短歌とは、日本の詩歌の形式のひとつで、5・5・5・7・7の31音からなる短い詩です。
短歌の歴史は長く、最初に短歌が作られたのは飛鳥時代と言われています。明治時代から短歌という呼び名が定着しましたが、それまでは和歌と呼ばれていました。
今回は、短歌の中でも特に有名な50首についてご紹介していきます。
有名短歌集【昔の短歌(和歌) 25選】
まずは昔の短歌をご紹介していきます。
昔の短歌とは、いわゆる「和歌」と呼ばれている万葉集・古今和歌集・新古今和歌集の時代に作られた短歌のことです。
ここでは特に有名な短歌をピックアップしてご紹介します。
【NO.1】柿本人麻呂(万葉集)
『 ひむがしの 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ 』
意味:東の野に陽炎(かげろう)が立つのが見えて振り返ってみると、月は西に傾いてしまった。
この歌は、天皇の即位を詠んだものであるとも言われており、立ち上る陽炎が新天皇を、傾く月が前天皇のことを表しています。
柿本人麻呂は飛鳥時代の有名な歌人で、和歌が上達するようにということから、人麻呂を神様として祀る神社も各地に建てられています。
【NO.2】小野小町(百人一首)
『 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 』
意味:桜の花の色は、春の雨が降っている間に色あせてしまった。ちょうど私の美貌が、恋に悩むうちに衰えてしまったように。
古典では、花とだけ書かれている場合は桜の花のことを指します。すぐに散ってしまう桜の花と、自らの美しさのはかなさを重ねています。
小野小町は、平安初期の女流歌人として最も有名な人物で、彼女は絶世の美女だと言われており、数々の伝説を残しています。
【NO.3】菅原道真(出典不明)
『 東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな 』
意味:春の東風が吹くようになったら、花を咲かせて香りを届けておくれ、梅の花よ。 私がいなくても、春を忘れないでいておくれ。
【NO.4】藤原道長(出典不明)
『 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば 』
意味:この世界は(まるで)私のためのものであるように思う。満月に欠ける部分がないように、私は完全に満ち足りているから。
【NO.5】藤原敏行(古今和歌集)
『 秋来ぬと 目にはさやかに 見えぬとも 風の音にぞ おどろかれぬる 』
意味:秋が来たのだと目にははっきりと見えないけれども、風の音で秋が来たことに気づいて驚いてしまった。
【NO.6】山上憶良(万葉集)
『 秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数えれば 七種(ななくさ)の花 』
意味:秋の野に咲いた花を、指折り数えてみれば7種類の花があったことだ。
【NO.7】僧正遍照(古今和歌集、百人一首)
『 天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ 』
意味:五月を待って咲く花橘の香りをかぐと、昔親しくしていた人が袖に薫(た)きしめていたお香の香がして懐かしいことだ。
【NO.8】小野老(万葉集)
『 あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今さかりなり 』
意味:奈良の都は、咲いた花の色が鮮やかに映えるかのように、今が繁栄の盛りである。
【NO.9】猿丸大夫(古今和歌集、百人一首)
『 奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき 』
意味:奥深い山で、紅葉を踏み分けながら妻を想って鳴いている鹿の声がする。その声を聞くと、秋と言う季節が人恋しく、物悲しいものに思える。
この歌は、古今和歌集の中では“詠み人知らず”となっています。和歌の世界では、鹿が鳴くと言う言葉は“雄の鹿が妻(雌の鹿)を想って鳴く”ことだと考えられていました。
奥山とは人里離れた奥深い山のことをさし、妻を求めて鳴いている鹿の声に、遠く離れた妻や恋人を想い慕っている感情を重ねた恋の歌です。
【NO.10】持統天皇(百人一首)
『 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山 』
意味:春が過ぎて夏が来たらしい、白い衣を干すという香具山に。
【NO.11】天智天皇(百人一首)
