【蛍の有名短歌 20選】短い命のはかなさを詠んだ!!おすすめ短歌を紹介

 

光りを放って飛ぶ蛍は、古来から人の心を惹きつけ魅了してきました。

 

蛍の微かな光には儚さや神秘性も感じられ、文学作品のテーマとされることも多く、短歌にも多数詠み込まれています。

 

今回は、「蛍(ホタル)」を題材にした有名短歌・和歌を20首紹介していきます。

 

 

蛍を題材にした有名短歌(和歌)集【前半10選】

 

短歌職人
まずは歌作りが盛んだった平安時代に詠まれたものを中心にして有名な和歌を紹介していきます。

 

【NO.1】和泉式部

『 もの思へば 沢の蛍も わが身より あくがれ出づる 魂(たま)かとぞ見る 』

【意味】物思いをしていれば、沢を飛ぶ蛍も私の体から抜け出た魂のように見える。

短歌職人
古代では強い憧れや恋心などの気持ちは、時として体から抜け出すことがあると考えられていました。この歌は蛍を見て、自分の恋する気持ちが体から抜け出て飛んでいるのではないかと思う内容で、思い焦がれている心境を詠んでいます。

 

【NO.2】在原業平

『 ゆく蛍 雲のうへまで いぬべくは 秋風ふくと 雁につげこせ 』

【意味】蛍よ、雲の上まで飛んでいくのなら、地上には秋の風が吹いていると雁に伝えておくれ。

短歌職人
死に別れた女性を想って読まれた歌で「伊勢物語」に出てくるものです。物語を読むと雁がその女性の化身だとも解釈できます。蛍に自分の気持ちを託したのか、または自分の想いが蛍となって飛んでいるのか、はっきりとは語られていませんが蛍と雁が会えたら良いと願いたくなるロマンチックな歌です。

 

【NO.3】紀友則

『 夕されば 蛍よりけに もゆれども 光見ねばや 人のつれなき 』

【意味】夕方になれば私の想いは蛍より燃えているのに光が見えないのだろうか、あの人は冷たい。

短歌職人
蛍は焦がれる心が具現化したものとして、恋の和歌によく登場します。この歌では、他の人の心以上に自分の心は燃えているのに分かってもらえない辛さを詠んでいます。「光見ねばや」は「見ていないのだろうか」といった意味ですが、見たらきっと自分の心が伝わるはずだという気持ちも含んでいるように感じられます。

 

【NO.4】花山天皇

『 鳴く声も 聞こえぬものの かなしきは 忍びに燃ゆる 蛍なりけり 』

【意味】鳴く声も聞こえない虫だが愛おしく感じるものは忍ぶ想いに燃える蛍なのだ。

短歌職人
秋の鳴く虫とは違って鳴かない蛍だけど、だからこそ「かなしく」思うという歌です。「かなし」は愛しい、愛しさで胸がつまるなどの意味で、作者は「声も出さずに忍ぶ想いに燃えている」蛍をいじらしく思ったのでしょう。

 

【NO.5】西行

『 沢水に 蛍の影の 数ぞ添ふ 我が魂や 行きて具すらむ 』

【意味】沢の水に蛍が連れ立って飛んでいる姿が見える。私の魂よ、一緒に飛んでいるのだろうね。

短歌職人
作者は蛍同士が仲良く飛んでいるように感じたのでしょう。そして自分の心も蛍になっているだろうから、蛍たちの仲間に入っていたら良いなと思ったのではないでしょうか。

 

【NO.6】平忠度

『 身のほどに 思ひあまれる けしきにて いづちともなく ゆく蛍かな 』

【意味】その体には想いが余る様子でどこへともなく蛍が飛んでいくよ。

短歌職人

作者は光って飛ぶ蛍を、蛍の小さな体では抱えた想いが大きすぎて、心が溢れてしまったのだと表現しています。想いを抱えたままどこへ行くのか、その行く先を思いながら蛍が去るまで見つめていたのでしょう。

 

