【塚本邦雄の有名短歌 20選】前衛短歌の三雄のひとり!!短歌の特徴や人物像•代表作を徹底解説

 

「塚本邦雄」という人物をご存知でしょうか。

 

彼は詩人であり評論家、小説家でもあり、そして歌人として名を馳せた人物。寺山修司・岡井隆と共に「前衛短歌の三雄」と称され、当時の短歌を牽引する存在でありました。

 

 

今回は、塚本邦雄の有名短歌20首ご紹介します。

 

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ぜひ一緒に鑑賞してみましょう。

 

塚本邦雄の人物像や作風

 

塚本邦雄(つかもとくにお)は、1920年(大正9年)滋賀県生まれ、昭和後期から平成時代に活躍した歌人、詩人、評論家、小説家です。

 

塚本の読む歌は、反写実的で幻想的な世界観を持ち、句跨りや破調といった「前衛的な技法」が特徴です。

 

また、歌人・斎藤史に「喩を短歌に縫い取る『喩の刺繍者』」と言わしめた巧みな暗喩捌きが特徴で、旧字旧仮名遣いで作品を詠むことにこだわりを持ち、実際に多くの歌に用いられています。

 

 

作歌の始まりは兄の影響で、高校卒業後、商社勤務をしながら創作活動を行なっていました。

 

20代前半には広島の呉海軍工廠に徴用され、その際に仰ぎ見た原爆のキノコ雲が忘れられず、戦争への嫌悪感として大きな影響を及ぼしたことが残っている作品からも窺い知れます。

 

戦後は大阪へと移り、結婚、長男の誕生を経て、転勤先で知り合った杉原一司と意気投合し、同人誌「メトード」を創刊、惜しくも翌年に他界した杉原の追悼として処女歌集「水葬物語」を刊行すると、その出来は三島由紀夫らに絶賛されました。

 

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以降も膨大な量の歌をその生涯で詠んでおり、「現代短歌大賞」「紫綬褒章」「勲四等旭日小綬章」等、数多くの賞を授与される功績を残しています。

 

 

塚本邦雄の有名短歌・代表作【20選】

 

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ここからは、塚本邦雄のおすすめ短歌を20首紹介していきます!

 

塚本邦雄の有名短歌【1〜10首

 

【NO.1】

『 馬を洗はば 馬のたましひ 冱ゆるまで 人戀はば 人あやむるこころ 』

【意味】馬を洗うならば体だけでなくその魂が冴えるまで洗い、人に恋し愛するならば殺意になり得るほどの情熱で愛すことだ。

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塚本邦雄の代表作の一つで、歌集「感幻樂」の一首です。前衛的な短歌を作るとして知られていただけあり、初句が七音である形式に加え、少々過激な言い回しからは売りでもあったその明敏さが感じられます。

【NO.2】

『 日本脱出したし 皇帝ペンギンも 皇帝ペンギン 飼育係りも 』

【意味】日本から脱出したいものだ。皇帝ペンギンも、またその飼育係も。

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この歌は、歌集「日本人霊歌」に収められており、同歌集の冒頭を飾っています。歌中に出てくる皇帝ペンギンは「天皇」を、飼育係は「国民」を指し、戦後の日本の混乱や息苦しさの隠喩であると言われています。

【NO.3】

『 五月祭の 汗の青年 病むわれは 火のごとき孤独 もちてへだたる 』

【意味】五月祭に参加し、汗を流す青年が居る。その姿を見て気を病む私は、火のような熱い孤独を持ち隔たっている。

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この歌には複数の解釈があると言われています。五月祭は、労働者が集まり権利を主張する「メーデー」を指しており、その参加者の青年が汗を流す姿に対し「われ」が何を思うかで分かれています。一つは、何も行動を起こしていない自分に嫌気と孤独を感じているもの。一つは、見せかけの健全さや隊列を組むいやらしさを青年に覚え、嫌悪感を抱くもの。そしてまた一つは、その嫌悪感の正体は実は羨望の裏返しである、といったものです。いずれにせよ「火のごとき熱い孤独」を持ち合わせているのであれば、気を病む必要など無かったことでしょう。

【NO.4】

『 革命歌 作詞家に凭()りかかられて すこしずつ液化 してゆくピアノ 』

【意味】革命歌の作詞家によりかかられ、ピアノは少しずつ液状化していく。

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この歌は、一つの単語が二つ目の句の切れ目を跨ぎ、五七五七七それぞれの字数に意味が収まらない「句跨(またが)り」という手法を使った破調の短歌です。満足気にピアノに寄りかかる革命歌の作詞家に対し、形を保てないほどの嫌悪感をピアノが抱いている様子が見えてきます。革命歌と純粋な音楽、本来部類の異なる両者を「音楽」と一括りに称す作詞家への侮蔑が感じられる一首です。

