【儚さを詠った短歌&和歌 20選】人の命や時の移り変わり…心に響く短歌集を紹介

 

「儚さ」とは物事が長く続かずにあっけなく無くなってしまう様子や、もろくて壊れやすいことを表す言葉です。

 

日本人は「儚さ」に哀愁や愛着を感じやすく、昔から儚いものを好んできました。短歌や和歌でも「儚さ」は非常に多くの作品で題材にされています。

 

今回はその中から、「儚さ」を歌ったおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介していきます。

 

 

短歌職人
ぜひ一緒に鑑賞してみましょう。

 

儚さを詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】

 

短歌職人
まずは、明治から現代までの儚さを歌った短歌を10首紹介します。後半は平安時代から戦国時代までの和歌を紹介います。

 

【NO.1】石川啄木

『 いのちなき 砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の あひだより落つ 』

【意味】命のない砂の悲しいことよ、握れば指の間からさらさらと落ちる。

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握ろうとしても実体がなくつかめない虚しさや悲しさが表現されています。さらさらと落ちる砂は砂時計を連想させ、過ぎ去って戻らない時や、移りゆくものへの悲しさも感じさせます。

 

【NO.2】北原白秋

『 消え易き 花火思へば 短夜(みじかよ)は 玉とうちあがる 青き蓋 』

【意味】消えやすい花火を思えば短い夜は玉のように打ちあがる青い蓋。

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「蓋(きぬがさ)」とは身分の高い人に差し掛ける傘のことです。「青き蓋」とは花火の上がった夜空を指しているのでしょう。すぐに消えてしまう花火と短い夜という二つの儚さが詠み込まれた歌です。

 

【NO.3】萩原朔太郎

『 名なし小草 はかな小草の 霜ばしら 春の名残と ふまむ二人か 』

【意味】名もない小草、はかない小草の霜柱を春の名残と踏む二人か。

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春の遅霜といって4月や5月になって冷え込み霜がおりることがあります。名もないような小さな草の霜柱の頼りなさと、踏むとたやすく壊れて消えてしまう霜の儚さを感じる歌です。

 

【NO.4】伊藤左千夫

『 世のなかに 光も立てず 星屑の 落ちては消ゆる あはれ星屑 』

【意味】世の中には光りもしない星屑があって落ちて消えていく、星屑のあわれなことよ。

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命を星にたとえた歌です。世の中には人から注目されずに終わる命があって、その人生は流れ星のように一瞬のこと。それを悲しいとしながらも作者は愛情をもって見つめているのだと伝わります。

 

【NO.5】若山牧水

『 病みぬれば 世のはかなさを とりあつめ 追わるるがごと 歌につづりぬ 』

【意味】病気になれば世の中の儚いことを取り集めて追われるように歌につづった。

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病気にかかって自分はもう長くないと感じた時、作者は時間に追われるように歌を作ったのでしょう。世の中は儚いことばかりで自分の命もそうだが、歌に残しておけば消えないのではないかと作者は願ったのではないでしょうか。

 

【NO.6】斎藤茂吉

『 よひ闇の はかなかりける 遠くより 雷とどろきて 海に降る雨 』

【意味】儚い宵闇の遠くで雷がとどろいて海に雨が降る。

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夜になろうとする暗闇の中で遠くから雷鳴が聞こえて雨が降り出したという内容です。暗さを儚いものと表現することで心細く頼りない気持ちを表し、作者の不安な心情を印象づけています。

 

【NO.7】宮柊二

『 蝋燭の 長き炎の かがやきて 揺れたるごとき 若き代過ぎぬ 』

【意味】蝋燭(ろうそく)の長い炎が輝いて揺れているような若い時代は過ぎた。

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ろうそくの火が一瞬揺らぐ様子に自信の若い頃をたとえた歌です。青春は一瞬にして過ぎる儚いものとしながら輝いているとも表現していて、懐かしむ気持ちも感じられます。

 

【NO.8】岡本かの子

『 桜ばな いのち一ぱいに 咲くからに 生命をかけて わが眺めたり 』

【意味】桜の花が命いっぱいに咲くから、命をかけて私も眺めるのだ。

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作者は桜が命をかけて短い時を咲いているように思ったのでしょう。そして精一杯咲く桜にこたえるように自分も命をかけて桜を見つめています。儚い桜の花に自分の命を重ね合わせて見たのではないでしょうか。

 

【NO.9】荻原裕幸

『 チョコレートのやうにたやすく八月のあの風景も折れて曲がつた 』

【意味】チョコレートのようにたやすく8月のあの風景も折れて曲がった。

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「8月のあの風景」は夏の思い出のひと場面なのでしょうか。すぐに溶けて形を保っていられないチョコレートを比喩に使って、思い出とは儚いものだと言っているようにも感じられます。

 

【NO.10】佐藤弓生

『 パパの手は煙となって ただいちど春の野原で受けた直球 』

【意味】パパの手は煙になっていった、ただ一度春の野原で直球を受けたあの手。

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恐らくお父さんは亡くなったのでしょう。一度だけ春の野原でキャッチボールをしたのでしょうか。「直球」という力強さが「煙になって」という儚さと対比になり、思い出が切なく描写されています。

