夕焼けの美しさは多くの人を感動させ、またセンチメンタルな気持ちにさせます。
「夕焼け」という言葉自体は新しく、古代にはなかった単語だと考えられていますが、夕日を歌った短歌や和歌は昔から多くあり、沈む日に心を震わせて見つめる人の気持ちは時代を経ても共通のようです。
今回は、「夕焼け」をテーマにしたおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介します。
お話の国クラシックで穂村弘さんの短歌が紹介されていました。
校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け
(穂村弘) pic.twitter.com/naclg6cgje— めんだこ寿司 (@568haru) February 2, 2015
夕焼けについて詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】
まずは、飛鳥時代から鎌倉時代までに詠まれた夕焼けの和歌を10首紹介します。
【NO.1】中大兄
『 海神(わたつみ)の とよはたくもに 入日さし 今夜の月夜 さやけくありこそ 』
【意味】海にたなびく雲に夕日が差している。今夜は澄んだ月が見られるだろう。
【NO.2】詠み人知らず
『 あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千たび嘆きて 恋ひつつぞ居る 』
【意味】茜色の光が差す日暮れはどうしようもなく、幾度も嘆いて恋心ばかりつのる。
【NO.3】寂蓮
『 さびしさは その色としも なかりけり 真木立つ山の 秋の夕暮れ 』
【意味】寂しさとは紅葉に感じるだけではなかったのだ。常緑樹の山の夕暮れよ。
【NO.4】前大納言忠良
『 夕づく日 さすや庵の 柴の戸に さびしくもあるか ひぐらしの声 』
【意味】夕日が差す庵の柴の戸を閉める時は物寂しく、ひぐらしの声が聞こえる。
【NO.5】慈円
『 身にとまる 思を萩の うは葉にて このごろかなし 夕ぐれの空 』
【意味】この身に留まる思いは萩の上葉のようで、この頃は夕暮れの空がかなしい。
【NO.6】藤原定家
『 駒とめて 袖うち払ふ かげもなし 佐野のわたりの 雪のゆふぐれ 』
【意味】馬を止めて袖の雪を払うような物陰もない。佐野の渡し場の雪の夕暮れよ。
家や小屋のようなものは何もない一面の雪景色です。夕闇が迫り、歌の主人公は沈みかける夕日を見ているのかもしれません。静かで寂しい歌です。
【NO.7】藤原定家
『 見わたせば 花も紅葉も なかりけり 浦のとまやの 秋の夕ぐれ 』
【意味】見渡せば花も紅葉もないのだ。海辺の小屋の秋の夕暮れよ。
【NO.8】和泉式部
『 夕暮は 雲のけしきを 見るからに ながめじと思ふ 心こそつけ 』
【意味】夕暮れは雲を見てしまうから、眺めるのはよそうと思う。
【NO.9】藤原為家
『 海に入る 難波の浦の 夕日こそ 西にさしける 光なりけれ 』
【意味】海に入る難波の海の夕日こそ西方に射す光なのだ。
【NO.10】伏見院
『 入りがたの 峰の夕日に みがかれて こほれる山の 雪ぞひかれる 』
【意味】峰に沈む夕日に磨かれて氷らんとする山の雪が光っている。
夕焼けについて詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】
次に、明治から現代までに詠まれた夕焼けの有名短歌を10首紹介します。
【NO.11】正岡子規
『 夕日影 照り返したる 山陰の 桃の林に 煙立ちけり 』
【意味】夕日が照り映える山の陰の桃の林に煙が上がっている。
【NO.12】伊藤左千夫
『 幼きを ふたりつれたち 月草の 磯辺をくれば 雲夕焼けす 』
【意味】幼い子を二人連れてツユクサの生える海岸を歩けば雲が夕焼けに染まっている。
【NO.13】島木赤彦
『 夕焼け空 焦げきはまれる 下にして 氷らんとする 湖のしずけさ 』
【意味】夕焼け空は焦げるようで、その下で凍ろうとする湖の静けさよ。
【NO.14】島木赤彦
『 夕やけの 光の街は 瓦斯の灯の 青くあやしく 満ちゆかんとす 』
【意味】夕焼けの光に包まれた街はガスの灯りが青くあやしく満ちゆこうとしている。
【NO.15】土屋文明
『 西方に 狭ひらけて 夕あかし 吾が恋ふる人の 国の入日か 』
【意味】西に山がひらけて夕日が赤い。私の恋しい人の土地に沈む夕日なのか。
【NO.16】斎藤茂吉
『 ゆふ日とほく 金に光れば 群童は 眼つむりて斜面を ころがりにけり 』
【意味】夕日が遠くで金色に光るから子供たちは目をつむって斜面をころがっていくよ。
【NO.17】佐藤佐太郎
『 夕光の なかにまぶしく 花みちて しだれ桜は 輝(かがやき)を垂る 』
【意味】夕日の光の中にまぶしく花が満ちて、しだれ桜は輝きを垂らせている。
【NO.18】穂村弘
『 校庭の 地ならし用の ローラーに 座れば世界中が夕焼け 』
【意味】校庭の地ならし用のローラーに腰かければ世界中が夕焼けだ。
放課後に校庭の地ならし作業を終えた後でしょうか。大きなローラーの上に座って、気付くと空は夕焼け。夕焼け色に染まった広い校庭に座っていると、まるで自分を中心にして世界全てが夕焼けであるかのように思える、そんな気持ちを感じる歌です。
【NO.19】藤本玲未
『 夕焼けの 付箋で街を 埋めつくす わたしたちには 正解がない 』
【意味】夕焼けの付箋で街を埋めつくす私たちには正解がない。
【NO.20】冨樫由美子
『 美しい 夕焼けだけを 数へつつ 海辺の町に 夏を過ごしぬ 』
【意味】美しい夕焼けだけを数えながら海辺の町で夏を過ごした。
美しい夕焼けだけを覚えていようとしたのでしょうか。海辺の町で過ごす夏は、人が憧れるような素敵なシチュエーションです。しかしこの歌には、傷付いた人がそれを癒すために美しいものだけを見ようとするような寂しさを感じます。
以上、夕焼けについて詠った有名短歌/和歌集でした!
夕焼けは昔から現代まで多くの人に愛されてきました。
中には「夕焼けハンター」と言って最高の夕焼けを見にあちこち出かけるという人もいます。
皆さんも夕焼けを見て感動することがあったら、その時の気持ちをぜひ短歌にしてみてください。