皆さんは近代短歌というとどの歌人を思い浮かべますか。
一般に近代と呼ばれる時代に作品を残した歌人たちの中には、与謝野晶子や正岡子規など有名な人も多くいます。それらの名前に国語の授業などで触れた方も多いかもしれませんね。
これらの歌人は激動の時代を生き抜く際にどのようなことを感じ、どんなことを歌ったのでしょうか。
今回は、近代短歌の中からメジャーな有名短歌を20首、ご紹介します。
知っておきたい!近代有名短歌【前半10選】
【NO.1】正岡子規
『 いちはつの 花咲きいでて 我目(わがめ)には 今年ばかりの 春行かんとす 』
【現代語訳】いちはつの花が咲きだしたが、私の眼には今年限りの春が過ぎようとしている。
【NO.2】斎藤茂吉
『 のど赤き 玄鳥(つばくらめ)ふたつ 屋梁(はり)にゐて 足乳(たらち)ねの母は 死にたまふなり 』
【現代語訳】のどが赤い燕が我が家の屋梁に2羽いて、その中でまさに今、母は死に向かっているのだ。
【NO.3】与謝野晶子
『 その子二十 櫛にながるる 黒髪の おごりの春の うつくしきかな 』
【現代語訳】その娘は二十歳で、櫛で梳くと滑らかに流れる黒髪を持っている。誇りに満ちた青春は美しい。
【NO.4】北原白秋
『 病める児は ハモニカを吹き 夜に入りぬ もろこし畑(ばた)の 黄なる月の出 』
【現代語訳】病気の子供がハーモニカを吹いているうちに、夜になってしまった。もろこしの畑に黄色い月が照っている。
【NO.5】与謝野晶子
『 なにとなく 君に待たるる ここちして 出でし花野の 夕月夜かな 』
【現代語訳】なんとなくあなたが待っているように感じて花野に出たら、夜空に月が浮かんでいた。
【NO.6】石川啄木
『 不来方(こずかた)の お城の草に 寝ころびて 空に吸はれし 十五の心 』
【現代語訳】不来方城の草に寝転んで空を眺めていると、空に吸いこまれそうになった十五歳の心よ。
生い茂った草の匂いまで感じられそうな少年のやるせなさが印象的な歌です。
15歳という多感な時代を象徴するようなさわやかな鬱屈が如実に感じられます。
【NO.7】斎藤茂吉
『 木立より 雪解のしづく 落つるおと 聞きつつわれは あゆみをとどむ 』
【現代語訳】木立から雪解けのしずくが落ちる音が聞こえたので、私は歩みを止めて耳を傾けた。
【NO.8】伊藤左千夫
『 今朝のあさの 露(つゆ)ひやびやと 秋草や 総(す)べて幽(かそ)けき 寂滅(ほろび)の光 』
【現代語訳】今朝の朝露にひやびやと濡れた秋草よ、そのすべてがかすかに滅びの光を纏っている。
【NO.9】岡本かの子
『 桜ばな いのち一ぱいに 咲くからに 生命(いのち)をかけて わが眺めたり 』
【現代語訳】桜の花が命の限りに咲いている。私もそれを心で感じて眺めよう。
【NO.10】長塚節
『 白銀の 鍼打つごとき きりぎりす 幾夜はへなば 涼しかるらむ 』
【現代語訳】鍼医者が白銀の鍼を刺すように、きりぎりすが毎晩涼しげな声で鳴いている。
知っておきたい!近代有名短歌【後半10選】
【NO.11】北原白秋
『 深々と 人間笑ふ 声すなり 谷一面の 白百合の花 』
【現代語訳】谷一面に咲いている白百合の花たちから、深々と人間を笑う声がするようだ。
【NO.12】正岡子規
『 佐保神の 別れ悲しも 来ん春に ふたたび会はん われならなくに 』
【現代語訳】今年の春と別れるのはつらいことだ。来年の春を迎えられるか分からない身だから。
【NO.13】落合直文
『 霜やけの ちひさき手して 蜜柑(みかん)むく わが子しのばゆ 風のさむきに 』
【現代語訳】冬の木枯らしに吹かれながら霜やけのある小さな手で蜜柑をむく我が子の身を案じる。
【NO.14】島木赤彦
『 みづうみの 氷は解けて なお寒し 三日月の影 波にうつろふ 』
【現代語訳】湖に張った氷が解けてもまだ寒い。三日月の影が波に揺れている。
【NO.15】与謝野晶子
『 清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人 みなうつくしき 』
【現代語訳】清水へ行こうとして祇園を通るとき、桜が月に照らされる今夜に見る人たちは皆美しい。
【NO.16】斎藤茂吉
『 草づたふ 朝の蛍よ みじかかる われのいのちを 死なしむなゆめ 』
【現代語訳】草の上を這う朝の蛍よ、短い己の命をけして死なせるな。
【NO.17】前田夕暮
『 向日葵(ひまわり)は 金の油を 身にあびて ゆらりと高し 日のちひささよ 』
【現代語訳】向日葵が金の油を身に浴びて背が高く輝いている。その先にあるお日様が小さく見えてしまうほどに。
【NO.18】若山牧水
『 吾木香(われもこう) すすきかるかや 秋くさの さびしききはみ 君におくらむ 』
【現代語訳】吾木香、薄、刈萱など秋草の寂しさの極まったものを君に送りましょう。
【NO.19】木下利玄
『 牡丹花は 咲き定まりて 静かなり 花の占めたる 位置のたしかさ 』
【現代語訳】牡丹の花は、静かに咲き定まっている。その花の占める位置の確かさよ。
【NO.20】岡本かの子
『 鶏頭は あまりに赤しよ われ狂ふ きざしにもあるか あまりに赤しよ 』
【現代語訳】鶏頭の花はあまりにも赤く、見ていると私の心が狂いそうになる。
以上、おすすめ近代短歌でした!
近代の短歌には、四季を歌ったものや命について歌ったものが多いと感じました。
命の尊さがテーマとなった歌が多いのは、明治時代から昭和時代にわたって起こった戦争が時代背景にあるからかもしれないですね。
また、昔の短歌と違うのは、短歌に社会的な側面が加わったことです。
時代の進歩を感じますね。近代に起きたことを知ると、短歌に対する理解も深まりそうです。