 

儚さを詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】

 

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次に、平安時代から戦国時代までの儚さを歌った和歌を10首紹介します。

 

【NO.11】僧正遍昭

『 末の露 もとの雫や 世の中の おくれさきだつ ためしなるらむ 』

【意味】木の葉先の露、幹の雫よ。世の中は後か先かというだけの話だ。

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露も雫(しずく)もすぐに消えてしまうもので、世にあるものは皆そのように儚いのだという歌です。消えて無くなるのが早いか遅いかの違いがあるだけという無常観が表れています。

 

【NO.12】詠み人知らず

『 世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ 』

【意味】この世は夢か現実か、現実とも夢とも分からず、あってないようなものだ。

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自分の今生きている現実はここにあるけれども、一瞬の後には無くなって過去になる、それは夢のように実態がないものだと作者は考えたのかもしれません。確かなものなど存在しない儚さを感じさせる歌です。

 

【NO.13】紀友則

『 久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ 』

【意味】春の日差しがのどかなのに桜は心も落ちつかずに散っていくのだろうか。

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のどかな春の日と散り急ぐ桜が静と動で対比となり、桜を惜しむ気持ちを強調しています。作者はすぐに散ってしまう桜を惜しみ、その儚さを愛情をもって見つめているのでしょう。

 

【NO.14】藤原忠通

『 風吹けば 玉散る萩の 下露に はかなく宿る 野辺の月かな 』

【意味】風が吹けば玉となって散る萩の露に野の月が儚く宿っている。

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萩の葉から夜露が風に飛ばされて玉のように散るというだけでも儚いですが、作者は更に露に一瞬映った月を見ています。瞬間的に消えてしまう儚さをクローズアップした美しい歌です。

 

【NO.15】小野小町

『 あはれなり わが身のはてや あさ緑 つひには野辺の 霞と思へば 』

【意味】あわれなことよ。わが身は最後には薄緑の煙になって野辺の霞になると思えば。

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自分も最後には火葬されて煙となり霞となって漂うのだという内容です。どんな人間でも最後はみな同じ、富も栄華も無くなって霞になるだけという人生の儚さや諸行無常が感じられます。

 

【NO.16】能宣朝臣

『 蘆鴨の 羽風になびく 浮草の 定めなき世を 誰か頼まむ 』

【意味】蘆鴨(あしがも)の羽になびく浮草のように不安定な世の中を誰が頼りにするだろうか。

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カモの羽に付いた浮草はちょっとしたことで取れて水に流れてしまうでしょう。世の中はそんな浮草のように不確かなものという歌です。第五句は「頼りにする人などいない」という反語になっています。

 

【NO.17】西行

『 これや見し 昔住みけむ 跡ならむ よもぎが露に 月のかかれる 』

【意味】これが私が昔住んでいた家の後なのか。よもぎの露に月が映っている。

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以前に住んでいた家を訪ねると荒れ果てて草が生えていたという内容です。よもぎの葉の露に月が映っているという情景が儚く、作者の驚きと、変わらないものなどないのだという無常の思いを感じます。

 

【NO.18】壬生忠岑

『 夢よりも 儚きものは 夏の夜の 暁がたの 別れなりけり 』

【意味】夢よりも儚いものは夏の夜が明ける時の別れなのだよ

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夏の夜は短く、すぐに夜が明けて日が昇ります。この歌は作者が恋人と夜に密会し、あっという間に別れの朝がきたことを詠んだものです。別れのひと時は一瞬で夢よりも儚い、そんな切なさが歌われています。

 

【NO.19】待賢門院堀河

『 儚さを わが身の上に よそふれば 袂にかかる 秋の夕露 』

【意味】儚さをわが身にたとえてみれば、袂にかかる秋の夕の露のようなものだ。

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「袂(たもと)」は和服の袖の下の部分です。草などに袖が触れて付いた露のように、すぐにこぼれて消えてしまう儚さを詠んだもので、古来から「露」は儚いものの代名詞として使われる言葉でした。

 

【NO.20】豊臣秀吉

『 露と消え 露と散るぬる わが身かな 浪華の事は 夢のまた夢 』

【意味】露のように消えて露のように散ったわが身だよ。浪華の出来事は夢のまた夢。

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秀吉の辞世の句として伝わる歌です。激動の人生を生きて天下人にまで上り詰めた秀吉も、一生を振り返ると夢のようにあっという間で儚く、自分は露のように消えていくのだと感じたのかもしれません。

 

以上、「儚さ」を詠った有名短歌/和歌集でした!

 

 

満開になればすぐに散る桜や、手の平に落ちると溶けてしまう粉雪、一瞬で壊れてしまうシャボン玉など、儚いものをつい見つめてしまった経験はありませんか?

 

「儚さ」という言葉は文学的で、難しいイメージを持っている人も多いかもしれません。

 

しかし、「消えやすいものや壊れやすいものを惜しむ気持ち」と言い換えると分かりやすくなるのではないでしょうか。

 

短歌職人
儚いものを見つめた時や、何かを儚いと感じた時には、その思いをぜひ短歌で表現してみてください。