほう、山の中にあります。現在では叡山電車で行くことができ、多くの人が観光に訪れています。そんな貴船を流れる川はとても美しく、夏には風物詩である「川床」も行われます。千年前も、川やその周りの風景は変わらず美しかったようですね。自然の美しさを感じる心は今も昔も変わりませんね。

 

【NO.16】大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)

『 もみぢせぬ ときはの山にすむ鹿は おのれ鳴きてや秋をしるらむ 』

【意味】紅葉しない常盤の山に住む鹿は、自分の鳴き声で秋を知るのだろうか。

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京都の山奥には鹿をはじめ色々な動物がいます。実は山奥だけでなく、人が住んでいるところの近くに現れることも。住宅地でも山に近いところであれば、鹿の鳴き声が聞こえることもあります。日本のカードゲームのひとつ『花札』にも、紅葉の下に鹿が立つ絵の札があります。秋には雄の鹿が雌を求めて鳴くと言われており、「鹿」と「秋」はセットでイメージされることが多いようです。

 

【NO.17】紀貫之(きのつらゆき)

『 秋風の 吹きにし日より音羽山 みねのこずゑも色づきにけり 』

【意味】秋風が吹きはじめた日から、音羽山の峰の梢も色付いたのだった。

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作者の紀貫之が石山寺に参詣したとき、途中で音羽山の紅葉を見て詠んだ歌です。桜と同じく、京都には紅葉の名所もたくさんあります。紅葉の美しさを楽しむ気持ちも、昔から変わっていないようです。音羽山の「音」と、風の「音」を掛けており、今にも風にそよぐ紅葉の葉の音が聞こえてきそうな一首です。

 

【NO.18】権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)

『 朝ぼらけ 宇治の川 霧たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木 』

【意味】夜がほのぼのと明けて、宇治川にかかった朝霧が途切れ途切れになってくると、現れてきたのは川の浅瀬にある網代木だった。

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宇治川は京都南部を流れる川です。網代は魚を捕るための仕掛けで、当時(平安時代)の宇治川の風物詩でした。網代木は川に打たれた杭のことです。平安時代、宇治川の周辺は貴族の別荘が多く建てられ、都の貴族にとってリゾート地のような場所でした。そこで見た、ずらりと並ぶ網代木が、面白く美しいものに思ったのでしょうか。普段の生活では見ない、変わった情景を眺めたときの楽しさが感じられる歌です。

 

【NO.19】貞信公(ていしんこう)

『 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ 』

【意味】小倉山の峰の紅葉よ、もしも人の心が分かるのならば、今一度、天皇がいらっしゃるまで散らずに待っていておくれ。

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小倉山は、嵐山の北に位置する標高280mの低い山です。嵐山と言えば有名な観光地のひとつですね。この辺りは平安時代からすでに、貴族が余暇を過ごす場所として人気がありました。この歌は暗に天皇陛下に紅葉見物を勧めている歌です。実際のところ、「大和物語」によると、ちょうどこの歌ができた頃から、小倉山付近への天皇の行幸が毎年行われることになったそうです。

 

【NO.20】順徳院(じゅんとくいん)

『 百敷や 古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり 』

【意味】宮中の古びた軒先に生えているしのぶ草を見るにつけても、しのんでもしのびきれないほど懐かしいのは、古き良き昔であることよ。

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現代から見れば、この歌が詠まれた時代も「昔」なのですが、この歌はそこからさらに昔

を偲んでいる歌です。長く続いた貴族の文化が終わっていく様子を描いています。この歌は『百人一首』の最後、100首目となる一首です。貴族の栄華の時代を収めた百人一首。その最後にこの歌をもってきたのには、深い意味が感じられますね。

 

以上、「京都」にまつわる有名短歌/和歌集でした!

 

 

たくさんの魅力があふれる京都。

 

そこで詠まれた作品からは、歴史を感じるだけでなく、今なお変わらない「人々の姿」や「思い」も感じることができたのではないでしょうか。

 

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京都を舞台にした歌はまだまだたくさんありますので、興味のある方はぜひ調べてみてください。