日本は山が多く海に囲まれていて気候も良いため、さまざまな自然が楽しめます。
昔から多くの人が自然の姿に感動し、その気持ちを短歌に表現してきました。
今回は、自然をテーマにして詠まれた有名な短歌を20首紹介していきます。
自然がずんずん体のなかを通過する──山、山、山
前田夕暮
歌集『水源地帯』1932
1063 pic.twitter.com/ARPR6JTHnG— Pippo(official) (@pippoem2) March 30, 2017
意味や鑑賞文も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
自然をテーマにした有名短歌(和歌)集【前半10選】
【NO.1】山部赤人
『 若の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 葦辺を指して 鶴鳴き渡る 』
【意味】若の浦に潮が満ちてくると干潟がなくなり、葦の原を目指して鶴が鳴き飛んでいくよ。
【NO.2】大伴家持
『 夏山の 木末の茂に ほととぎす 鳴きとよむなる 声の遥けさ 』
【意味】夏の山の梢の茂みでホトトギスが鳴いている。鳴き声の響きは遥か遠くまで聴こえるようだよ。
【NO.3】柿本人麻呂
『 天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ 』
【意味】天の海に雲の波が立って、月の船が星の林へと漕いで隠れて行くのを見る。
【NO.4】山部王
『 秋山に もみつ木の葉の うつりなば さらにや秋を 見まく欲りせむ 』
【意味】秋の山の紅葉した葉が散ってしまったら、更に秋を見たいと思うだろうか。
【NO.5】紀清人
『 天の下 すでに覆ひて ふる雪の 光を見れば 貴くもあるか 』
【意味】天の下をもうすっかり覆って降る雪の光を見ると尊さを感じる。
【NO.6】紀貫之
『 照る月の 流るる見れば 天の川 いづるみなとは 海にざりける 』
【意味】照る月が流れて海へ入るのを見ると、天の川が流れ出る河口は海だったのだと思うよ。
月さえ海に沈むのだから天の川も地上の川と同じように、やはり海に注いでいるのだろうという内容です。作者は広大な海を見ていて、全てを受け入れる海は全てが行きつく場所なのだと感じたのかもしれません。
【NO.7】紀貫之
『 川風の すずしくもあるか うちよする 浪とともにや 秋はたつらむ 』
【意味】川に吹く風の何と涼しいことだろう。打ち寄せる波とともに秋も立つのだろう。
【NO.8】藤原忠通
『 わたのはら 漕ぎ出でてみれば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波 』
【意味】大海原に漕ぎ出してみると、はるか向こうの沖に雲と見間違うような白波が立っている。
【NO.9】建礼門院右京大夫
『 月をこそ ながめなれしか 星の夜の 深きあはれを 今宵知りぬる 』
【意味】月ばかり眺めてきていたけれど、星の夜にも深い趣があると今夜知った。
【NO.10】源実朝
『 箱根路を わが越えくれば 伊豆の海や 沖の小島に 波の寄る見ゆ 』
【意味】箱根の道を越えて来ればそこは伊豆の海だ。沖の小島に波が寄せては返すのが見える。
自然をテーマにした有名短歌(和歌)集【後半10選】
【NO.11】正岡子規
『 空はかる 台(うてな)の上に 上り立つ 我をめぐりて 星かがやけり 』
【意味】天文台に上って立つと私の周りで星が輝いているのだ。
【NO.12】石川啄木
『 しらしらと 氷かがやき 千鳥なく 釧路の海の 冬の月かな 』
【意味】白く氷が輝き千鳥が鳴いている釧路の海の、冬の月よ。
【NO.13】会津八一
『 あかぎねの をちかたとほき やまなみに ふたらさやけく くものよるみゆ 』
【意味】赤城山の遠く遠くの山並みに二荒山が立ち、そこに雲が寄っていくのを見る。
【NO.14】佐佐木信綱
『 山の上に たてりて久し 吾もまた 一本の木の 心地するかも 』
【意味】山の上に立ってじっとしていると私もまた一本の木になったような心地がするのだ。
【NO.15】斎藤茂吉
『 木立より 雪解のしずく 落つるおと 聞きつつわれは 歩みをとどむ 』
【意味】木立から雪どけのしずくが落ちる音を聞いて私は歩みを止めた。
【NO.16】土屋文明
『 夏の光 するどく空に うづまけり 崩れ著(いちぢる)き 十津川の山 』
【意味】夏の光は空に鋭く渦巻いている。十津川の渓谷は山を切り崩すように流れている。
【NO.17】島木赤彦
『 夕焼け空 焦げきはまれる 下にして 氷らんとする 湖のしずけさ 』
【意味】夕焼けの空は焦げるように赤く、その下で凍ろうとする湖の何としずかなことよ。
【NO.18】宮柊二
『 あたらしく 冬きたりけり 鞭のごと 幹ひびきあい 竹群はあり 』
【意味】新しい冬がやってきた。竹林では幹がしなって鞭のような音を立てている。
【NO.19】前田夕暮
『 自然がずんずん体のなかを通過する 山、山、山 』
【意味】自然がずんずんと体の中を通り過ぎていく 山、山、山。
【NO.20】俵万智
『 四万十に 光の粒をまきながら 川面をなでる 風の手のひら 』
【意味】四万十川に光の粒をまきながら風の手のひらが川面をなでていく。
以上、自然をテーマにした有名短歌集でした!
自然には海や山、空、風、雨や雪など、色々なものがあります。
雄大な山々を目の当たりにして自然に感動することもあれば、身近な場所で咲く花の姿に自然を感じることもあるでしょう。