【戦争を題材にした有名短歌 20選】平和を願う!!知っておきたい有名歌人の短歌を紹介

 

戦争を題材にした短歌と聞くと、なんだか堅苦しくて難しそうと感じるかもしれません。

 

「戦争の短歌なんてあるの?」と意外に思う人もいるのではないでしょうか。実は戦争を題材とした短歌はたくさんあります。

 

 

多くは戦時中に詠まれたものですが、堅苦しい内容のものはほとんどありません。そこには戦争を通じて感じた自分の気持ちが表現されています。

 

今回は、そんな「戦争」を題材にした有名短歌を20首ご紹介します。

 

短歌職人
ぜひ最後まで読んでください。

 

戦争を題材にした有名短歌【前半10選】

 

【NO.1】正岡子規

『 もののふの 屍をさむる 人もなし 菫花さく 春の山陰 』

【意味】兵隊の遺体を運ぶ人もなく、春の山陰にはスミレの花が咲いている。

短歌職人
「もののふ」は漢字で「武士」で、兵に対する敬意が感じられます。しかし兵の遺体は放置されています。そのやるせなさと、スミレが咲く穏やかな風景が対比となっています。

 

【NO.2】明治天皇

『 四方(よも)の海 みなはらからと 思う世に など波風の たちさわぐらむ 』

【意味】四方の海にある国はみな兄弟だと思う世の中で、なぜ波風が立ち騒ぐのだろう。

短歌職人
世界中で当たり前のように戦争が起きていた時代に、そのことを悲しむ気持ちと平和への願いがこめられています。

 

【NO.3】斎藤茂吉

『 はるばると 母は戦を思ひたまふ 桑の木の実の 熟める畑に 』

【意味】桑の実の熟した畑の中で母は遠くの戦火を思っていらっしゃる。

短歌職人
桑畑に立って、従軍した子のことを考える母の姿が目に浮かびます。出だしの「はるばると」が遠い戦地と桑畑という日常風景を、より遠く隔てるように感じます。

 

【NO.4】斎藤茂吉

『 南瓜(とうなす)を 猫の食ふこそ あはれなれ 大きたたかひ ここに及びつ 』

【意味】猫がカボチャを食べている。大戦の影響はここまで及んだのだな。

短歌職人
食糧難で猫に満足には餌をあげられなかったのでしょう。猫が普通は食べないカボチャを食べているのを見て、驚いていると同時に戦争の影響を実感しています。

 

【NO.5】斎藤茂吉

『 機関銃の 音をはじめて 聞きたりし 東北の兵を われは思ほゆ 』

【意味】東北出身の兵士は機関銃の音をはじめて聞いただろうなと思う。

短歌職人
「東北の兵」とその前の部分が倒置表現になっています。純朴な兵士は機関銃の音を聞いた経験はないだろうと、彼らを気遣う歌です。

 

【NO.6】石川啄木

『 一隊の 兵を見送りて かなしかり 何ぞ彼らの うれひ無げな 』

【意味】一隊の兵を見送って悲しくなる。彼らにはきっと憂いがあっただろう。

短歌職人

見送られる兵は、心配ごとを顔には出さなかったのでしょう。「何ぞ」は反語で憂いはないだろうか、いやきっとあるだろうという意味になっています。

 

【NO.7】穂積忠

『 鏡なす 月夜和多津美(つくよわたつみ) はてなくて 翔ぶ機の影ぞ 澄み移るのみ 』

【意味】月の夜に、鏡のようになった海原は果てしなく、飛行機の影だけが映り移動していく。

短歌職人
「わたつみ」は海原です。鏡のような海面ですから、風がなく波も立たないような静かな夜なのでしょう。「機」は戦闘機です。美しい静寂の風景に対比として登場し、不吉な印象を残します。

 

【NO.8】宮英子

『 配給の 品々とともに 求めこし 矢車草も 家計簿にしるす 』

【意味】配給の品と一緒に買った矢車草のことも家計簿に書いた。

短歌職人
売買は食料中心になるなかで、矢車草が売られていると気付き、つい買ってしまった。そのことを家計簿に書いたという歌で、作者の小さな喜びが伝わります。

 

【NO.9】兵士の妻

『 がし物 ありと誘(いざな)ひ 夜の蔵に 明日征く夫(つま)は 吾を抱きしむ 』

【意味】明日出兵する夫が、夜に探しものがあるからと私を蔵に連れて行き、抱きしめた。

短歌職人
妻にも理由をつけて連れ出すところから、夫は普段は照れ屋で愛情を表現しないような人なのでしょう。しかし実際は妻に深い愛情を抱いていることが分かります。

 

【NO.10】宮柊二

『 自爆せし 敵のむくろの 若かるを 哀れみつつ 振り返り見ず 』

【意味】自爆した敵兵が若かったのを悲しく思いながらも遺体を振り返らなかった。

短歌職人
遺体となった敵兵の側を通る時、彼がまだ若者だったと気が付いた。しかし悲しく思いながらも振り返る余裕はないという悲壮な歌です。

 

