【7月の短歌(和歌)集 20選】おすすめ!!知っておきたい7月らしい有名作品を紹介!

 

7月のイベントといえば、七夕まつりに海開き。夏休みに入って旅行に出かけたりと短歌の題材もたくさん見つかりそうです。

 

外で遊ぶことが少なかった昔はどんなことを詠んでいたのでしょうか。

 

今回は、7月を詠ったおすすめ短歌(昔の短歌(和歌)&現代短歌)をご紹介します。

 

短歌職人
ぜひ、あなたのお気に入りの短歌を見つけてみてください!

 

7月の有名短歌(和歌)集【昔の短歌(和歌) 10選】

 

まずは昔の短歌(和歌)からご紹介します。

 

俳諧の季語としては秋に属する「天の川」や「七夕」ですが、ここでは7月7日の七夕まつりに準じてご紹介します。

 

【NO.1】紀友則

『 あまの河 あさ瀬しら波 たどりつつ 渡りはてねば 明けぞしにける 』

意味:天の川の浅瀬がどこにあるかを知らず白波を辿って渡っていたが、渡り終わる前に夜が明けてしまったよ

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しら波の「しら」が”知ら”と”白”の掛詞になっています。宇多天皇からの仰せで献上された七夕の歌ですが、浅瀬を知らないから渡れず織姫に会いに行けなかったというオチは面白い反面、二人がかわいそうな気もしますね。

 

【NO.2】凡河内躬恒

『 たなばたに かしつる糸の うちはへて 年のをながく 恋ひやわたらむ 』

意味:七夕にお供えした糸のようにずっと長きにわたってこの恋は続くだろう

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「かしつる糸」は七夕に行われる機織りの上達を祈るためにお供えする糸になぞらえられています。彦星と織姫の恋が「うちはへて」=ずっと続くだろうと詠っているのですね。これも七月七日の夜に詠まれたという詞書があります。

 

【NO.3】橘長盛

『 主なくて さらせる布を 七夕に わが心とや 今日はかさまし 』

意味:注文主もいないままにさらしている布を、私の心づくしの品として七夕の今日お供えしましょう

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詞書には「帝が布引の滝をご覧ぜむとて七月七日に」とあり、滝を布に例えて詠まれたものです。同じ水の連想で簡単に天の川を詠むのではなく織姫の織る「布」に例えたところが素敵ですね。2.の和歌の「かし」とこの歌の「かさ」は織姫に供える、という意味だと考えられます。

 

【NO.4】藤原定家

『 夕立の 雲間の日かげ はれそめて 山のこなたを わたる白鷺 』

意味:夕立の雲の間から日が射し始め、山のこちら側を白鷺が飛んでいくよ

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夏の「夕立」が止んだ後は空気や山の木々も洗い流されているはずで、そのくっきりした色彩の中を白い鷺が飛んでいく情景はホッとため息が出そうですね。雨上がりの夕焼けも見えていれば映画のワンシーンのようです。

 

【NO.5】藤原有家

『 夕すずみ 閨(ねや)へもいらぬ うたた寝の 夢をのこして あくるしののめ 』

意味:夕涼みをして寝室へも入らずにうたた寝をしたら、夢を見終わらないうちに明け方になりました

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夕涼みの格好で朝まで起きずに寝続けてしまったのはどんな夢を見ていたからなのでしょう。ふと起きたら、あれ?明けてしまっている!と空を見ながら詠ったのかもしれません。これには本歌として藤原成通の「たぐひなくつらしとぞ思ふ秋の夜の月をのこしてあくるしののめ」があります。

 

【NO.6】二条院讃岐

『 さもこそは 短き夜半の 友ならめ 臥すかともなく 消ゆる蚊遣火 』

意味:だからこそ夏の短い夜の友なのだろう。床に伏したかと思う間に消えてしまう蚊遣火は

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「蚊遣火」とは、よもぎや榧(かや)、杉、松の青葉を燻して虫除けにしていたもので今で言う蚊取り線香のことです。それを毎日点けてから寝て、間もないタイミングで自然に消えてしまうのは短い夏の短い時間の友であるよということですね。

 

