【蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと】徹底解説!!意味や表現技法・句切れ・鑑賞文など

 

短歌は、作者が感じたことや考えたことを5・7・5・7・7の31音で表現する定型詩です。

 

日本特有の「短い詩」は、あの『百人一首』が作られた平安時代に栄えていたことはもちろん、古代から1300年を経た現代でも多くの人々に親しまれています。

 

今回は、第1歌集『サラダ記念日』が社会現象を起こすまでの大ヒットとなり、現代短歌の第一人者として今なお活躍する俵万智の歌「蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」をご紹介します。

 

 

本記事では、蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」の意味や表現技法・句切れ・作者について徹底解説し、鑑賞していきます。

 

「蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」の詳細を解説!

 

蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと

(読み方:だこうする かわにはだこうの りゆうあり いそげばいいって もんじゃないよと)

 

作者と出典

この歌の作者は「俵万智(たわら まち)」です。

 

短歌界ではもちろん、短歌にあまり詳しくない人でも、日本ではほとんどの人が名前を知っていると言って過言ではないくらい有名な歌人です。分かりやすい言葉選びで表現した短歌は、誰にでも親しみやすく、それでいて切り口が斬新で、今も多くの人の心を掴んでいます。

 

また、出典は『チョコレート革命』です。

 

チョコレート革命は『サラダ記念日』(1987年)、『かぜのてのひら』(1991年)に続き、19975月に出版された俵万智の第3歌集です。不倫を思わせる「許されない恋の歌」が多数収められていることが話題となり、36万部を売り上げました。1998年にはNHK BS2でドラマ化されるなど、歌集にとどまらず俵万智の名をさらに世の中に示すこととなった1冊です。

 

現代語訳と意味 (解釈)

 

この歌は現代語で詠まれているため、読み手がそのまま意味を捉えられるものです。あえて噛み砕いて書き直すとすると、次のような内容になります。

 

「蛇行して流れている川には、蛇行している理由がある。『急げばいいってもんじゃないよ』って(言われているみたいだ。)」

 

では、語の意味や文法を確かめながら、この歌の真意を読み取っていきましょう。

 

文法と語の解説

「蛇行する川には」

「蛇行」は、へびのようにくねくね曲がって進むことです。「には」は格助詞「に」+係助詞「は」です。まっすぐ流れたほうが早く進むところを、何度も曲がりながらゆっくりと流れているのが、川の意志であるかのように表現しています。

 

「蛇行の理由あり」

「蛇行の」の「の」は格助詞ですが、「する」という動詞が省かれており、詳しく書くと「蛇行(するだけ)の理由」ということを表しています。また、「理由」のあとに「が」が省略されています。

 

「急げばいいってもんじゃないよと」

「急げばいいってもんじゃないよ」までは会話文で、川が話している言葉として書かれています。最後の「と」は格助詞で、思考や発言の内容・引用を表しています。平たくすると「~だってさ。」というような意味合いです。

 

「蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」の句切れと表現技法

句切れ

この歌は三句切れです。

 

前半の3句で「蛇行する川にはそれなりの理由があるんだ」ということを示し、4句と結句では川が話している(ような)ことを詠んでいます。

 

字余り

この歌は2句目と4句目が、7音になるところを「8音」にしています。

 

歌を詠んで自然にできたもので、表現的効果を狙ったものではないと考えられます。

 

句またがり

4句から5句にかけて、「急げばいいってもんじゃないよ」という台詞がまたがっています。

 

擬人化

下の句の「急げばいいってもんじゃないよ」という台詞を、川が話しているように書かれています。川は実際には言葉を話しませんから、作者の想像で川が擬人化されているのですね。

 

口語と文語の併用

上の句が文語調、下の句が口語調になっています。上の句の「理由あり」のような硬い表現とは違い、下の句では「いいってもんじゃない」と、日常会話で使う砕けた表現になっています。

 

「蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」が詠まれた背景

 

この歌が最初に収録されたのは第3歌集の『チョコレート革命』です。作者が28歳~34歳の間に詠んだ歌が収められており、「蛇行する…」の歌は「湿原の時間」という章に収められています。

 

歌集を出すまでの6年間に、作者は「印象に残る旅がいくつもあった」と語っており、章の名前の「湿原」はおそらく釧路湿原のことだと考えられます。

 

 

いくつもの旅の中で実に多くのことを体験し、学び、感じたようで、あとがきでは次のように記されています。

 

これらの体験から得た地球規模の視野を、私は短歌の畑として、耕してゆきたいと思っている。

(『チョコレート革命』p.164あとがきより)

 

「蛇行する…」の歌も、釧路湿原を訪れた際に川の様子を見て感じたことを歌に詠んだのだと考えられます。

 

「蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと」の鑑賞

 

【蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよと】は、曲がりくねって進む川に人生の考え方を諭されるような歌です。

 

蛇行する川とは、右に左にくねくねと何度も曲がりくねった川のこと。作者が歌を詠んだとされる釧路湿原の「釧路川」も蛇行して流れる大きな川です。

 

 

曲がらずまっすぐに流れたほうが、海まで早くたどり着きそうなものですが、川はくねくねと曲がりながら、ゆるやかに流れている。まるで川が「急げばいいってもんじゃないよ」と言っているように感じられます。

 

人は様々な場面で「急がなきゃ」「早くゴールしたい!」といった焦る気持ちになることがあります。そんな焦る気持ちに、「ゆっくり行こうよ」「急ぐよりも大切なことがあるかもよ」と、川が教えてくれている・・・そんな一首です。

 

作者「俵万智」を簡単にご紹介!

 

俵万智(たわら まち)は、1962年(昭和37年)大阪府門真市出身の歌人です。

 

13歳で福井に移住し、その後上京し早稲田大学第一文学部日本文学科に入学しました。歌人の佐佐木幸綱氏の影響を受けて短歌づくりを始め、1983年に、佐佐木氏編集の歌誌『心の花』に入会。大学卒業後は神奈川県立橋本高校で国語教諭を4年間務めました。

 

1986年に作品『八月の朝』で第32回角川短歌賞を受賞。翌年の1987年、後に彼女の代名詞にもなる、第1歌集『サラダ記念日』を出版します。同年「日本新語・流行語大賞」を相次ぎ受賞し、『サラダ記念日』は第32回現代歌人協会賞を受賞しています。

 

高校教師として働きながらの活動でしたが、1989年に橋本高校を退職。本人曰く、「ささやかながら与えられた『書く』という畑。それを耕してみたかった。」とのことで、短歌をはじめとする文学界で生きていくことを選んだそうです。

 

その後も第2歌集『かぜのてのひら』、第3歌集『チョコレート革命』と、出版する歌集は度々話題となりました。現在(2022年)は第6歌集まで出版されています。短歌だけでなくエッセイ、小説など活躍の幅を広げています。現在も季刊誌『考える人』(新潮社)で「考える短歌」を連載中。プライベートでは200311月に男児を出産。一児の母でもあります。

 

「俵万智」のそのほかの作品