『 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ 』
意味:秋の田に作られた仮の小屋は、屋根の苫の目が粗いので、私の着物の袖は露に濡れ続けている。
あまりに有名な歌なので、みなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
苫(とま)とは、屋根に敷いてある草のことで、この歌では“刈り穂”と“かり庵(ほ)”が掛詞になっています。掛詞とは修辞法のひとつで、ひとつの言葉にふたつ以上の意味をもたせる技法のことです。
【NO.12】阿倍仲麻呂(百人一首)
『 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも 』
意味:天を仰いでみれば見える月は、春日にある三笠の山にあるものと同じなのだろうか。
【NO.13】紫式部(百人一首)
『 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半(よは)の月かな 』
意味:せっかく久しぶりに会えたのに、それがあなただとわかるかどうかの間に帰ってしまわれた。まるで雲間に隠れてしまう夜半の月のように。
【NO.14】清少納言(百人一首)
『 夜をこめて 鳥の空音(そらね)は 謀るとも よに逢坂(あふさか)の 関はゆるさじ 』
意味:五月を待って咲く花橘の香りをかぐと、昔親しくしていた人が袖に薫(た)きしめていたお香の香がして懐かしいことだ。
【NO.15】山部赤人(百人一首)
『 田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪はふりつつ 』
意味:田子の浦に出てみれば、富士の高い嶺に真っ白な雪が降り積もっていることだ。
田子の浦とは、現在の静岡県駿河湾に注ぐ富士川のことを言います。
作者の山部赤人(やまべのあかひと)は奈良時代の宮廷歌人です。身分は低かったようですが、優れた歌を多く詠み、柿本人麻呂と並んで“歌聖”と呼ばれています。
【NO.16】在原業平(百人一首)
『 ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 』
意味:太古の昔である神々の時代にも聞いたことがないことだ。竜田川の水面に紅葉が落ちて、まるで絞り染めのように見えるとは。
【NO.17】額田王(万葉集)
『 あかねさす 紫草野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖ふる 』
意味:あかねさす紫草の咲く野を行き、あなたは野を行くけれど、私に袖をお振りになるのを、野守が見とがめはしないでしょうか。
【NO.18】大海人皇子(万葉集)
『 紫の にほえる妹を 憎くあらば 人妻故に 吾(あれ)恋ひめやも 』
意味:紫草のように美しいあなたを憎いと思うなら、どうして人妻であるあなたを恋い慕うだろうか。
【NO.19】大津皇子(万葉集)
『 あしびきの 山のしづくに 妹待つと 我立ち濡れぬ 山のしづくに 』
意味:私はあなたを待っている間に、あしひきの山の雫に濡れてしまったことだ。
あしひきは枕詞です。大津皇子が恋人の石川郎女に送ったとされる一首です。
当時、夫婦や恋人であっても男女は別居していて、男性が女性の家を訪ねていくという習わしがありました。“妹”とはきょうだい関係にあるというわけではなく、恋人や愛しい人のことをこう呼びました。また、“吾”とは、私、という意味です。
【NO.20】石川郎女(万葉集)
『 我を待つと 君がぬけれむ あしひきの 山のしづくに ならましものを 』
意味:私を待っていた濡れたとおっしゃる、その雫になって、あなたに寄り添いたかったです。
こちらは、石川郎女による、先ほどの大津皇子の短歌に対する返歌だと言われています。
枕詞である、あしひきという言葉が入れられています。男女はこうして、恋する気持ちを和歌に乗せ、お互いの気持ちを送り合っていたのです。
【NO.21】右大将道綱母(蜻蛉日記・百人一首)
『 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る 』
意味:あなたがいないのを嘆きながら、一人で眠る夜、そんな夜が明けるまでの時間がどれほど長いものか、あなたはお分かりにならないでしょう。
【NO.22】紀貫之(古今和歌集)
『 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける 』
