【4月の短歌(和歌)集 20選】おすすめ!!知っておきたい 4月らしい有名作品を紹介!

 

花が咲き誇り、みなさんにも新しいシーズンが始まるのが「4月」。

 

4月といえば、入学式や進学、入社式など・・・新しい環境が始まる時期ですね。

 

今回は、そのような4月らしさを詠んだ短歌(和歌)から昔と現代の作品からお勧めのものを10選ずつ、全20選をご紹介いたします。

 

短歌職人
ご自身の感性に近い短歌を見つけ、短歌作りの参考にしてください!

 

4月の有名短歌(和歌)集【昔の短歌(和歌) 10選】

 

まずは昔の短歌(和歌)から有名なものを10選ご紹介いたします。

 

春はやはり花が咲く季節、4月の花を詠んだものから始めましょう。

 

【NO.1】兼明親王

『 七重八重 花は咲けども 山吹の みのひとつだに なきぞ悲しき 』

意味:山吹は花は七重にも八重にも咲くけれど「実のひとつ」もつけることができません。うちにも「みの(蓑)ひとつ」さえないのが悲しいことです

短歌職人
山吹は4月の季語です。後拾遺和歌集に収められている短歌ですが、この歌には逸話があります。室町時代の武将・太田道灌が農家で蓑を借りようとした際、そこの娘に山吹の枝を差し出された意味がわからず怒ってしまい、後にその意味がわかって以来歌道に励んだとのこと。

 

【NO.2】藤原家隆

『 吉野川 岸の山吹 咲きにけり 峰の桜は 散りはてぬらむ 』

意味:吉野川の岸に山吹が咲きました。山頂の桜は散り終わっているだろうなあ。

短歌職人
山吹が咲くと山の桜は散り終わっている頃だという、花の咲く時期や順番を知っていることも歌人にとって大事な教養であるのでしょうね。

 

【NO.3】詠み人知らず

『 春へ咲く 藤の末葉(うらは)の うら安に さ寝る夜(よ)ぞなき 子ろをし思へば 』

意味:春に咲く藤のうらはのようなあのこを思う夜は心安らかに眠れません

短歌職人
「うらは」というのは枝先の葉っぱのことです。美しい花そのものではなく葉っぱに例えたところが憎いですね。「うら」が繰り返されているのがテンポよく気持ちの良い語感です。

 

【NO.4】紀貫之

『 暮れぬとは 思ふものから 藤の花 咲ける宿には 春ぞ久しき 』

意味:春は過ぎてしまったと思っても藤の花が咲いている家にはまだまだ春の趣が続いているよ

短歌職人
言葉通りだとどうも違和感がありますね。実はこの「藤」は「藤原氏」をさしており、職業歌人であった紀貫之がごますりのために作った歌だと言われています。勤め人の辛い性ですね。

 

【NO.5】藤原良平

『 散る花の 忘れ形見の 峰の雲 そをだに残せ 春の山風 』

意味:散ってしまった花の忘れ形見である、峰にかかっている雲だけは残しておいてくれ春の山風よ

短歌職人
ここの「花」は桜で、散るのは4月。山にかかる雲は遠くから花のように見えるという表現はたくさんの歌に使われています。それを花の「忘れ形見」に見立てているところが風流ですね。

 

【NO.6】紀貫之

『 春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ 』

意味:春の野に若菜を摘もうとやってきた場所だが、どこからともなく花が散ってきて積もり道がわからなくなってしまった

短歌職人
「若菜」は早春、「散りかふ花」は晩春なので季節が重なっているようですが、若菜を摘もうとしたのは過去で、今は道を覆うほどの花が散っているので晩春の歌と言えます。

 

ここからは花以外で4月を感じるものをご紹介していきます。

 