【NO.7】藤原定家

『 さゆり葉の しられぬ恋も あるものを 身よりあまりて 行く蛍かな 』

【意味】さゆり葉のように人に知られない密かな恋もあるのに、蛍は想いを隠しきれずに飛んでいくのだよ。

短歌職人
「さゆり」は目立たない場所にひっそりと生えます。蛍は音は立てないけれど闇夜に光って目を引くので、忍びながらも本当は恋心に気付いて欲しいと思っているのかもしれません。作者は「さゆり葉」より「行く蛍」に詠嘆しているので、蛍は自分の恋心を表しているとも読みとれます。

 

【NO.8】寂蓮法師

『 思あれば 袖に蛍を つつみても いはばやものを とふ人はなし 』

【意味】恋心は、袖に蛍を包むようなものだから想いを伝えたい、どうしたと言ってくれる人はいないのだから。

短歌職人
袖に蛍を包み隠しても、光で分かってしまいます。恋とはそういうもので、いずれ気付かれてしまうのだから告白したいのだという歌です。「とふ人はなし」は「恋をしているのか?」と誰も聞いてくれないことを表しますが、本当は聞かれたかったという気持ちが感じられます。

 

【NO.9】藤原良経

『 沢水に 空なる星の うつるかと 見ゆるは夜半の 蛍なりけり 』

【意味】沢の水に空の星が映っていると見えたものは夜半の蛍の光だったよ。

短歌職人
昔の夜は完全な暗闇です。現代よりも星は明るく、沢の水に星の光が反射するのが分かる程だったのでしょう。蛍が星に見えたことをそのまま表現した歌ですが、当時の夜の暗さと微かな光でも明るく見えたことを思うと大変趣深く感じられます。

 

【NO.10】源重之

『 音もせで おもひに燃ゆる 蛍こそ 鳴く虫よりも あはれなりけれ 』

【意味】音も出さずに想いに燃える蛍こそ、鳴く虫よりもしみじみと心が動かされるものだ。

短歌職人
この歌もまた、音を立てずに思い焦がれる蛍に趣を感じたものです。日本人は古来より、口に出すよりも心に秘めた気持ちの方に趣を感じていたことが表れています。「思ひ」と「火」が掛詞に、「火」は「燃ゆ」の縁語となっており、心の熱さを強調しています。

 

蛍を題材にした有名短歌(和歌)集【後半10選】

 

短歌職人

ここからは、明治から現代までに詠まれた有名な短歌を紹介していきます。

 

【NO.11】北原白秋

『 昼ながら 幽かに光る 蛍一つ 孟宗の藪を 出でて消えたり 』

【意味】昼なのに一匹の蛍がかすかに光って、孟宗竹のやぶから出て消えていった。

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暗い竹やぶの中では見えていた蛍の光が、日差しの下へ蛍が移動して見えなくなったという歌で、蛍の光によって情景の明暗を表現し対比させています。作者は昼の蛍を見つめ、蛍が出て行った竹やぶの一層の暗さを見つめていたのでしょう。

 

【NO.12】樋口一葉

『 飛ぶ蛍 ひかりさびしく 見ゆるまに 夏は深くも なりにけるかも 』

【意味】飛ぶ蛍の光を寂しいと見ているうちに夏は終わりに近付いていたのだ。

短歌職人
「なりにけるかも」の「ける」「かも」はどちらも感嘆や詠嘆を表し、「夏が深い」とは「深い秋」のように季節が過ぎることを意味します。作者は蛍の光に寂しさを覚え、終わろうとする夏を思って再び寂しさをしみじみと感じたのでしょう。

 

【NO.13】斎藤茂吉

『 草づたふ 朝の蛍よ みじかかる われのいのちを 死なしむなゆめ 』

【意味】草を伝っている朝の蛍よ、短い私の命を死なせないでくれ。

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蛍は寿命が短い虫です。夜の間光って飛び回り、朝にはもう飛ぶのをやめてしまった蛍を、作者は命が終わるように感じたのでしょう。そして蛍の儚い命を自分のことのように思い、蛍に語りかけている感傷的な歌です。

 