意味:人の方は心が変わってしまったかどうか、わかりませんが、昔から知っているこの里には、梅の花が昔と変わらない形で咲いています。
【NO.23】大江千里(百人一首)
『 月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど 』
意味:月を見上げるといろいろな思いが溢れて悲しくなることだ。私ひとりの秋ではないというのに。
【NO.24】赤染衛門(百人一首)
『 やすらはで 寝なましものを 小夜明けて かたぶくまでの 月を見しかな 』
意味:あなたがいらっしゃらないとわかっていたら、ためらわずに寝てしまっていたのに。お待ちしている間に夜が明けて、月が傾いていくのを見てしまいましたわ。
【NO.25】蝉丸(百人一首)
『 これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂(あふさか)の関 』
意味:これがあの、京から出る人も京に帰る人も、知る人も他人も、みんなが別れ、そしてここで出会うという有名な逢坂の関なのだなあ。
有名短歌集【現代/近代短歌 25選】
ここからは、明治時代以降、近代から現代にかけての有名短歌をご紹介します。
【NO.1】与謝野晶子(みだれ髪)
『 その子二十 櫛に流るる 黒髪の おごりの春の 美しきかな 』
意味:その子は二十歳である。櫛に流れる黒髪は、誇らしい青春を象徴していて非常に美しい。
恋をしている自分の美しさを、自己賛美した歌として知られています。当時、与謝野晶子は23歳で、のちに夫となる与謝野鉄幹との恋の最中でした。
黒髪は、若い女性の美しさの象徴とされています。
【NO.2】与謝野晶子(みだれ髪)
『 海恋し 潮の遠鳴り 数えては 少女となりし 父母の家 』
意味:海が恋しい。遠く伝わる海の波音を聞きながら、少女から娘へと育っていったその父母の家が。
【NO.3】与謝野晶子(みだれ髪)
『 やわ肌の あつき血汐に ふれも見で さびしからずや 道を説く君 』
意味:この柔らかい肌の、熱い血のたぎりに触れてもみないで、寂しくはないのですか。道学を語っているあなた。
【NO.4】石川啄木(一握の砂)
『 たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩進まず 』
意味:ふざけて母親を背負ってみると、そのあまりの軽さに涙が出てきてしまい、ほとんど歩けなくなってしまった。
ふざけて母親を背負う、という行為の軽さと、予想もしなかったほどに母親が軽く小さくなってしまったことの重みが対比されています。
作者は、母親にたくさん苦労をかけてしまったことを感じ入り、思わず涙がこぼれてしまったのでしょう。
【NO.5】石川啄木(一握の砂)
『 東海の 小島の磯の 白砂に われ泣きぬれて 蟹とたわむる 』
意味:東海にある小島の白い砂に、私は泣きに泣いて、蟹と戯れている。
【NO.6】石川啄木(一握の砂)
『 いのちなき 砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の あひだより落つ 』
意味:命の宿っていない砂の存在というのは、なんと悲しいものだろう。砂を握ってみれば、さらさらと指のあいだからこぼれてゆくばかりだ。
【NO.7】若山牧水(若山牧水歌集)
『 白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ 』
意味:白鳥は寂しくないのだろうか。空の青にも海の青にも染まらずに、ゆらゆらと空をただよっている。
空と海の青色と、白鳥の白色の対比が美しい一首です。広い空の中、一点の白が目に浮かびます。
孤独に空を飛んでいる白鳥を、孤独な自らの身に重ね合わせて詠まれた一首です。
【NO.8】若山牧水(若山牧水歌集)
『 幾山河 超えさり行かば 寂しさの はてなむ国ぞ 今日も旅行く 』
意味:これから先、いったい幾つの山や川を越えていったら、寂しさが尽き果てる国へ辿りつくだろうか。その思いを胸に、今日も旅をする。
【NO.9】島木赤彦(太虚集)
『 みづうみの 氷は解けて なほ寒し 三日月の影 波にうつろふ 』
意味:湖の氷は溶けたがまだ寒い。湖面には三日月の影が映り、波に移っている。
三日月というイメージがいっそう寒さ・厳しさを強調しています。
また、「うつろふ」には、氷の解けた湖面に三日月の姿(影)が「映って」いることと、水に映し出された三日月が、波がおこることによりゆらゆらと「移って」いることの、2つの意味合いが重ねられています。
【NO.10】島木赤彦(切火)