【NO.7】俊恵

『 夏ふかみ 野原を行けば 程もなく 先立つ人の 草がくれぬる 』

意味:夏が深まって野原を歩くと程なく先を行く人が長く伸びた草に隠れてしまいます

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現代では人が隠れるほどの高さまで伸びた草むらを歩くことはありませんが、万葉の時代ではありふれた場面をそのまま詠んだとも言える1首です。平素な言葉だからこそ当時の日常が伺えますね。

 

最後は蝉の歌を3つご紹介いたします。

 

【NO.8】詠み人知らず

『 空蝉(うつせみ)の からは木ごとに とどむれど 魂(たま)のゆくへを 見ぬぞかなしき 』

意味:蝉の抜け殻はそれぞれ木に留まっているけれど、その魂の行方を見ることはできないのは悲しいことです

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抜け殻と蝉本体のどちらも「空蝉」と呼ぶのですが、この場合は「から」と明記されていますね。また、「空蝉」という漢字は”うつしおみ・うつそみ(現人)”の当て字から来ており、この世の人、現世のことも指します。「から」になった人間の虚しさも重ねているようです。

 

【NO.9】大伴家持

『 隠(こも)りのみ 居(を)ればいぶせみ 慰むと 出で立ち聞けば 来鳴く晩蝉(ひぐらし) 』

意味:家にこもってばかりいると心も落ち込んでくるので、慰めに外に出て見ると飛んで来たヒグラシが鳴いている

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万葉集の作られた奈良時代では雨に濡れることを禁忌として止むまで家に篭っていました。気が滅入るという意味の「いぶ”せみ”」が「蝉」との掛詞という説もあります。やっと外に出て聞こえてきたカナカナという鳴き声に癒された感情が伝わってきますね。

 

【NO.10】藤原義経

『 うつせみの なく音やよそに もりの露 ほしあへぬ袖を 人の問ふまで 』

意味:森で蝉が鳴くように、泣いている私の声も外に漏れたのでしょうか。涙の露を干し乾かせない着物の袖をどうしたのかと人が問うほどに

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「鳴く」と「泣く」、「森」と「漏り」という二つの掛詞が続いています。袖の濡れた理由が露と涙を重ねてというのもよく使われる表現ですが、ここではそれだけでなく、泣き声の他にも袖の涙も私の悲しみを外に漏らしている、とつながっています。

 

7月の有名短歌(和歌)集【現代短歌 10選】

 

次に、現代・近代短歌をご紹介します。はじめは七夕の歌からご紹介していきます。

 

【NO.1】正岡子規

『 天地(あめつち)に 月人男(つきひとおとこ) 照り透り 星の少女の かくれて見えず 』

意味:空と地に月の光が照りわたっていて、星の少女(織姫)が隠れてしまって見えない

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「月人男」とは月を擬人化して若い男と見立てている語です。彦星を思わせますが、それが照りすぎて少女(織姫)が見えないと言っているので、単純にこら、月男よ邪魔するんじゃないという気持ちなのでしょう。

 

【NO.2】与謝野晶子

『 たなばたの 星も女ぞ 汝(な)をおきて 頼む男は なしと待つらん 』

意味:七夕の織姫も女性です。私のようにあなた以外に頼る男性はいないと待っているのでしょう

短歌職人
作者は他にも七夕の歌をいくつも詠っているのですが、これはおそらく鉄幹に向けて詠んだ恋文で、織姫も「女ぞ」と強調しているのが彼女らしい表現です。

 

【NO.3】俵万智

『 この味がいいねと君が言ったから 七月六日は サラダ記念日 』

意味:このサラダの味がいいねとあなたが言ったから今日七月六日はサラダ記念日にしよう

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これこそ現代短歌のベストセラーとなった歌集の代表作です。七夕ではなくなんでもない普通の日として七月六日を選んだ、と本人が後に説明してます。今までの難しいイメージだった短歌から口語体で若者の日常のありふれた気もちを表した軽快な作品が同感を呼び、爆発的に人気が広がりました。このように言葉を5・7・5・7・7の語数で区切らないものを自由律短歌といいます。

 

次は7月の花である向日葵(ひまわり)が大好きだったという寺山修司さんの作品から2首ご紹介いたします。

 

