「儚さ」とは物事が長く続かずにあっけなく無くなってしまう様子や、もろくて壊れやすいことを表す言葉です。
日本人は「儚さ」に哀愁や愛着を感じやすく、昔から儚いものを好んできました。短歌や和歌でも「儚さ」は非常に多くの作品で題材にされています。
今回はその中から、「儚さ」を歌ったおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介していきます。
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
啄木など読んでみる朝。 pic.twitter.com/OuQ8ZgK4— 北野辰一 Kitano Shinichi (@takayukitaka) October 16, 2012
儚さを詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】
【NO.1】石川啄木
『 いのちなき 砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の あひだより落つ 』
【意味】命のない砂の悲しいことよ、握れば指の間からさらさらと落ちる。
【NO.2】北原白秋
『 消え易き 花火思へば 短夜(みじかよ)は 玉とうちあがる 青き蓋 』
【意味】消えやすい花火を思えば短い夜は玉のように打ちあがる青い蓋。
【NO.3】萩原朔太郎
『 名なし小草 はかな小草の 霜ばしら 春の名残と ふまむ二人か 』
【意味】名もない小草、はかない小草の霜柱を春の名残と踏む二人か。
【NO.4】伊藤左千夫
『 世のなかに 光も立てず 星屑の 落ちては消ゆる あはれ星屑 』
【意味】世の中には光りもしない星屑があって落ちて消えていく、星屑のあわれなことよ。
【NO.5】若山牧水
『 病みぬれば 世のはかなさを とりあつめ 追わるるがごと 歌につづりぬ 』
【意味】病気になれば世の中の儚いことを取り集めて追われるように歌につづった。
【NO.6】斎藤茂吉
『 よひ闇の はかなかりける 遠くより 雷とどろきて 海に降る雨 』
【意味】儚い宵闇の遠くで雷がとどろいて海に雨が降る。
夜になろうとする暗闇の中で遠くから雷鳴が聞こえて雨が降り出したという内容です。暗さを儚いものと表現することで心細く頼りない気持ちを表し、作者の不安な心情を印象づけています。
【NO.7】宮柊二
『 蝋燭の 長き炎の かがやきて 揺れたるごとき 若き代過ぎぬ 』
【意味】蝋燭(ろうそく)の長い炎が輝いて揺れているような若い時代は過ぎた。
【NO.8】岡本かの子
『 桜ばな いのち一ぱいに 咲くからに 生命をかけて わが眺めたり 』
【意味】桜の花が命いっぱいに咲くから、命をかけて私も眺めるのだ。
【NO.9】荻原裕幸
『 チョコレートのやうにたやすく八月のあの風景も折れて曲がつた 』
【意味】チョコレートのようにたやすく8月のあの風景も折れて曲がった。
【NO.10】佐藤弓生
『 パパの手は煙となって ただいちど春の野原で受けた直球 』
【意味】パパの手は煙になっていった、ただ一度春の野原で直球を受けたあの手。
儚さを詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】
次に、平安時代から戦国時代までの儚さを歌った和歌を10首紹介します。
【NO.11】僧正遍昭
『 末の露 もとの雫や 世の中の おくれさきだつ ためしなるらむ 』
【意味】木の葉先の露、幹の雫よ。世の中は後か先かというだけの話だ。
【NO.12】詠み人知らず
『 世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ 』
【意味】この世は夢か現実か、現実とも夢とも分からず、あってないようなものだ。
【NO.13】紀友則
『 久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ 』
【意味】春の日差しがのどかなのに桜は心も落ちつかずに散っていくのだろうか。
【NO.14】藤原忠通
『 風吹けば 玉散る萩の 下露に はかなく宿る 野辺の月かな 』
【意味】風が吹けば玉となって散る萩の露に野の月が儚く宿っている。
【NO.15】小野小町
『 あはれなり わが身のはてや あさ緑 つひには野辺の 霞と思へば 』
【意味】あわれなことよ。わが身は最後には薄緑の煙になって野辺の霞になると思えば。
【NO.16】能宣朝臣
『 蘆鴨の 羽風になびく 浮草の 定めなき世を 誰か頼まむ 』
【意味】蘆鴨(あしがも)の羽になびく浮草のように不安定な世の中を誰が頼りにするだろうか。
【NO.17】西行
『 これや見し 昔住みけむ 跡ならむ よもぎが露に 月のかかれる 』
【意味】これが私が昔住んでいた家の後なのか。よもぎの露に月が映っている。
【NO.18】壬生忠岑
『 夢よりも 儚きものは 夏の夜の 暁がたの 別れなりけり 』
【意味】夢よりも儚いものは夏の夜が明ける時の別れなのだよ
夏の夜は短く、すぐに夜が明けて日が昇ります。この歌は作者が恋人と夜に密会し、あっという間に別れの朝がきたことを詠んだものです。別れのひと時は一瞬で夢よりも儚い、そんな切なさが歌われています。
【NO.19】待賢門院堀河
『 儚さを わが身の上に よそふれば 袂にかかる 秋の夕露 』
【意味】儚さをわが身にたとえてみれば、袂にかかる秋の夕の露のようなものだ。
【NO.20】豊臣秀吉
『 露と消え 露と散るぬる わが身かな 浪華の事は 夢のまた夢 』
【意味】露のように消えて露のように散ったわが身だよ。浪華の出来事は夢のまた夢。
秀吉の辞世の句として伝わる歌です。激動の人生を生きて天下人にまで上り詰めた秀吉も、一生を振り返ると夢のようにあっという間で儚く、自分は露のように消えていくのだと感じたのかもしれません。
以上、「儚さ」を詠った有名短歌/和歌集でした!
満開になればすぐに散る桜や、手の平に落ちると溶けてしまう粉雪、一瞬で壊れてしまうシャボン玉など、儚いものをつい見つめてしまった経験はありませんか?
「儚さ」という言葉は文学的で、難しいイメージを持っている人も多いかもしれません。
しかし、「消えやすいものや壊れやすいものを惜しむ気持ち」と言い換えると分かりやすくなるのではないでしょうか。