『 夕焼け空 焦げきわみれる 下にして 氷らんとする 湖の静けさ 』
意味:焦げたようにあかあかと、夕焼けの輝きの極みにある空の下、まさに今凍ろうとしている湖の、なんと静かなことだろうか。
【NO.11】島木赤彦(出典不明)
『 生まれ出でて 命短し みづうみの 水にうつろふ 蛍の光 』
意味:この世界に生まれ、あっという間に死んでしまう短い命の蛍たちが、夜の湖の表面をうつろうように光を放っている。
【NO.12】正岡子規(竹乃里歌)
『 いちはつの 花咲き出でて 我目には 今年ばかりの 春いかんとす 』
意味:いちはつの花が美しく咲き始めたのが見えるが、それは私の目には、生涯最後の春が去ろうとしているように見えることだ。
【NO.13】正岡子規(竹乃里歌)
『 くれなゐの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる 』
意味:くれない色の薔薇の芽が二尺ほど伸びてきたので、まだやわらかいその棘を見ていると、春の雨が優しく降ってきたことだ。
【NO.14】正岡子規(竹乃里歌)
『 足たたば 北インヂヤの ヒマラヤの エヴェレストなる 雪くはましを 』
意味:この足さえ立てば、北インドのヒマラヤ山脈のエベレストにある雪を食べたいものだが。
【NO.15】樋口一葉(樋口一葉和歌集)
『 あるじなき 垣ねまもりて 故郷の 庭に咲きたる 花菫かな 』
意味:故郷の家を留守にしたままですが、庭に咲く菫の花がわが家の垣根を守ってくれているでしょう。
【NO.16】樋口一葉(樋口一葉和歌集)
『 あらたまの 年の若水 くむ今朝は そぞろにものの 嬉しかりけり 』
意味:今朝は元日なので、若水を汲んでいると、なんとなく心嬉しいものです。
【NO.17】古泉千樫(出典不明)
『 いそぎつつ 朝は出てゆく 街角に 咲きて久しき 百日紅の花 』
意味:出勤のため、急いで出てゆく朝の街角に、もうずいぶん前から百日紅の花が咲いている。
百日紅(さるすべり)とは、夏になると赤く鮮やかな花を咲かせる植物のことです。
朝の時間帯は忙しく、周りの景色をゆっくりと見ることもままならないでしょうが、そんな中で鮮やかな百日紅の花の色は、作者の心に強い印象を残していたのでしょう。
【NO.18】齋藤茂吉(齋藤茂吉歌集)
『 枇杷の花 冬木のさなかに にほえるを この世のものと 今こそは見め 』
意味:枇杷の花が、冬枯れしている木々の中で香っている。この世ではもう見納めになるかもしれないので、よく見ておこう。
【NO.19】齋藤茂吉(赤光)
『 みちのくの 母のいのちを 一目見ん 一目見んとぞ ただにいそげる 』
意味:東北の村にひとり住む母、そのいのちがあるうちに、一目見よう、一目見ようとただひたすらに急いでいる。
【NO.20】齋藤茂吉(白き山)
『 最上川 逆白波の たつまでに ふぶくゆふべと なりにけるかも 』
意味:最上川に白い逆波が立つほど、強い吹雪になってきたのだなあ。
【NO.21】俵万智(サラダ記念日)
『 「寒いね」と 話しかければ 「寒いね」と 答える人の いるあたたかさ 』
意味:体も心も冷え切ってしまうようなとき、何気なく「寒いね」と話しかけると、「寒いね」とそのまま返してくれる人が身近にいることは、当たり前のように思えて、幸せなことだ。
【NO.22】俵万智(サラダ記念日)
『 思い出の 一つのようで そのままに しておく麦わら帽子のへこみ 』
意味:過ぎ去った楽しい夏の思い出の一つのようにも思えるので、麦わら帽子がへこんでいるのもそのままにしておきたい、そんな気持ちである。
【NO.23】俵万智(サラダ記念日)
『 この味が いいねと君が 言ったから 7月6日は サラダ記念日 』
意味:この味がいいとあなたが言ったから、私にとって7月6日はサラダ記念日になったのよ。
【NO.24】初谷むい(花は泡、そこにいたって会いたいよ)
『 その手紙は とてもたいせつ わたしたちだけが 知っているその たいせつを 』
意味:その手紙はとても大切。私たちだけが、その手紙の大切さを知っているの。
【NO.25】伊波真人(ナイトフライト)
『 雨つぶが 道一面を 染め上げて 宇宙は泡の ようにひろがる 』
意味:雨つぶが道一面を濡らし、雨つぶの色に染め上げて、そこにはまるで宇泡のように、宇宙がひろがっていくみたいだ。
さいごに
今回は、和歌から現代の短歌まで、特に有名な50首についてご紹介しました。
短歌は時代とともに形を変えて、私たちに広く愛されています。
短歌に詠まれているテーマには限りがなく、多くの歌人が色々なものを題材にして短歌を作っています。