【NO.5】

『 突風に 生卵割れ、かつてかく 撃ちぬかれたる 兵士の眼 』

【意味】突風で落ちた生卵が割れた。その様はかつて撃ち抜かれた兵士の眼球のようだ。

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割れた生卵から流れ出す白身と黄身とを、兵士の撃たれた眼球に重ね合わせた歌です。痛ましい表現でありながらも幻想的で、また淡々と語るその描写からは残酷美を思わされます。

【NO.6】

『 晴天に もつるるとほき ラガー見む 翳せし指の 閒(あい)の地獄に 』

【意味】陽射しの照る日に離れた場所からラグビーを観戦する。翳した指の間からは地獄のような光景が見えている。

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上の句では爽やかさすら感じるこの歌ですが、下の句によって全体の雰囲気ががらりと変わっています。選手同士がぶつかり合い、倒れ込んだり流血したりといった試合の激しさに加え、それぞれのユニフォームの色が混じり視覚的にも騒々しいであろうその場面には、「地獄」という言葉が最適であったかもしれません。翳した手は降り注ぐ陽を遮るためであったか、はたまたその地獄に耐えられないと顔を覆うためであったか、想像が掻き立てられます。

 

【NO.7】

『 ずぶ濡れの ラガー奔(はし)るを 見おろせり 未来に向けるもの みな走る 』

【意味】ずぶ濡れになりながら奔るラガーマンを観客席から見下ろした、皆未来に向かって走っている。

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この歌では、同じ意味合いであるはずの「奔る」と「走る」が使い分けられています。恐らく「奔る」では競技として物理的に駆ける様子を、後者は未来に(あるいは死に)向かって走る、いわゆる精神性を表す抽象的なものであると考えられます。また、未来を持つ対象は若年層だけでは無いため、広義で「走る」を利用したのかもしれません。

【NO.8】

『 水に卵 うむ蜉蝣よ われにまだ 惡なさむための 半生がある 』

【意味】水中に卵を産むカゲロウよ、まだ私に悪を成すための半生が残っているであろう。

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カゲロウは幼虫期こそ数年あるものの、亜成虫を経て成虫になってからが非常に短命で、交尾・産卵を終えると数時間程度で死んでしまいます。そんなカゲロウの短命ですら、塚本の手にかかれば残された半生で足掻けると、希望を抱かずには居られない一首です。

【NO.9】

『 卵黄吸ひし 孔ほの白し 死はかかる やさしきひとみもて われを視む 』

【意味】卵黄を吸い、殻に空いた穴は仄白い。優しき死の瞳は私を見ている。

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NO.5】の歌同様、こちらでも卵を眼玉に見立てています。命の核である卵黄を食し、抜け殻となった卵を死と表現する描写からは、前述の歌よりも更に空虚な印象を受けます。また、空けられた穴がこちらを覗く様子には得も言われぬ不安が漂うようです

【NO.10】

『 戰爭の たびに砂鐵を したたらす 暗き乳房の ために禱(いの)るも 』

【意味】幾ら祈ろうとも、戦争の度に乳房は砂鉄をしたたらす。

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この歌には様々な解釈がありますが、乳房を女性、砂鉄を涙の暗喩としたものでは、徴兵により愛する人を奪われた女性の嘆きを詠んでいると捉えられています。個人的には、戦禍で栄養が取れず劣悪な環境で与える母乳を砂鉄に喩え、赤子を思うように育ててあげられない母の苦しみに感じられました。

塚本邦雄の有名短歌【11〜20首

【NO.11】

『 受胎せむ希ひとおそれ、新緑の夜夜妻の掌に針のひかりを 』

【意味】受胎したい望みと、したくない恐れ。初夏の木々の艶やかな緑が揺れる夜の度、月明かりが妻の掌を針のよう刺す。

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妻の掌に刺す月明かりは、恐らく天から降り注ぐ受胎告知を指します。妊娠への期待と不安、それは身籠る妻だけでなく夫も同様であったことがどことなく伝わってくるようです。

【NO.12】

『 園丁は 薔薇の沐浴(ゆあみ)の すむまでを 蝶につきまとはれつつ待てり 』

【意味】庭師はバラの花に水をあげ終えるまでを、蝶に付き纏われながら待っている。

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花の水やりを湯浴みと表現し、その周囲を蝶が舞う、映画のワンシーンのような歌です。バラと蝶のどちらにも擬人法が使われているため、登場人物が際立ちより幻想的な世界観に感じます。

