短歌には「破調」という表現の形があります。
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— 八雲@ただいま。 (@kisaragi_yakumo) April 22, 2016
俳句や短歌が好きな方にとってはよく聞く言葉のひとつかもしれませんが、詩歌作品に触れる機会があまりない方にとっては馴染みのない言葉なのではないでしょうか。
今回は、短歌の「破調」について簡単にわかりやすく解説します。
目次
短歌の破調とは?簡単にわかりやすく解説!
破調の意味
「破調」という言葉そのものには、「調子を破ること・調子が外れること」と言う意味があります。
短歌においては、決まった音律を外すことを言います。
短歌は5・7・5・7・7の31音を定型としていますが、この定型よりも音数が多くなったり少なくなったりすることが「破調」です。
つまり、作者が意図的に字余り・字足らずを取り入れる(=定型を崩す)ことが破調です。
(※「句またがり」がある歌も破調の歌です。一つの句で言葉がおさまらず次の句に続いている場合、音数が31音であっても破調になります。)
破調の効果
字余りや字足らずを効果的に使うこと(破調)で、短歌に独特のリズムが生まれ、短歌に魅力が増します。
特に現代短歌では、字余り・字足らずや句またがりのある歌が多く見られます。短歌に独特のリズムを生む技法として、「破調」はよく使われている表現方法なのです。
破調の歌を作るときの注意点
破調の歌は珍しくないものの、むやみやたらと調子を崩して良いというわけではありません。
短歌は基本的に自由に作ることができるものですが、破調の歌を作るときにはまず基本の「定型」をきちんと押さえておく必要があります。
もっと簡単に言ってしまえば、ずばり「定型っぽく読めるかどうか」です。
字余りでも字足らずでも、句またがりがあっても、声に出して読んだときに「定型っぽいリズムで自然に読める」ことが大切なのです。
例えば、次の歌はどうでしょう。
【例】藪内亮輔
雨はふる、降りながら降る 生きながら生きるやりかたを教へてください
この句の4句目と結句の7・7がどちらも8・8になっています。しかし、一読した感じではさほど違和感は覚えなかったのではないでしょうか。
このように、【定型の短歌のリズムっぽく読めるか=読み手が違和感なく受け取れるか】ということが、破調の歌を作るときのポイントとなります。
破調と自由律の違い
定型にはめ込まない短歌の形として、「自由律」というものがあります。
破調と混同されがちですが、破調と自由律は全くの別物です。
- 破調…31音の定型をもとにして、崩して表現するもの
- 自由律…定型にとらわれず、26音~38音くらいに自在に表現するもの
自由律の短歌は戦前から詠まれており、「新短歌」「未来山脈」といった口語自由律短歌の冊子もあります。参考に、自由律の短歌を紹介します。
- ねえねえ君はどこから来たの? フッとほほえむ赤子の寝顔へ(藤森歩美)
- この様に人の心も熟れたいと 晴れた日の 朝の苺に云いました(光本恵子)
自由ではありながらも、それぞれの作品に独自の整ったリズムがあります。
このように、自由律は破調の歌に似ているようで全く違います。
見分け方としては、「定型をもとにしたものかどうか」に着目しましょう。
【補足】字余り・字足らず、句またがりについて
【字余り・字足らず】
5・7・5・7・7の定型よりも音数が多いものを「字余り」、少ないものを「字足らず」と言います。有名な作品の傾向としては、字余りの短歌は多くありますが、字足らずの短歌はほとんどありません。
〈字余りの例〉飛び散った/人工衛星の(9音)/かけらさえ/宇宙人には/地球の飾り (松木秀)
〈字足らずの例〉あたらしき/墓立つは家/建つよりも/はれやかにわが/こころの夏至(6音)(塚本邦雄)
【句またがり】
「句またがり」とは、一つの句(5音・7音)の中に言葉がおさまらず、次の句へまたがって続くことを言います。独特のリズムを生み出したり、言い回しが読み手の印象に残ったりする効果があります。
〈例〉ハンバーガー/ショップの席を/立ち上がる/ように男を/捨ててしまおう(俵万智)
この歌は句切れがなく、初句から結句まで一気に読むものです。全ての句に句またがりがあると言えますが、特に「ハンバーガーショップ」「立ち上がるように」等が分かりやすいかと思います。
破調を使ったオススメ有名短歌【3選】
【NO.1】正岡子規
『 瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり 』
机の上の花瓶にさした藤の花は今を盛りの美しさだけれども、その垂れ下がっている花ぶさが短いので、ほんの少しの所で畳の上に届かないでいる。そのような情景を詠んだ歌です。前書きとして「仰向けに寝ながら左の方を見れば机の上に藤が活けられ、今が盛りの有様なり」とあります。正岡子規は死の前年にこの歌を詠んでおり、「みじかければ」は自分の健康状態を、「とどかざり」は何も出来ないことを暗示しています。3句目の「みじかければ」が6音で破調しています。ここでリズムが少し崩れますが、藤の花ぶさの絶妙な長さが印象に残る歌となっています。
【NO.2】宮柊二
『 群れる蝌蚪の卵に春日さす生れたければ生れてみよ 』
蝌蚪とはカエルのことです。カエルの卵がぐにゃぐにゃと池の中にあり、そこに春日が差しているのを見て、「おたまじゃくしよ、生まれたければ生まれてみよ」と投げかける歌です。結句の「生まれてみよ」が6音で破調しています。字足らずで短く言い切ることによって、語気の強さを見事に表しています。生命が誕生しようとするエネルギーが本物ならばそれを実証してみよ!と、命の持つ可能性を問う歌です。作者の宮柊二は努力という言葉が好きだったという話もあり、「生まれるために自分で努力してみろ」という強いメッセージなのかもしれません。
【NO.3】葛原妙子
『 晩夏光おとろへし夕 酢は立てり一本の壜の中にて 』
夏の終わり。薄暗くはなったけれどまだ空には夏の光の名残が残る台所で、酢の瓶がまるで消えゆく光を集めるかのように立っている。ただそれだけの情景を詠んだ歌ですが、とても印象的な一首です。初句から6・8音の破調、一字空けて「酢は立てり」の5音で句切れがあります。その後5・7と続く韻律も印象的です。
さいごに
今回は、短歌の「破調」について解説しました。
定型を崩す「破調」は決してルール違反ではなく、とても一般的な表現方法であるということがお分かりいただけたでしょうか。
破調をうまく取り入れることで、歌の雰囲気そのものや歌から広がる想像をさらに豊かにすることができます。