【NO.14】斎藤茂吉

『 蚊帳のなかに 放ちし蛍 夕されば おのれ光りて 飛びそめにけり 』

【意味】蚊帳の中に放った蛍が夕暮れにおのずと光って飛びはじめたのだ。

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昼に蛍を採ってきて蚊帳に入れておいたのでしょう。蛍は昼間はどこにいるのか見えにくかったのでしょうが、日が暮れると光り生き生きと飛び始めました。作者はその存在感や、蛍の生命に感動したのではないでしょうか。

 

【NO.15】岡麓

『 かどにいでて とりし蛍を 葱の葉の 筒に透かして 孫のよろこぶ 』

【意味】角に出て取ってきた蛍をネギの葉の筒に透かして孫が喜んでいる。

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ネギの葉の空洞に蛍を入れたものを孫にあげたのでしょう。暗闇でネギは緑色の光を帯びた棒になり、それが面白くて孫がはしゃいでいる様子が想像されます。おもちゃの素朴さや、孫の純朴さが微笑ましい歌です。

 

【NO.16】窪田空穂

『 其子等に 捕らへられむと 母が魂 蛍となりて 夜を来たるらし 』

【意味】その子らに捕まえられようと、母の魂が蛍になって夜を来たのだろう。

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作者が亡くなった妻を思って詠んだ歌です。子どもを残して亡くなった母が蛍になって戻って来た、捕まえてと言うように子どもの側を飛んでいる、そんな幻想的で優しい歌です。

 

【NO.17】石本隆一

『 ほたる火を ひとみ絞りて 見つけ出し その息の緒に 息をあわせけり 』

【意味】蛍の光を瞳を絞って見つけ出し、その息の緒に呼吸を合わせるのだ。

短歌職人
「ひとみ絞りて」が目を凝らして蛍を探した様子を表現しています。蛍の点滅に蛍の呼吸を感じ、それに自分の息を合わせたという歌で、暗闇で蛍と一体となったような心地が表現されています。

 

【NO.18】野樹かずみ

『 みどりごの 眠りをいまは 抱いてゆく 蛍飛び交う 銀河のほとり 』

【意味】眠る幼子を抱いてゆく。蛍が飛び交う銀河のほとりで。

短歌職人

壮大でファンタジックな歌です。辺り一面に飛び交う蛍と満点の星の光が混じり合って、夜の情景ですが光に包まれているように感じます。眠る幼子の呼吸と幼子を抱く歩みによって神秘的な風景の中に人間の音と動作が加わって、この歌を温かみのある優しい印象にしています。

 

【NO.19】鈴掛真

『 夏だって 浮かれてる間に 死んじゃった 蛍みたいな 約束だった 』

【意味】夏だと浮かれている間に死んでしまった蛍のような約束だった。

短歌職人
第四句までが「約束」の比喩となっています。約束は嬉しくて浮かれるような内容だったのでしょう。しかし命の短い蛍のように、期待が儚いものだったことが窺えます。約束は果たされることはなかったのでしょう。

 

【NO.20】相田邦騎

『 愛しくて 浴衣に忍ぶ 早鐘の 胸を抑える 蛍の夕べ 』

【意味】愛しくて浴衣に忍ばせた早鐘のように鳴る胸を抑える蛍の夕べ。

短歌職人

「早鐘」にどきどきと胸が高鳴っている様子が表れていて、相手への恋心の大きさや期待の強さを感じる歌です。「蛍」は「浴衣」とともに季節を表す効果があると同時に、抑えても溢れてしまう想いを表すものとしても使われています。

 

以上、「蛍」を題材にした有名短歌/和歌集でした!

 

 

蛍はきれいな水辺にしか生息しないため、現代では貴重な存在となっています。

 

蛍に感じる魅力や神秘的な雰囲気は、昔よりも現代の方が大きいかもしれません。

 

蛍を直に見たことがある人とない人とでは、蛍への感じ方や思いも異なるのではないでしょうか。

 

短歌職人
皆さんもぜひ、蛍に感じる自分なりのイメージを短歌で表現してみてください。