【NO.13】

『 謝肉祭の よひから瞳 ふせしまま うつとりと人を 待つセニョリータ 』

【意味】謝肉祭の宵から、お嬢さんが瞳を伏せたままうっとりと人を待っている。

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謝肉祭に胸を躍らせる女性の様子が描かれています。しかし、瞳を伏せたまま待つその姿からは期待だけでなく恥じらいも感じられ、また所作の描写からは気品が漂ってくるようです。

【NO.14】

『 ひる眠る 水夫のために 少年が そのまくらべに かざる花合歓(はなねむ)

【意味】昼時に眠る水夫のため、少年はその枕元に合歓の花を飾る。

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歌集「水葬物語」の内の一首で、謝肉祭で夜通し踊った水夫が昼まで眠っている様子を詠んだ歌と言われています。水夫の無骨で荒々しい様により、少年の、枕元に花を飾る繊細さと思慮深さが際立っています。

【NO.15】

『 錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵 』

【意味】きり・さそり・ひでり・かり・すり・おり・おとり・もり・そり・ふたり・くさり・ゆり・ちり。

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塚本の作品は難解なものが多いですが、中でも読み手を困らせる一首がこの歌です。「り」で終わる名詞を13個並べており、声に出して読むと綺麗に嵌る五七五七七に感動を覚えます。明確な意味は無く、墓碑銘という人も居れば、単語を繋ぎ合わせて物語にする人も居るようです。

【NO.16】

『 棒高跳の 青年天に突き刺さる 一瞬のみづみづしき罰を 』

【意味】棒高跳びをする青年が天に突き刺さるその一瞬は、天罰を受けているように見える。

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この歌からは、通常であれば合致しない「青年」と「死」とを結びつける塚本の色を感じます。跳躍し天に突き刺さる様は、磔や杭に打たれる絵が連想され、確かに青年の若々しい姿であればより「みづみづしき罰」にも思われます。

【NO.17】

『 城のごとき ものそそりたつ 青年の 内部、怒れる 目より覗けば 』

【意味】青年の怒れる目を覗くと、その内部で城のようなものがそそり立っているのが見える。

短歌職人
歌集「日本人霊歌」の内の一首です。塚本の反写実的且つ幻想的な表現が際立つ作品で、「城のごときもの」や「怒れる目」からは青年期特有の頑固さや思想の強さ、溢れるエネルギーを感じます。

【NO.18】

『 海底に 夜ごとしづかに 溶けゐつつ あらむ。航空 母艦も火夫も 』

【意味】海底では毎夜静かに溶けていっているのであろう。沈没した航空母艦も、乗船していた火夫達も。

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終戦を迎え、破壊された街の修繕が済み、人々の記憶から戦闘機や航空母艦が薄れていったとしても、沈んだ空母と乗組員達は今尚海底で溶け続けている、戦争の悲惨さを生々しく日常的に思い出させる歌です。塚本自身、20代前半で広島にある呉海軍工廠に徴用されており、その経験がこの歌に一層の説得力を持たせています。

【NO.19】

『 金木犀 母こそとはの 娼婦なる その脚まひる たらひに浸し 』

【意味】金木犀の香る季節、真昼に水の張ったたらいに脚を浸す母は永遠の娼婦である。

短歌職人
母を「親」ではなく、女性という神秘的な存在として外側から見ている印象を受けました。子供というだけで献身的に尽くす母親の愛情深さは何を持ってしても補えるものではなく、それでいて性をふと感じさせる雰囲気も持ち合わせる、そんな聖母にも娼婦にもなれる母は不思議で、非常に魅力のある生命体のように思えてきます。

【NO.20】

『 ゆきたくて 誰もゆけない 夏の野の ソーダ・ファウンテンにある レダの靴 』

【意味】行きたくても誰も辿り着くことの出来ない、夏の野のソーダファウンテンにあるレダの靴。

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「ソーダ・ファウンテン」はソーダ水など清涼飲料水を提供する店や売り場のことでアメリカで使われている言葉でした。今でこそ日本にも馴染みのあるものとなりましたが、当時はまだ異国文化の香りが漂っていたはずです。また、「レダ」はギリシャ神話に登場する美しい女神で、靴に関する逸話はありませんが、靴から連想される脚線や踊り出しそうな軽やかさが感じられ、上下どちらの句をとっても幻のような美しさのある一首です。

 

以上、塚本邦雄が詠んだ有名短歌20選でした!

 

 

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今回は、塚本邦夫の詠んだ短歌20首をご紹介しました。
皮肉めいた暗喩に、明敏な切り口、そして現実でありながらも現実を感じさせないユーモアと豊かなその視点…。彼の歌はまるで読み手を深く新しい世界に導いてくれるようです。
塚本邦夫の作品にもっと触れてみたい方は、ぜひご自身で調べて見てください!