掛詞(かけことば)とは、同じ読み方をする一つの言葉に複数の意味を持たせた表現技法です。
「待つ」と「松」、「飽き」と「秋」のように同じ音の言葉を利用するもので、和歌に多く使われています。
掛詞を使うことで、風景と自分の気持ちを重ね合わせたり、思いをより強く表現できたりと、歌に広がりや深みを持たせることができます。
菅原道真
このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに受験の時には「たび」が掛詞ということで習う和歌ですね(旅、度)。
幣を用意できなかったが、すぐに紅葉を差し上げますという、風流ながらも機転の利いた歌だと思います。
写真は幣と手向山の紅葉。 pic.twitter.com/JpLhXdsYzN— 太宰府中高生セミナー (@dazaifu1027) August 5, 2021
白川の知らずとも言はじ底清み流れて世々にすまんと思へば(古今集恋歌三666平貞文)
「すまん」は「住まん」(女の所に通うの意)と「澄まん」との掛詞
夢を壊すような事を言う様だが、こう詠まれた白河も今や単なるドブ川だからね…悲しくなるわʅ(´-ω-`)ʃ #和歌 #短歌 #waka #tanka #jtanka #古今集 pic.twitter.com/iSMxmvHKo1
— 蘭ノ丞 (@akugyo_zanmai) August 7, 2019
今回は、掛詞が使われている有名和歌を20首紹介していきます。
掛詞を使った有名和歌【前半10選】
【NO.1】在原行平
『 立ち別れ いなばの山の 嶺におふる まつとし聞かば 今かへりこむ 』
【意味】別れて私は因幡へ行きますが、嶺に生える松のように「待っている」と聞いたならすぐに帰って来ますよ
【NO.2】元良親王
『 わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても あはむとぞ思ふ 』
【意味】恋心が辛すぎてもうどうなっても同じことだから、難波の澪標(みおつくし)のように身を滅ぼしてでもあなたに会おう
【NO.3】素性法師
『 あき風に 山のこの葉の 移ろへば 人の心も いかがとぞ思ふ 』
【意味】秋風に山の木の葉の色が移ろうように、人の心も飽きて他へ移っていくものだから、あの人の心だってどうだろうかと思う
【NO.4】平貞文
『 白河の 知らずともいはじ そこ清み 流れて世世に すむと思へば 』
【意味】知らないとは言いません。澄んで流れる白河のように私の心も清く、あなたと永遠に一緒に暮らしたいと思っていますから
【NO.5】紀友則
『 水の泡の 消えでうき身と いひながら 流れて猶も 頼まるるかな 』
【意味】消えそうで消えずに流されていく水の泡、私も泡のようなもので心が沈むけど、結局は流されながら生きていくから、あの人を頼りにせずにはいられない
【NO.6】聖武天皇
『 秋の田の 穂田(ほだ)を雁(かり)がね 暗けくに 夜のほどろにも 鳴き渡るかも 』
【意味】もう刈るばかりの秋の稲穂の上を雁が、夜明けの暗いうちから鳴き渡っていくよ
「雁」と「(稲穂を)刈り」が掛詞です。雁の鳴き声を聞いて秋を感じ取ったという歌です。
【NO.7】藤原定家
『 住の江(すみのえ)の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ 』
【意味】住の江の岸には波が打ち寄せるのに、どうしてあの人は夜の夢の中でさえ、人目を避けて会いに来てはくれないのか
【NO.8】蝉丸
『 これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関 』
【意味】これがあの、行く人も帰る人も、知り合いも見知らぬ他人も別れては出会う逢坂の関なのだ
【NO.9】源宗于
『 山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば 』
【意味】山里は冬こそ寂しさがつのるものよ、人は離れて草も枯れてしまうのだと思うと
【NO.10】小式部内侍
『 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立 』
【意味】生野(いくの)の道の向こうの大江山は遠すぎてまだ天の橋立に足を踏み入れたことも手紙を見たこともない
掛詞を使った有名和歌【後半10選】
【NO.11】小野小町
『 花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 』
【意味】桜は長雨が降る間にむなしく色あせてしまった、年をとった私が世の中のことで物思いにふけっている間に
【NO.12】在原元方
『 逢ふ事の なきさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立帰りける 』
【意味】私はあなたに会うことのない渚の波のようなものなので、浦を見るだけで恨みながら帰りました
【NO.13】紀貫之
『 初雁の なきこそわたれ 世の中の 人の心の あきし憂ければ 』
【意味】初雁が鳴いて空を渡るのは秋だから、私が泣くのは世間の人が私に飽きたのが悲しいから
【NO.14】小野小町
『 秋風に あふたのみこそ 悲しけれ わが身空しく なりぬと思へば 』
【意味】秋風に吹き荒らされた稲の実はすっかり落ちてかわいそう。あなたを想って虚ろに過ごす私と同じ
【NO.15】清原深養父
『 煙たつ おもひならねど ひとしれず わびてはふじの ねをのみぞなく 』
【意味】富士の嶺から上がる火煙のような思いだが、今は誰にも知られることなく一人で伏して泣いているのだ
【NO.16】喜撰法師
『 わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世を宇治山と 人はいふなり 』
【意味】私の家は都の東南で鹿が住むのどかな宇治山にある。こんな風に心も澄むような暮らしをしているよ。世を憂いて住む山だと人は言うけれども
【NO.17】紀貫之
『 袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ 』
【意味】夏に袖を濡らしてすくった水が冬に凍っていたものを、立春の今日、風が溶かしていく
【NO.18】清原深養父
『 みつしほの 流れひるまを あひがたみ みるめの浦に よるをこそまて 』
【意味】潮の満ちる昼は会えないから、浦に海松布の寄せる夜が来るまで待ってください
【NO.19】在原業平
『 から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ 』
【意味】唐衣をよれよれに着古すように慣れ親しんだ妻がいるから、はるばる旅をしてやって来たのだよ
【NO.20】貞登
『 ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞ生ひける 』
【意味】ただ一人で長雨を眺める私は雨の当たる軒先のように寂しいもので、しのぶ草が生えるようにあなたを想う気持ちがつのる
以上、掛詞を使ったおすすめ有名和歌でした!
掛詞はに特に「平安時代」流行しました。当時の貴族や歌人達は言葉遊びが好きだったのでしょう。
掛詞を使った和歌は「古今和歌集」や「新古今和歌集」に多く載っています。掛詞に興味がわいてきたという人は鑑賞してみるのも良いでしょう。