戦争を題材にした有名短歌【後半10選】

 

【NO.11】宮柊二

『 あかつきに 風白みくる 丘蔭に 命絶えゆく 友を囲みたり 』

【意味】夜明けの風が白く吹く丘の陰で、死にゆく友を囲んでいる

短歌職人
戦友は命が尽きようとしています。夜明けの白い風は霧でしょうか白煙でしょうか。最期を看取ろうと友を囲んだ兵たちの姿が悲しい歌です。

 

【NO.12】岡野弘彦

『 びょうびょうと 犬啼きめぐる 夜の闇に 友を焼く火を 守りて立ちをり 』

【意味】犬がびょうびょうと鳴く真っ暗な夜に、友を火葬する火を守って立っている。

短歌職人
「びょうびょう」という不気味な擬音語が、夜の闇と火葬の炎を怖く悲しいものにしています。対して「立ちおり」という結びが、火葬が終わるまで火を守るのだという強い心を思わせます。

 

【NO.13】岡野弘彦

『 唇の 熱くなるまで 一本の 煙草分ちし 彼も死にたり 』

【意味】一本の煙草を、唇が熱くなるまで分け合って吸った彼も死んでしまった。

短歌職人
二人で一本の煙草を、唇に火の熱が感じられる程短くなるまで吸ったのでしょう。死んでしまった戦友を思い出している歌です。

 

【NO.14】特攻隊隊士

『 新しき 光に生きん おさな子の 幸を祈りて 我は散らなむ 』

【意味】新しい光の中で生きるだろう幼い子の幸せを祈って、私は散るのだ。

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「新しい光」は、戦争が終わった平和な新しい時代のことでしょう。切ない歌ですが、「生きん」からは子供が、命の危険のない幸せな時代に育つに違いないという確信を感じます。

 

【NO.15】馬場あき子

『 焼けはてて のこるものなき 家のあとに 炭をひろふと 我はたちたり 』

【意味】家が焼けてしまってなにも残っていないが、炭を拾おうと私は立った。

短歌職人
空襲で家が焼けて、作者ははじめは座りこんでいたのでしょう。しかし炭を拾おうと立ち上がります。暖をとるためです。生きようという意志が感じられます。

 

【NO.16】土岐善麿

『 あなたは勝つ ものとおもって ゐましたかと 老いたる妻の さびしげにいふ 』

【意味】あなたは勝つと思っていましたかと老いた妻が寂しそうに言う。

短歌職人
終戦の歌です。妻は戦争に勝つと思っていなかったのでしょう。静かな問いかけからは寂しさと諦めも感じられます。

 

【NO.17】土岐善麿

『 新しき 常に照る日の 広き心 吾等かならず 立たざらめやも 』

【意味】新しい日が昇り、太陽は常に広い心で照る。私達は必ず立ち上がるとも。

短歌職人
常に変わらず皆を照らす太陽。それを見て、立ち上がるぞという強い気持ちになったという歌です。「立たざらめやも」は「立たずにはいられようか」という意味です。

 

【NO.18】土岐善麿

『 武力なき 平和国家の なすわざを 世界に誇る とき来たるべし 』

【意味】武力のない平和国家のすることを世界に誇る時が来るに違いない。

短歌職人
平和国家となった日本を誇りに思う心が表れています。「来たるべし」はきっと来るはずだ、来るに違いないという意味で、強い希望を感じます。

 

【NO.19】荒浜悦子

『 ふるさとの 墓参に菜の花 供えやる 少年兵は 幼なじみよ 』

【意味】ふるさとで少年兵の墓に菜の花をお供えする。彼は私の幼なじみだ。

短歌職人
菜の花は春の花です。終戦後の平和な春の日、鮮やかな黄色の菜の花を手に故郷の幼なじみの墓を訪ねる様子が浮かびます。

 

【NO.20】平井弘

『 男の子なる やさしさは 紛れなく かしてごらん ぼくが殺してあげる 』

【意味】男の子の紛れない優しさ。「かしてごらん、ぼくが殺してあげる」。

短歌職人
少年が語りかけた相手もまた子供の兵なのでしょう。敵兵を殺せずに武器を持つ手が震えていたのかもしれません。少年は見かねて武器を貸してと手を差しだしたのです。「紛れない」とあるように少年は確かに優しい子なのです。悲しく、やや怖い歌です。

 

以上、戦争を題材にした有名短歌集でした!

 

 

戦争を題材とした短歌には、家族や大切な人の無事を祈り、人の死を悲しいと思い、平和な世の中であって欲しいと願う心がこめられています。

 

それは生きる時代や立場が違っても共通する気持ちではないでしょうか。

 

今回紹介した短歌に描かれた気持ちに共感したという人や、戦争を題材とした短歌をもっと知りたいと思った人は、気になった短歌の作者の他の作品を鑑賞してみてもいいかもしれません。

 

短歌職人
気になった方は是非ご自身で調べてみてください。