【NO.7】大伴家持

『 うらうらに 照れる春日に ひばり上がり 心悲しも 一人し思へば 』

意味:うららかに照っている春の日の中ひばりが飛んで上がっていくよ。心悲しいものだなあ、一人で物思いにふけっていると。

短歌職人
自分の物思いと春の日差しにピーチクと賑やかに歌いながら飛び上がっていくひばりを倒置法で対象的に表現しています。とはいえひばりも縄張りを守るために必死で鳴き示しているのですけどね。

 

【NO.8】山部赤人

『 須磨の海女の 塩焼き衣(きぬ)の なれなばか 一日(ひとひ)も君を 忘れて思はむ 』

意味:須磨の海女の塩焼きの時に着る着物のように馴染んだならばあなたをたった1日たりとも忘れることはありません

短歌職人
海女が4月を表しています。「なれなばか」とは聞き慣れない語ですが、馴染んだならば、という仮定形です。「塩焼き」は海水を焼いて塩を取り出す重労働なので着物がヨレヨレになってしまうのですね。美しくはない例えですが、あなたにそのくらい馴染んだ、と言われれば嬉しいのかもしれません。

 

次は万葉集の中から、松浦の地を訪れた大伴旅人たちが宴の席で「松浦河に遊ぶ」と題して歌遊びをして詠まれた一首とその返歌です。

 

【NO.9】詠み人知らず

『 遠(とほ)つ人 松浦の川に 若鮎(わかゆ)釣る 妹(いも)が手本(たもと)を われこそ巻かめ 』

意味:遠い人を待つ松浦の川で若鮎を釣るあなたの腕を私こそ枕として寝たいものだ

短歌職人
なんと大胆な求愛の歌ですね。「待つ」と「松」の掛詞もうまく、男が娘にちょっかいを出している戯れ歌であることはわかっているものの、こういう色っぽい歌のやりとりも面白い遊びなのです。

 

【NO.10】詠み人知らず

『 若鮎(わかゆ)釣る 松浦(まつら)の川の 川なみの なみにし思(も)はば 我れ恋ひめやも 』

意味:若鮎を釣る松浦川の川波の「並み」くらいの思いならば、これほど私はあなたに恋い焦がれるでしょうか

短歌職人
9の歌への娘子役が詠んだ返歌なのですが、「波」と「並」をかけて詠むとは見事な切り返しです。きっと宴会は大盛り上がりだったことでしょう。

 

4月の有名短歌(和歌)集【現代短歌 10選】

 

次は明治以降の現代短歌から10選ご紹介いたします。

 

ソメイヨシノよりも遅く4月に咲く「山ざくら」をこよなく愛した若山牧水の歌2首から花ものを続けてご紹介します。

 

【NO.1】若山牧水

『 花も葉も 光りしめらひ われの上に 笑みかたむける 山ざくら花 』

意味:花も葉も一日中光り輝いて私の上から微笑みかけているような山ざくらの花だ

短歌職人
「しめらひ」は「しみらに」と同意で一日中の意味です。自分の愛する花が一日中周りで咲き光っているという情景に、幸せを感じている気持ちが溢れています。

 

【NO.2】若山牧水

『 うらうらと 照れる光に けぶりあひて 咲きしづもれる 山ざくら花 』

意味:ゆらゆらと光に照らされて、山ざくらの花びらが静かに立ち上るように舞い上がっているよ

短歌職人
大友家持の「うらうらと照れる春日にひばりあり〜」という上の句を元に作られていますが、「けぶりあひて」と「しづもれる」で花びらの幽玄さがよく表されています。「照れる光」は陽の光と捉えるのが自然ですが、月光かもしれないと想像するとまた違った趣になりますね。

 

【NO.3】小池光

『 黒雲の したに梨の花 咲きてをり いまだにつづく 昭和のごとく 』

意味:黒い雲の下に梨の花が咲いているよ。いまだに続いている昭和のように

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梨の花はバラ科4月に咲く、桜にも似ている小さな白い花です。それが対象的な黒い雲の下で、長く続いた昭和からこれが詠まれた平成に時代が変わっても同じように咲き続けている姿を見て、ノスタルジーのようなものを感じたのでしょう。

