11月と言えば、秋も深まり、厳しい冬へと向かっていく季節ですね。
11月をテーマに詠まれた短歌は、秋の終わりを感じ、冬の訪れを想って少しもの悲しい、心にじんわりと染み入る歌が多いのが特徴です。
また、人恋しさもいっそう強くなる季節ですから、恋しい人を想って詠まれた歌も多くあります。
時代が変わっても、秋の終わりになんとなく寂しさを感じる私たちの心は、変わらないのかもしれませんね。
今回はそんな11月のおすすめ短歌(和歌)をご紹介します。
11月の有名短歌(和歌)集【昔の短歌(和歌) 10選】
ここからは、短歌がおこった飛鳥時代から江戸時代まで有名短歌&和歌作品をご紹介していきます。
【NO.1】凡河内躬恒(百人一首)
『 心当てに 折らばな折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花 』
意味:無造作に折ろうとすれば、果たして折れるだろうか。初霜が一面に降り、咲いている白菊の花とは見分けもつかなくなっているというのに。
【NO.2】後京極摂政前太政大臣(百人一首)
『 きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む 』
意味:こおろぎがしきりに鳴いている、霜の降るこの寒い夜に、むしろの上に衣の片袖をひいて、私はひとり寂しく眠るのだろうか。
【NO.3】貞信公(百人一首)
『 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば いまひとたびの みゆきまたなむ 』
意味:小倉山の美しい紅葉たち、もしあなたたちに心があるならば、もう一度行われるであろう行幸を待っていてくれませんか。
【NO.4】猿丸太夫(百人一首)
『 奥山に もみぢふみわけ なく鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき 』
意味:奥深い山の中で、紅葉の葉を踏み歩きながら、妻を呼んでいる鹿の声を聴くと、この秋の寂しさがいっそう強くなることだ。
【NO.5】和泉式部(和泉式部続集)
『 竹の葉に あられ降るなり さらさらに 独りは寝ぬべき 心地こそせね 』
意味:竹の葉に雹(ひょう。ここではあられと書いています)が降っている、さらさらと。だから、決して一人では寝る気持ちになれないことだわ。
【NO.6】紫式部(新古今和歌集)
『 ふればかく うさのみまさる 世を知らで 荒れたる庭に つもる初雪 』
意味:年月が経ち、このように辛さだけが多くなった世の中を知らずに、荒れてしまった庭に積もる初雪よ…。
【NO.7】藤原家経(後拾遣和歌集)
『 もみぢ散る 音は時雨の ここちして こずゑの空は くもらざりけり 』
意味:紅葉が散る音は、時雨のような心地がしても、梢の上の空は、曇らなかったことだ。
【NO.8】源俊頼(散木奇歌集)
『 しぐるれば 夕くれなゐの 花ころも 誰がそめかけし 遠のたかねぞ 』
意味:時雨が降ったので、夕方の空の虹色のように、誰が染め上げてやったのだろうと思う、あの山の高嶺を。
【NO.9】藤原俊成(新古今和歌集)
『 おきあかす 秋のわかれの 袖の露 霜こそ結べ 冬や来ぬらむ 』
意味:眠りにつかないで夜を明かすと、昨日の秋との別れをしめす袖の露(涙)が、朝になって霜を結んでいる。いよいよ冬がきたのだなあ。
【NO.10】藤原定家(出典不明)
『 よしさらば 四方の木枯らし 吹きはらへ 一葉くもらぬ 月をだに見む 』
意味:よし、四方からの木枯らしよ、吹き払ってくれ。せめて、曇っていない月だけでも見ていたいから。
11月の有名短歌集【現代/近代短歌 10選】
続いては、明治時代から現代までに詠まれた11月の短歌をご紹介します。
【NO.1】正岡子規(正岡子規歌集)
『 君と我 二人かたらふ 窓の外の もみぢの梢 横日さす也 』
意味:君と私が2人で語り合っている、窓の外に立つ紅葉の梢から、横日が射していることだ。
【NO.2】正岡子規(正岡子規歌集)
『 奥山に 淋しく立てる くれなゐの 木の子は人の 命とるとふ 』
意味:奥深い山に、ひとり淋しく立っている赤いキノコは(毒があり)、人の命を奪うという。
【NO.3】齋藤茂吉(赤光)
『 鶏頭の 古りたる紅の 見ゆるまで わが庭のへに 月ぞ照りける 』
意味:色あせてしまった鶏頭の赤い花がよく見えるまで、私の庭のそばに月明かりが照ってきていることだ。
【NO.4】土田耕平(出典不明)
『 仰ぎ見る 空の色さへ 澄みはてて 木枯らしの風 吹きにけるかも 』
意味:見上げた空の色さえ、澄み切ってしまったように、木枯らしが(強く)吹いていることだ。
【NO.5】長塚節(出典不明)
『 小春日の 庭に竹ゆい 稻かけて 見えずなりたる 山茶花の花 』
意味:小春日に、庭に竹をゆい、稻をかけて縛ったことで、山茶花(さざんか)の花が咲いていたのが見えなくなったことだ。
【NO.6】伊藤左千夫(出典不明)
『 塵塚の 燃ゆる煙の 目に立ちて 寒しこの頃 朝々の霜 』
意味:塵塚の、ごみを燃やしている煙が目にしみて、すっかり寒くなったこの頃には、朝になると霜が張っている。
【NO.7】与謝野晶子(晶子詩篇全集)
『 冬の神 もとどりはなち かけたまふ あとにつづきぬ 木枯らしの風 』
意味:冬の神様が、私の髪を結っているところを放って、かけてゆくようだ。その後に続くのは、木枯らしの風たちよ。
【NO.8】若山牧水(出典不明)
『 貧しさを 嘆くこころも 年年に 移ろうものか 枇杷咲きにけり 』
意味:貧しさを嘆くその心も、次第に年月が経つにつれ変わっていくものなのだろうか。枇杷(の花)が咲いていることだ。
【NO.9】島木赤彦(氷魚)
『 窓の外に 白き八つ手の 花咲きて こころ寂しき 冬は来にけり 』
意味:窓の外に、白い八つ手の花が咲いているのを見つけて、心寂しくなった。冬がやってくるのだ。
【NO.10】俵万智(かぜのてのひら)
『 やわらかな 秋の陽ざしに 奏でられ 川は流れてゆく オルゴール 』
意味:やわらかな秋の陽ざしは、まるで音楽を奏でているかのよう、川の流れは秋の陽ざしが奏でたオルゴールみたいだ。
さいごに
今回は、11月の短歌(和歌)についてご紹介してきました。
和歌と呼ばれていた昔の短歌と、近代・現代の短歌では、11月という季節に関しても少し感じ方が違っているかもしれません。
そんな中で、秋の終わりになんとなくもの悲しくなるような感覚や、冷たい木枯らしを身体に受けている時の感じなど、時代が変わっても変わらない心の動きがあるかと思います。
赤く染まった紅葉が落葉していくとき、朝起きてみると霜が降りていたとき、小春日のように暖かい日に巡り合った時…あなたが心震えるのはどんな時でしょうか?