在原業平は平安時代を代表する歌人です。
和歌のセンスが抜群で、和歌の名人の六歌仙や三十六歌仙の一人でもあります。百人一首や古文の教科書で彼の和歌を読んだことがあるという人も多いでしょう。
紅葉狩りの話がではじめた。
百人一首の
「 ちはやふる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」 在原業平
この時期に情景を思うと 大江奏さんでないが、美しく和歌だと思う。#ちはやふる #競技かるた pic.twitter.com/pCcAVH6TqR— 馬忠呉服店 (@bachu38021007) November 5, 2016
今回は、在原業平が詠んだ有名和歌をご紹介します。
在原業平の人物像や作風
(在原業平 出典:Wikipedia)
在原業平は西暦825年に京の都で生まれました。
父方の祖父は平城天皇、母方の祖父は桓武天皇です。業平が生まれる前に政変が起きて在原家は天皇の臣下となりましたが、大変高貴な血筋です。
成長した業平は貴族として天皇に仕えますが、素晴らしい和歌を作ることでたちまち宮中の評判となります。上手い和歌が詠めることは貴族たちの間でかなりのステータス。女性にもモテます。加えて、業平はとても美男だったと当時の歴史書に記述があります。
二階展示の「六歌仙」引き着に描かれた六人の歌人の一人「在原業平」です☆
昔から美男の代名詞と言われていたというだけあって、イケメンです♪装束や被り物も、おしゃれ(*^^*)#六歌仙 #引き着 pic.twitter.com/yOO2wk6jzg— 昔きもの庵 (@mukashi_kimono) October 23, 2013
業平は非常にモテました。そして彼自身も積極的に女性たちと恋をしました。数多の女性との恋の様子が多くの和歌に残されています。中には天皇の后候補のお嬢様や、神様に仕えるお姫様との禁断の恋までもあります。
(在原業平と二条后 出典:Wikipedia)
恋に生きた業平の和歌には、美しい言葉からなるロマンチックなラブレターが多くあります。また、ラブレター以外でも、掛詞を多用するなどして、よりたくさんの情景や思いを伝えようとするのが特徴です。
紀貫之が業平の歌を、気持ちが溢れすぎていると評していますが、業平はきっと色々なものに感じ入りやすく、美的センスに優れた人だったのでしょう。
業平は西暦880年に亡くなりますが、後の人は好んで彼の和歌を引用したり、姿を絵に描いたりしました。「伊勢物語」という物語の主人公は業平がモデルだと言われています。
(京都市中京区にある在原業平邸址 出典:Wikipedia)
在原業平の有名和歌・代表作【20選】
在原業平の有名和歌【1〜10首】
【NO.1】
『 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし 』
【意味】世の中に桜が全くなかったなら、人は春をのどかに過ごせるでしょうに。
いつの時代も日本人は桜が大好き。開花を待ってそわそわ、満開になればお花見に忙しく散るのを惜しんで愛でるものです。この歌は桜を美しいとストレートに表現せずに、いかに桜が人を魅了するのかをうまく表現しています。
【NO.2】
『 狩り暮らし 七夕つめに 宿からむ 天の川原に 我は来にけり 』
【意味】狩りをしていて日が暮れたから、今夜は織姫に宿を借りようか。私は天の川の川原に来たのだよ。
天の川という川で、一緒に狩りに来た人から天の川をテーマに和歌を作ってと言われて詠んだ歌です。業平は鷹狩の名人としても知られています。よく狩りに出かけていたのでしょう。
【NO.3】
『 春日野の 若紫の 摺り衣 しのぶのみだれ 限りしられず 』
【意味】春日野に生える若紫草で染めたしのぶ模様の衣が乱れるように、私の心も限りなく乱れている。
【NO.4】
『 見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ 』
【意味】はっきりと見たわけではないけれど、ちらりと見えた姿が恋しくて、意味もなくそちらの方を眺めて過ごしています。
【NO.5】
『 起きもせず 寝もせで夜を あかしては 春の物とて ながめ暮らしつ 』
【意味】起きるでもなく寝るでもなく夜を明かして、春の長雨をただ眺めています。
雨の日に恋人に送った歌とされています。あなたを想って夜を明かし、あなたを想って昼の雨を眺めているという意味です。女性に夢中になると一日中その人のことを考えていたようです。
【NO.6】
