光りを放って飛ぶ蛍は、古来から人の心を惹きつけ魅了してきました。
蛍の微かな光には儚さや神秘性も感じられ、文学作品のテーマとされることも多く、短歌にも多数詠み込まれています。
今回は、「蛍(ホタル)」を題材にした有名短歌・和歌を20首紹介していきます。
「もの思へば 沢のほたるも わが身より
あくがれ出づる 魂かとぞみる」貴船蛍の舞はもう少し楽しめそうです pic.twitter.com/kiBtJL9SSk— suizouさんと他2022人 (@suizou) July 4, 2014
蛍を題材にした有名短歌(和歌)集【前半10選】
【NO.1】和泉式部
『 もの思へば 沢の蛍も わが身より あくがれ出づる 魂(たま)かとぞ見る 』
【意味】物思いをしていれば、沢を飛ぶ蛍も私の体から抜け出た魂のように見える。
【NO.2】在原業平
『 ゆく蛍 雲のうへまで いぬべくは 秋風ふくと 雁につげこせ 』
【意味】蛍よ、雲の上まで飛んでいくのなら、地上には秋の風が吹いていると雁に伝えておくれ。
【NO.3】紀友則
『 夕されば 蛍よりけに もゆれども 光見ねばや 人のつれなき 』
【意味】夕方になれば私の想いは蛍より燃えているのに光が見えないのだろうか、あの人は冷たい。
【NO.4】花山天皇
『 鳴く声も 聞こえぬものの かなしきは 忍びに燃ゆる 蛍なりけり 』
【意味】鳴く声も聞こえない虫だが愛おしく感じるものは忍ぶ想いに燃える蛍なのだ。
【NO.5】西行
『 沢水に 蛍の影の 数ぞ添ふ 我が魂や 行きて具すらむ 』
【意味】沢の水に蛍が連れ立って飛んでいる姿が見える。私の魂よ、一緒に飛んでいるのだろうね。
【NO.6】平忠度
『 身のほどに 思ひあまれる けしきにて いづちともなく ゆく蛍かな 』
【意味】その体には想いが余る様子でどこへともなく蛍が飛んでいくよ。
作者は光って飛ぶ蛍を、蛍の小さな体では抱えた想いが大きすぎて、心が溢れてしまったのだと表現しています。想いを抱えたままどこへ行くのか、その行く先を思いながら蛍が去るまで見つめていたのでしょう。
【NO.7】藤原定家
『 さゆり葉の しられぬ恋も あるものを 身よりあまりて 行く蛍かな 』
【意味】さゆり葉のように人に知られない密かな恋もあるのに、蛍は想いを隠しきれずに飛んでいくのだよ。
【NO.8】寂蓮法師
『 思あれば 袖に蛍を つつみても いはばやものを とふ人はなし 』
【意味】恋心は、袖に蛍を包むようなものだから想いを伝えたい、どうしたと言ってくれる人はいないのだから。
【NO.9】藤原良経
『 沢水に 空なる星の うつるかと 見ゆるは夜半の 蛍なりけり 』
【意味】沢の水に空の星が映っていると見えたものは夜半の蛍の光だったよ。
【NO.10】源重之
『 音もせで おもひに燃ゆる 蛍こそ 鳴く虫よりも あはれなりけれ 』
【意味】音も出さずに想いに燃える蛍こそ、鳴く虫よりもしみじみと心が動かされるものだ。
蛍を題材にした有名短歌(和歌)集【後半10選】
ここからは、明治から現代までに詠まれた有名な短歌を紹介していきます。
【NO.11】北原白秋
『 昼ながら 幽かに光る 蛍一つ 孟宗の藪を 出でて消えたり 』
【意味】昼なのに一匹の蛍がかすかに光って、孟宗竹のやぶから出て消えていった。
【NO.12】樋口一葉
『 飛ぶ蛍 ひかりさびしく 見ゆるまに 夏は深くも なりにけるかも 』
【意味】飛ぶ蛍の光を寂しいと見ているうちに夏は終わりに近付いていたのだ。
【NO.13】斎藤茂吉
『 草づたふ 朝の蛍よ みじかかる われのいのちを 死なしむなゆめ 』
【意味】草を伝っている朝の蛍よ、短い私の命を死なせないでくれ。
【NO.14】斎藤茂吉
『 蚊帳のなかに 放ちし蛍 夕されば おのれ光りて 飛びそめにけり 』
【意味】蚊帳の中に放った蛍が夕暮れにおのずと光って飛びはじめたのだ。
【NO.15】岡麓
『 かどにいでて とりし蛍を 葱の葉の 筒に透かして 孫のよろこぶ 』
【意味】角に出て取ってきた蛍をネギの葉の筒に透かして孫が喜んでいる。
【NO.16】窪田空穂
『 其子等に 捕らへられむと 母が魂 蛍となりて 夜を来たるらし 』
【意味】その子らに捕まえられようと、母の魂が蛍になって夜を来たのだろう。
【NO.17】石本隆一
『 ほたる火を ひとみ絞りて 見つけ出し その息の緒に 息をあわせけり 』
【意味】蛍の光を瞳を絞って見つけ出し、その息の緒に呼吸を合わせるのだ。
【NO.18】野樹かずみ
『 みどりごの 眠りをいまは 抱いてゆく 蛍飛び交う 銀河のほとり 』
【意味】眠る幼子を抱いてゆく。蛍が飛び交う銀河のほとりで。
壮大でファンタジックな歌です。辺り一面に飛び交う蛍と満点の星の光が混じり合って、夜の情景ですが光に包まれているように感じます。眠る幼子の呼吸と幼子を抱く歩みによって神秘的な風景の中に人間の音と動作が加わって、この歌を温かみのある優しい印象にしています。
【NO.19】鈴掛真
『 夏だって 浮かれてる間に 死んじゃった 蛍みたいな 約束だった 』
【意味】夏だと浮かれている間に死んでしまった蛍のような約束だった。
【NO.20】相田邦騎
『 愛しくて 浴衣に忍ぶ 早鐘の 胸を抑える 蛍の夕べ 』
【意味】愛しくて浴衣に忍ばせた早鐘のように鳴る胸を抑える蛍の夕べ。
「早鐘」にどきどきと胸が高鳴っている様子が表れていて、相手への恋心の大きさや期待の強さを感じる歌です。「蛍」は「浴衣」とともに季節を表す効果があると同時に、抑えても溢れてしまう想いを表すものとしても使われています。
以上、「蛍」を題材にした有名短歌/和歌集でした!
蛍はきれいな水辺にしか生息しないため、現代では貴重な存在となっています。
蛍に感じる魅力や神秘的な雰囲気は、昔よりも現代の方が大きいかもしれません。
蛍を直に見たことがある人とない人とでは、蛍への感じ方や思いも異なるのではないでしょうか。