夢は記憶の整理とも欲求の表れとも言われますが、現実では起こりえないようなことでも実際の経験のように感じられる不思議な現象です。
古代では現実で会えない恋人が会いに来てくれるものだと信じられ、現代でも心象状態を判断する材料ととらえる考え方もあります。
今回は、そんな「夢」を題材にして詠まれた短歌・和歌を20首紹介します。
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短歌職人
有名なものから一般の方が作ったものまで幅広く紹介していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
夢をテーマにした有名短歌【おすすめ10選】
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まずは古代から近代までの有名歌人が詠んだ夢の和歌・短歌を10首ご紹介します。
【NO.1】大伴家持
『 思はぬに 妹が笑まひを 夢に見て 心のうちに 燃えつつぞ居る 』
【意味】思いがけずあなたの笑顔を夢に見て、心の中で恋の炎が燃えている。
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古代では夢は自分を慕っている人が会いに来るものだと考えられていたので、作者は「あの子は自分を好きなんだ」と思ったのでしょう。そして自分も意識してしまったという、男性の初々しい心が詠まれています。
【NO.2】大伴家持
『 夕さらば 屋戸開けまけて 我待たむ 夢に相見に 来むといふ人を 』
【意味】夕暮れには戸を開けて待とう、夢で会いに来ようという人を。
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恋人から今夜夢に会いに行くと言われて、彼女が入って来やすいように戸を開けて寝ることにした様子です。わくわくしながら寝床に入ったのでしょうが、わくわくしすぎて寝付けなかったのではと心配です。
【NO.3】伊勢
『 見し夢の 思ひ出でらるる 宵ごとに 言はぬを知るは 涙なりけり 』
【意味】宵には見た夢を思い出してしまう、誰にも言えない気持ちを知っているのは涙なのだ。
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夜が近付くたびに夢の内容を思い出して涙しているという歌です。誰にも言えない恋をしているようで、相手とは夢では会えても現実ではそうはいかないのでしょう。私の想いを知っているのは涙だけという切なさが伝わります。
【NO.4】小野小町
『 うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき 』
【意味】うたたねをして恋しい人を夢に見てから、夢を頼りにし始めた。
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恋しい人の夢を見て、夢でなら会えるのだと気付いた作者はそれ以来「夢で会えますように」と願って眠っていたのかもしれません。現実では会えない相手なのでしょう。いじらしい恋心を詠んだ歌です。
【NO.5】藤原敏行朝臣
『 住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通い路 人目よくらむ 』
【意味】住の江の岸に寄せる波のように会いたいのに、何故あなたは夢の道も人目を避けて通って来てくれないのだ。
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自分は繰り返し寄せる波のように常に会いたいのに、相手は一向に夢に現れてくれない、きっと人目を避けているのだと作者は感じているようです。第三句の「よる」は「夜」と「寄る」の掛詞で、日中だけでなく夜さえ会ってくれないという恨めしい気持ちが表れています。
【NO.6】石川啄木
『 を枕よ こよひの夢は かたらざれな うらみうれたみ さてはうれしの 』
【意味】枕よ、今夜見る夢について話さないでくれ、恨み、怒り、または喜びなのか。
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今夜これから見る夢の内容をまだばらさないでくれと枕に語りかける歌です。作者は恨みや怒りを感じるような夢をよく見ていたのかもしれません。第五句の「さては」には嬉しく楽しい夢を期待する気持ちを感じます。
【NO.7】樋口一葉
『 誰が夢を 出でてきぬらん 桜花 匂へる園に 遊ぶこてふは 』
【意味】誰の夢を抜け出て来たのだろう、桜の香る園に遊ぶ胡蝶は。
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中国の古典に、夢を見ている自分が蝶になって飛んでいるという内容のものがあります。作者は蝶を見て、誰かの夢の中から抜け出てきたと想像したのでしょう。桜の花が香る春の園を飛びまわるとは、その誰かはさぞ気持ちのいい夢を見ていることでしょう。
【NO.8】斎藤茂吉
『 午前二時 ごろにても ありつらむ 何か清々しき 夢を見てゐし 』
【意味】午前2時頃だったか、何か清々しい夢を見ていた。
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「何か清々しき」とあるので、夢の具体的な内容は覚えていないのかもしれません。しかし清々しい、良い夢だったことだけは分かるというところが夢らしく、現実味があって共感しやすい歌です。
【NO.9】寺山修司
『 わがカヌー さみしからずや 幾たびも 他人の夢を 川ぎしとして 』
【意味】我がカヌーは寂しくないのだろうか、幾度も他人の夢を川岸にして。
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他人の夢から夢へと漂着しては離れて川を行くカヌーを想像して詠まれた幻想的な歌です。カヌーは作者自身の投影かもしれません。「カヌー」という言葉が西洋風で現実離れした感じを深めています。
