【夕焼けの有名短歌 20選】知っておきたい!!落日の情景を詠んだ短歌(和歌)を紹介

 

夕焼けの美しさは多くの人を感動させ、またセンチメンタルな気持ちにさせます。

 

「夕焼け」という言葉自体は新しく、古代にはなかった単語だと考えられていますが、夕日を歌った短歌や和歌は昔から多くあり、沈む日に心を震わせて見つめる人の気持ちは時代を経ても共通のようです。

 

今回は、「夕焼け」をテーマにしたおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介します。

 

 

短歌職人
ぜひ一緒に鑑賞してみましょう。

 

夕焼けについて詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】

 

短歌職人

まずは、飛鳥時代から鎌倉時代までに詠まれた夕焼けの和歌を10首紹介します。

 

【NO.1】中大兄

『 海神(わたつみ)の とよはたくもに 入日さし 今夜の月夜 さやけくありこそ 』

【意味】海にたなびく雲に夕日が差している。今夜は澄んだ月が見られるだろう。

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夕日に赤く染まった海と雲が想像されます。「さやけく」は「清く澄んでいる」といった意味です。作者は美しい夕焼けに感動し、これほど綺麗な空なら夜になっても美しい月が出ると期待したのでしょう。

 

【NO.2】詠み人知らず

『 あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千たび嘆きて 恋ひつつぞ居る 』

【意味】茜色の光が差す日暮れはどうしようもなく、幾度も嘆いて恋心ばかりつのる。

短歌職人
「千たび」は数えきれないことを表します。夕焼けは人を寂しい気持ちにさせることがありますが、作者は夕日を眺めては恋しい相手を思い出して切なく、何度もため息をついていたのでしょう。

 

【NO.3】寂蓮

『 さびしさは その色としも なかりけり 真木立つ山の 秋の夕暮れ 』

【意味】寂しさとは紅葉に感じるだけではなかったのだ。常緑樹の山の夕暮れよ。

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秋の和歌には紅葉した葉が散るのを見て寂しいと思う内容が多くありますが、作者は紅葉しない緑の山に秋の寂しさを感じています。夕暮れの赤い光が緑の山際を染める情景には確かにしんみりとした趣があります。

 

【NO.4】前大納言忠良

『 夕づく日 さすや庵の 柴の戸に さびしくもあるか ひぐらしの声 』

【意味】夕日が差す庵の柴の戸を閉める時は物寂しく、ひぐらしの声が聞こえる。

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「さす」は夕日が「差す」と戸を閉めることを意味する「鎖す(さす)」の掛詞です。夕日に染まった外を見ながら戸を閉めると、部屋は光が入らず暗くなっていく、寂しさを感じているとひぐらしの声がして、ますます寂しさがつのるという内容です。

 

【NO.5】慈円

『 身にとまる 思を萩の うは葉にて このごろかなし 夕ぐれの空 』

【意味】この身に留まる思いは萩の上葉のようで、この頃は夕暮れの空がかなしい。

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萩は上部の葉がすぐに落ちてしまうことから、儚さをたとえる言葉として使われます。作者は人の気持ちは移りやすく儚いものだと感じていて、夕焼け空を見ると一層悲しくなったのでしょう。

 

【NO.6】藤原定家

『 駒とめて 袖うち払ふ かげもなし 佐野のわたりの 雪のゆふぐれ 』

【意味】馬を止めて袖の雪を払うような物陰もない。佐野の渡し場の雪の夕暮れよ。

短歌職人

家や小屋のようなものは何もない一面の雪景色です。夕闇が迫り、歌の主人公は沈みかける夕日を見ているのかもしれません。静かで寂しい歌です。

 

【NO.7】藤原定家

『 見わたせば 花も紅葉も なかりけり 浦のとまやの 秋の夕ぐれ 』

【意味】見渡せば花も紅葉もないのだ。海辺の小屋の秋の夕暮れよ。

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秋を感じさせる花も紅葉もない海辺の小屋、しかしそこには確かに秋の趣があるのだという歌です。海辺にぽつんと立つ小屋と、海に沈もうとする夕日の組み合わせは寂しさが心に沁み入ります。

 

【NO.8】和泉式部

『 夕暮は 雲のけしきを 見るからに ながめじと思ふ 心こそつけ 』

【意味】夕暮れは雲を見てしまうから、眺めるのはよそうと思う。

短歌職人
作者は夕焼け空の雲を見ると寂しく切ない思いにかられ、眺めるのはやめようと考えたのでしょう。しかし夕焼けは不思議と心をひき付け、もう見まいと思いながらもつい見てしまったのではないでしょうか。

 

【NO.9】藤原為家

『 海に入る 難波の浦の 夕日こそ 西にさしける 光なりけれ 』

【意味】海に入る難波の海の夕日こそ西方に射す光なのだ。

短歌職人
この歌の「西」とは西方浄土のことで、仏さまの住む世界のことです。作者は西に沈む日の光をありがたい仏さまの光と思って、夕焼けの空を見つめ続けていたのでしょう。

 

【NO.10】伏見院

『 入りがたの 峰の夕日に みがかれて こほれる山の 雪ぞひかれる 』

【意味】峰に沈む夕日に磨かれて氷らんとする山の雪が光っている。

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峰に夕日が沈んでいく時に山際が輝く、その一瞬の情景を写真のように切り取った歌です。「みがかれて」からは山の雪が夕日にきらめく様子が想像されます。