『 人知れぬ わが通い路の 関守は 宵々ごとに うちも寝ななむ 』
【意味】秘密の抜け道に置かれてしまった関守は夜には寝てしまえばいいのに。
夜ごと密かに恋人に会っていたのでしょう。しかし恋人の家の人にバレてしまい、抜け道に見張りを置かれてしまいました。会えずに帰ったという歌です。
【NO.7】
『 かきくらす 心の闇に まどひにき 夢うつつとは こよひ定めよ 』
【意味】混乱して心が乱れています。夢か現実かは今夜確かめてください。
昨晩共に過ごした女性から、夜のことは夢だったのかしらと言われて、夢かどうかは今夜も会って確かめてほしいと返した歌です。女性は神に仕える斎宮だと言われています。
【NO.8】
『 駿河なる 宇津の山辺の うつつにも 夢にも人に 逢はぬなりけり 』
【意味】駿河の宇津の山辺では、現実でも夢の中でもあなたに逢わないな。
【NO.9】
『 思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 逢ふにしかへば さもあらばあれ 』
【意味】恋しい気持ちを我慢しようにも負けてしまう、逢えるのならばどうなっても構うものか。
恋多き業平にも、特別に心奪われる相手が現れました。藤原高子という天皇の后候補です。恋をしてはいけない相手ですが、どうなってもいいから逢いたいと情熱的な歌を詠んでいます。
【NO.10】
『 白玉か 何ぞと人の 問ひしとき 露と答へて 消えなましものを 』
【意味】あれは白玉かしら何かしらとあなたが聞いた時、夜露ですよと答えたけれど、あの時露のように消えてしまえばよかった。
在原業平の有名和歌【11〜20首】
【NO.11】
『 月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして 』
【意味】月も春ももうあの頃と同じではない。私一人だけだ、変わっていないのは。
【NO.12】
『 ちはやふる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 』
【意味】神話の世界にだってこんなことはないだろう、竜田川の水が紅に染まって流れるなんて。
【NO.13】
『 忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは 』
【意味】あなたが出家したのをつい忘れて夢かと思ってしまう。思ってもみなかった、こんな深い雪を踏みわけて会う時がくるなんて。
【NO.14】
『 ぬれつつぞ しひて折りつる 年の内に 春はいくかも あらじと思へば 』
【意味】雨に濡れながらも無理に折りました、もう今年は春が幾日も残っていないと思ったから。
【NO.15】
『 思はずは ありもすらめど 言の葉の をりふしごとに たのまるるかな 』
【意味】あなたは思うこともないだろうけど、私はあなたの言葉を思い出すたびに頼りに思うのです。
【NO.16】
『 大原や 小塩の山も 今日こそは 神代のことも 思ひいづらめ 』
【意味】大原野神社も小塩山も今日は神代の頃の華やかな様子を思い出しているでしょう。
【NO.17】
『 名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと 』
【意味】都の名を持つ都鳥よ、さぁ尋ねるが、私の愛しい人は元気でいるかどうか?
【NO.18】
『 ゆきかへり 空にのみして ふる事は わがゐる山の 風はやみなり 』
【意味】行ったり来たり、上の空でふらふらしているのは、私の居場所の風当たりが強いからだよ。
【NO.19】
『 から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞ思ふ 』
【意味】唐衣を着古すように長く連れ添った妻がいるからはるばる旅をしてきたのだと思うよ。
【NO.20】
『 桜花 散りかひくもれ 老いらくの 来むといふなる 道まがふがに 』
【意味】桜よ、散って花びらで隠しておくれ、老いがやって来るという道が分からなくなるくらいに。
恋に生きるプレイボーイの業平にも老いはやって来ます。その老いが来る道を桜に隠してもらいたい、まだ老いたくないよという歌ですね。業平は当時としては長生きで56歳まで生きました。
以上、在原業平が詠んだ有名和歌20選でした!
和歌と一緒に見ると、在原業平を歴史上の人物というだけでなく、実在した一人の男性として興味が深まるかもしれません。
業平の和歌は「伊勢物語」や「古今和歌集」で鑑賞できますので、彼をもっと知りたいと思った人は手に取ってみるのも良いでしょう。