【NO.10】穂村弘
『 夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう。 』
【意味】夢の中では光ることと話すことは同一のこと、お会いしましょう。
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「光ること」と「喋ること」は全く違うことですが、夢の中では同じになり得る、どんな不思議も起こるのだと作者は思ったのではないでしょうか。現実では会えない相手とも会える、だから「お会いしましょう。」と誘っているのかもしれません。
夢をテーマにした一般短歌ネタ【おすすめ10選】
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ここからは一般の方が詠んだ夢の短歌を10首紹介していきます。
【NO.1】
『 僕が気を 許さなかった 友達が 夢に出てきて その次の日も 』
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仲良しではない同級生などが夢に出てきた経験のある人は多いのではないでしょうか。二晩も続けてその人の夢を見て、何でその人がと首をひねっている作者の姿が想像されます。
【NO.2】
『 夏風邪の 熱に浮かされ 見る夢の 色は恋する 気持ちに似てた 』
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夏風邪をひいて熱くふわふわとした感覚のまま眠り夢を見たのでしょう。熱に浮かされて頭がぼーっとする感覚と恋は確かに似ているかもしれず、面白いたとえだと感じます。夢の色は何色だったのでしょうか。
【NO.3】
『 いつも見る 夢が怖くて 眠れない 無人の教室 夜の仏像 』
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「無人の教室」と「夜の仏像」というつながりのない事柄がでてくるところが夢らしく、それらを後半に体言止めで持ってくることで不気味な印象を残すホラーテイストな一首です。
【NO.4】
『 我はバク 夢を喰らって 生きている 歯を磨いたら 食後の散歩 』
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伝説上のバクは悪夢を食べる動物とされています。このバクも人間の悪い夢を食べてくれたのでしょう。歯を磨いて食後の運動をしていることから、たくさん食べてくれたことや食べて満足な様子が想像されます。
【NO.5】
『 真夜中の ホットミルクに 願掛ける 優しい夢だけ 見れますように 』
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寝る前にホットミルクを飲むと体が温まり、牛乳の成分によって安眠できると言います。ぐっすり眠りたいという作者の気持ちが伝わり、また「ホットミルク」という言葉が歌全体を優しい印象にしています。
【NO.6】
『 ゆっくりと 浮上してゆく 朝だった 見ていた夢は 思い出せない 』
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「眠りに落ちる」という言葉があります。作者は深い眠りの底から朝に向けてゆっくりと浮上し、穏やかな目覚めを迎えたのでしょう。何かの夢を見たけど何だっけ?と思っている様子が想像されます。
【NO.7】
『 夢で見た ぽっかり浮かぶ 青い島 そのまま僕を 置いてゆければ 』
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夢で見た風景が印象的で目覚めた後もはっきりと覚えているのですね。「青い島」は作者にとって癒されるような場所だったのでしょう。そこで暮らして行きたいなと感じたのかもしれません。
【NO.8】
『 そういえば 昨夜あなたの 夢を見た 正夢ならば 僕に惚れます 』
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現実で「あなた」の顔を見て夢の内容を思い出したのかもしれません。「惚れます」という敬語が予言のような雰囲気を出していて、作者の期待と恋心が伝わります。
【NO.9】
『 窓光り 雷鳴激し 夜を寝れば 悪夢吉夢が 相半ばする 』
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作者は落ち着いて眠れずに、浅い眠りの中で複数の夢を見たのでしょう。「相半ばする」という表現が、目覚めた時に複数の夢が入り交じって思い出されたことを思わせます。
【NO.10】
『 悪夢など 所詮は夢の 中のこと 日向選びて 尾根道ぽくぽく 』
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悪い夢を見ても気にしないおおらかな性格がうかがえます。悪夢と日向の明るさが対比となって、「ぽくぽく」と歩くオノマトペとともに歌をのどかで穏やかな印象にしています。
以上、夢を題材にしたおすすめ短歌集でした!
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見た夢を記録する「夢日記」というものがありますが、自分の夢の内容や印象を短歌にして残しておくのもおすすめです。
また、過去に見た夢で忘れられないようなものがあれば、それを短歌で表現してみてもいいでしょう。
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夢をテーマにした短歌に興味を持ったという人は、ぜひ夢の内容や夢について思うことなどを短歌で表現してみてください。