【NO.4】寺山修司

『 列車にて 遠く見ている 向日葵は 少年のふる 帽子のごとし 』

意味:列車の中から遠く離れた場所に見えている向日葵が揺れているのが少年が振っている帽子のように見えるよ

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ここでは列車の中から遠くにある向日葵を見て、と解釈しましたが、列車の中に向日葵があって揺れる様子を詠んだものだという見方もあります。どちらにしても明るい向日葵と少年が無邪気に帽子を振る姿を想像させる、微笑ましい短歌です。

 

【NO.5】寺山修司

『 わがシャツを 干さん高さの 向日葵は 明日開くべし 明日を信ぜん 』

意味:自分のシャツを干せるくらいの高さにまで成長した向日葵よ。明日は花開くはずだ、明日を信じているぞ

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洗濯物を干しながら目の前に見えた向日葵を詠んだのでしょうか。「べし」「ぜん」とスパッと言い切っているところが劇作家でもあった作者らしい勢いのある短歌になっています。少しドラマがかったような表現ですが、自分の未来も開くと信じているぞ!と自身を鼓舞しているのかもしれません。

 

【NO.6】前田夕暮

『 向日葵は 金の油を 身にあびて ゆらりと高し 日のちひささよ 』

意味:向日葵はまるで金色の油のような真夏の陽射しを浴びてゆらりと高く咲いています。まるで太陽が小さく見えるほどに

短歌職人
ギラギラに射している陽の光を「金の油」と表現しているのが印象的です。ひまわりの種から食用油が採れることとつなげているのかも知れませんね。「ゆらり」が暑い日の陽炎を想像させる効果にもなっています。

 

【NO.7】樋口一葉

『 板びさし あれてもりくる 月かげに うつるも涼し ゆふがおの花 』

意味:壊れた板葺のひさしから漏れさしている月明かりに照らされてた夕顔が涼しげに見えるよ

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「かげ」は光のことです。月の青白い光の中に見えている夕顔は暑い夜でも涼しげに見えたのでしょう。情景からしんとした静かな雰囲気も伝わってきます。

 

【NO.8】北原白秋

『 石崖に 子ども七人 腰かけて 河豚(フグ)を釣り居り 夕焼け小焼け 』

意味:海岸の石崖に子どもが七人腰掛けてフグを釣っている。夕焼け小焼けに照らされて。

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夏の長い一日、夕焼けになるまで海岸で遊んでいる七人の子どもたちは微笑ましいですね。神奈川の城ヶ島という岩だらけの海岸がモデルで、そこは夕日がよく見える場所でもあります。作者自身の経験を思い出して詠んだのか実際に見た子どもたちを詠んだのかどちらでしょうか。

 

それでは現代短歌も最後は蝉の歌をご紹介いたします。

 

【NO.9】窪田空穂

『 鳴く蝉を 手(た)握り持ちて その頭 をりをり見つつ 童(わらべ)走(は)せ来る 』

意味:鳴いている蝉を手に握って、その蝉の頭を時々見ながら子どもが走ってくるよ

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走りながら持っている蝉の頭を時々見ているのは大丈夫かな?と気にしているのでしょうね。作者に向かって「走せ来る」子どもの様子から、ねえ見て!捕まえたよ!と嬉しい気持ちが溢れています。

 

【NO.10】岡本かの子

『 鳴く蝉の 命の限り 鳴く声は 夏のみそらに ひびき沁みけり 』

意味:短い命の限りいっぱいに鳴く蝉の声は夏の空に響き渡って沁みていくようだ

短歌職人
「みそら」は美空もしくは御空で、美しい空が晴れ渡っている様子です。蝉の声が「沁み」とくると松尾芭蕉の「岩に沁みいる」という有名な俳句が思い浮かびますが、こちらは声が下にある岩ではなく空高く飛んで消えていくイメージですね。

 

以上、7月の有名短歌集でした!

 

同じ題材でも昔と現代短歌の違い、もしくは共通点を感じていただけたでしょうか?

 

現代短歌では難しい古文のような言い回しをせず、口語体や自由律で詠われるものも多くなっています。

 

七月ならではの題材はここにあげたような七夕やひまわり・蝉の他にも、俳諧の季語を参考にしてもいいですし、サラダ記念日のように個人的に忘れられない出来事を詠むのも面白いですよね。

 

短歌職人
ぜひ短歌作りにチャレンジしてみてください!