 

【NO.4】正岡子規

『 人住まぬ いくさの後の崩れ家 杏の花は咲きて散りけり 』

意味:人も住んでいない戦いの後の崩れた家に杏の花が咲き散っているよ

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杏の花もバラ科で3−4月に咲きます。薄紅色の可愛らしく健気な花が「人住まぬ」荒れた「崩れ家」に咲いて散っているという画としてのアンバランスさと人の世の無情さも伝わります。

 

【NO.5】正岡子規

『 瓶(かめ)にさす 藤の花ぶさ みじかければ たたみの上に とどかざりけり 』

意味:花瓶に挿している藤の花房が少し短くてたたみの上に届いていない

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彼が病床に臥せっている時に書かれた有名な短歌のひとつで、花瓶にさされた藤が短くてたたみに届かない、その少しの空間に心を寄せているのが臥せている子規ならではの視点です。

 

【NO.6】河野裕子

『 振りむけば なくなりさうな 追憶の ゆふやみに咲く いちめんの菜の花 』

意味:振り向けばなくなってしまいそうな過去の思い出の中で、夕闇の中で一面に咲いている菜の花よ

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結句の字余りはどうしても削れない9音なのでしょう。「追憶」や「ゆふやみ」で暗いグレーなイメージからぱっと場面転換のように現れる一面の黄色い菜の花。しかし「なくなりそう」と、どこかぼんやりとしているところが夢のような余韻を残しています。

 

ここからは花以外で4月を感じる短歌にいきましょう。

 

【NO.7】吉川宏志

『 画家が絵を 手放すように 春は暮れ 林の中の 坂をのぼりぬ 』

意味:画家が絵を手放すように春の長日が暮れた林の中の坂をのぼっていくよ

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春の暮れが4月を表しています。「画家が絵を手放す」とは独創的な比喩ですね。自分で作り上げた大事なものを手放す寂しさと嬉しさと入れ間違った気持ちが、夕暮れの色として表されているようです。

 

【NO.8】俵万智

『 菜種梅雨 やさしき言葉 持つ国を 歩む一人の スローモーション 』

意味:春の小雨が続く中、優しい言葉が使われているこの国を一人でスローモーションのようにゆっくり歩いているよ

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しとしと長雨が降っている春先に、一人でゆったりとお散歩している感じですね。どこからか「やさしき言葉」が聞こえてきてああ、この国の言葉はいいなあと改めて思ったのでしょう。

 

【NO.9】前田夕暮

『 木に花咲き 君我が妻と ならむ日の 四月なかなか 遠くもあるかな 』

意味:木々に花が咲く頃、あなたが私の妻になる4月がなかなかに待ち遠しく感じることだ

短歌職人
4月の自分の結婚式が待ち遠しい気持ちが「なかなか」に込められていますね。「木に花咲き」と自分の人生に「妻」という花が咲くことを連想させているようです。

 

【NO.10】斎藤茂吉

『 山がはの 岸の浅処(あさど)に 鮎の子か 群れつつをるは しばし安けし 』

意味:山側の岸の浅いところに鮎の子だろうか、群れているのはしばらくの間は平穏だなあ

短歌職人
「鮎の子」が4月らしいところです。秋に川で孵化した鮎の子は一旦海に出た後4月ごろに遡上を開始し、そのまま川で大きくなって秋に産卵するのです。ですから浅い山側の岸辺で群れている姿は遡上してしばらく落ち着いている「安けし」状態、なのですね。

 

以上、4月の有名短歌集でした!

 

4月は花真っ盛りですが花以外の歌も趣がありましたね。

 

まずは4月に自然に咲いている花の中でお気に入りのものを見つけて、その形や咲いていた場所などについて短歌にして詠んでみるのはいかがでしょうか?

 

短歌職人
ぜひ4月をテーマにした短歌作りチャレンジしてみてください!