 

夕焼けについて詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】

 

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次に、明治から現代までに詠まれた夕焼けの有名短歌を10首紹介します。

 

【NO.11】正岡子規

『 夕日影 照り返したる 山陰の 桃の林に 煙立ちけり 』

【意味】夕日が照り映える山の陰の桃の林に煙が上がっている。

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稜線が夕日の光を照り返して光っています。夕日の当たらない山陰には桃の林があり、そこに一筋の煙が上がっています。きっと人家があって、夕食の煮炊きなどをしているのかもしれない、そう思うと何とも趣深いものだと作者は感じたのかもしれません。

 

【NO.12】伊藤左千夫

『 幼きを ふたりつれたち 月草の 磯辺をくれば 雲夕焼けす 』

【意味】幼い子を二人連れてツユクサの生える海岸を歩けば雲が夕焼けに染まっている。

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子どもたちと手をつないで夕方の海岸を散歩していたのでしょうか。「雲夕焼けす」という表現からは雲が焼けるように赤く染まっている様子が想像されます。

 

【NO.13】島木赤彦

『 夕焼け空 焦げきはまれる 下にして 氷らんとする 湖のしずけさ 』

【意味】夕焼け空は焦げるようで、その下で凍ろうとする湖の静けさよ。

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「焦げきはまれる」という表現が真っ赤な夕焼けと焦げたように黒くなった雲を思わせます。燃えるような夕焼けの熱と凍る湖の冷たい静けさが対比となって詠まれています。

 

【NO.14】島木赤彦

『 夕やけの 光の街は 瓦斯の灯の 青くあやしく 満ちゆかんとす 』

【意味】夕焼けの光に包まれた街はガスの灯りが青くあやしく満ちゆこうとしている。

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夕焼けの光は優しく街を包みこみ、対して人工の灯りは青くどこか冷たくてあやしい、青い光が満ちていく町は自然の夕日を拒んでいるようにも思われます。

 

【NO.15】土屋文明

『 西方に 狭ひらけて 夕あかし 吾が恋ふる人の 国の入日か 』

【意味】西に山がひらけて夕日が赤い。私の恋しい人の土地に沈む夕日なのか。

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恋しい人は西の土地で暮らしているのでしょう。作者は沈む日を見て恋人を思い「あの人も同じ夕焼けを見ているだろうか」と考えていたかもしれません。

 

【NO.16】斎藤茂吉

『 ゆふ日とほく 金に光れば 群童は 眼つむりて斜面を ころがりにけり 』

【意味】夕日が遠くで金色に光るから子供たちは目をつむって斜面をころがっていくよ。

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「金に光れば」が夕日の輝きを表しています。子供たちは夕日がまぶしくて目を細めているのでしょう。字余りの歌ですが結びの「ころがりにけり」がテンポが良く、転がるように走って遊ぶ子供たちの楽しさが伝わります。

 

【NO.17】佐藤佐太郎

『 夕光の なかにまぶしく 花みちて しだれ桜は 輝(かがやき)を垂る 』

【意味】夕日の光の中にまぶしく花が満ちて、しだれ桜は輝きを垂らせている。

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夕日のまぶしい光に包まれて、何もかもが光って見える、その中でもしだれ桜の枝はまるで輝きを放って垂れているように見えるという内容です。ひと際光るしだれ桜には神聖さも感じます。

 

【NO.18】穂村弘

『 校庭の 地ならし用の ローラーに 座れば世界中が夕焼け 』

【意味】校庭の地ならし用のローラーに腰かければ世界中が夕焼けだ。

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放課後に校庭の地ならし作業を終えた後でしょうか。大きなローラーの上に座って、気付くと空は夕焼け。夕焼け色に染まった広い校庭に座っていると、まるで自分を中心にして世界全てが夕焼けであるかのように思える、そんな気持ちを感じる歌です。

 

【NO.19】藤本玲未

『 夕焼けの 付箋で街を 埋めつくす わたしたちには 正解がない 』

【意味】夕焼けの付箋で街を埋めつくす私たちには正解がない。

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夕焼けの光が街を覆う様子を「付箋で埋めつくす」と表現しています。街を埋める程の付箋がありながら「正解がない」とする言葉にはやるせなさや諦めが感じられ、夕焼けに対する寂しい思いが伝わります。

 

【NO.20】冨樫由美子

『 美しい 夕焼けだけを 数へつつ 海辺の町に 夏を過ごしぬ 』

【意味】美しい夕焼けだけを数えながら海辺の町で夏を過ごした。

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美しい夕焼けだけを覚えていようとしたのでしょうか。海辺の町で過ごす夏は、人が憧れるような素敵なシチュエーションです。しかしこの歌には、傷付いた人がそれを癒すために美しいものだけを見ようとするような寂しさを感じます。

 

以上、夕焼けについて詠った有名短歌/和歌集でした!

 

 

夕焼けは昔から現代まで多くの人に愛されてきました。

 

中には「夕焼けハンター」と言って最高の夕焼けを見にあちこち出かけるという人もいます。

 

皆さんも夕焼けを見て感動することがあったら、その時の気持ちをぜひ短歌にしてみてください。

 

短歌職人
きっと素敵な夕焼けの思い出になるでしょう。