【短歌の比喩とは】簡単にわかりやすく解説!効果や使い方・有名短歌の例など

 

短歌でよく用いられる「比喩表現」。

 

比喩を使うことで言葉の幅が広がり、短歌に込めた心情を読み手が想像しやすくなります。

 

 

今回は「短歌における比喩」について簡単にわかりやすく解説していきます。

 

短歌職人
比喩について詳しく知りたいという人は、ぜひ参考にしてみてください!

 

短歌の比喩とは

 

比喩とは、あるものを別の何かに見立てて表現することをいいます。

 

自分が何かを見た時に、見ていない人にそれがどんなものなのか伝えようとして、それに似ている別の何かを引き合いに出して説明するような時などに比喩は使われます。

 

短歌に使われる主な比喩には「直喩」「隠喩」「擬人法」があります。

 

短歌職人
それぞれ短歌の例と一緒にくわしく見ていきましょう。

 

①直喩(ちょくゆ)

直喩は「バケツをひっくり反したような雨」「綿あめみたいな雲」のように、物事を別の何かにたとえていることが【一見】して分かる比喩表現のことです。

 

「~のようだ」「~のような」「~みたい」などの言葉が使われていることが特徴です。日常生活でもよく耳にする言い方ですね。古語では「~のごとし」「~のごとく」といった言葉が使われます。

 

【例】作者/島木赤彦

二つゐて 郭公どりの 啼く聞けば 谺(こだま)のごとし かはるがはるに

【意味】2羽のカッコウが鳴くのを聞くと、こだまのように代わる代わる鳴いている

短歌職人
谺(こだま)はやまびこのことです。「谺のごとし」が直喩となっています。代わる代わるに鳴くカッコウの様子をやまびこのようだと言われることで「1羽の鳴き声をもう1羽が追いかけてるように聞こえるのかな」と想像もふくらみますね。

 

②隠喩(ひゆ)

隠喩も物事を別の何かに置きかえて表現することを言いますが、直喩との大きな違いは「~のようだ」「~のごとし」などの言葉を使わないことです。

 

「大きな瞳が宝石のようだ」は直喩表現ですが、隠喩では「大きな瞳は宝石だ」と表現します。「紅葉のごとき手」を隠喩にすると「紅葉の手」、「燃えるような夕焼け」は「燃える夕焼け」です。

 

【例】作者/前田夕暮

向日葵(ひまわり)は 金の油を 身に浴びて ゆらりと高し 日のちいさきよ

【意味】ひまわりは金の油を身に浴びたようでゆらりと高く、日が小さく見えるよ

 

短歌職人
「金の油を身に浴びて」が隠喩です。ひまわりは実際に金色の油を浴びているわけではありませんね。「金の油を身に浴びたようなひまわり」という意味です。そう表現されると、堂々と光輝く大きなひまわりが目に浮かぶようではありませんか。

 

③擬人法(ぎじんほう)

擬人法は、人間以外の生物や植物、物を人にたとえて表現する比喩方法です。

 

人ではないものに人格を与えて、雨空を「空が泣いている」と言ったり、すらすらと文が書けることを「ペンが走る」と言ったりします。空やペンは人間ではなく、泣いたり走ったりするのは人間の動作なので擬人法となります。

 

※隠喩の例で挙げた短歌の「向日葵は 金の油を 身に浴びて」も「浴びる」が人間の動作なので隠喩の他に擬人法も取り入れられています。

 

【例】作者/俵万智

四万十に 光の粒を まきながら 川面をなでる 風の手のひら

【意味】風が四万十川に光の粒をまきながら手のひらで川面をなでている

 

「川面をなでる 風の手のひら」に擬人法が使われています。「なでる」が人間の動作で「手のひら」は人間の体の一部だからです。

 

短歌職人
川面を風が通ると聞くと何でもない風景のように聞こえますが、風が手のひらで川面をなでていくと聞くと、とても優しく心地よい風が想像されますね。このように擬人法は人以外のものに性格や表情を与えて、読み手にそれがどんなものなのか想像させる効果があります。

 

比喩の効果

 

比喩には、自分のイメージを他の人と共有しやすくなる効果があります。

 

比喩を使うことで語り手はイメージを短い言葉で伝えることができ、読み手、聞き手はイメージを理解しやすくなります。

 

たとえば、星空が美しいから短歌にしよう、この美しさを他の人にも伝えたいと思った時に、そんなにたくさんの文字数では語れません。

 

しかし比喩を用いると「目がくらむような星空」「万華鏡の星空」「星々がウィンクする」などの表現で、どんな星空なのかを説明することができます。

 

短歌職人
比喩は上手に使うと、自分の心象風景を他の人に、より生き生きとしたイメージで伝えて、強く印象づけることもできるでしょう。

 

比喩を使う時のポイント

 

比喩を使うポイントは、誰でも知っているような言葉に置きかえることです。

 

イメージを伝えて共有するための比喩ですから、分かりにくい言葉でたとえると本末転倒になってしまいます。

 

特に隠喩の場合「~のような」などの言葉を使わないので、読み手は初めは謎かけのような印象を持ちます。

 

比喩を使っていると気が付いてもらうためにも、限られた人しか知らないような難しい言葉や、自分で作った言葉でたとえるのは控えた方が良いでしょう。

 

短歌職人
何かに感動した時に「今のこれって、あれみたい!」と初めに心に浮かんだことがあれば、そのまま比喩として使った方がシンプルで伝わりやすいこともあります。

 

比喩を活用した有名短歌【3選】

 

【NO.1】与謝野晶子

『 金色の ちひさき鳥の かたちして 銀杏(いちょう)散るなり 夕日の丘に 』

【意味】金色の小さい鳥の形をした銀杏が夕日の差す丘に散っている。

短歌職人
「かたちして」という言葉で直喩を表しています。夕日の光の中でひらひら散っている黄色の銀杏の葉が金色の小さい鳥のよう、という歌で銀杏の葉が可愛らしく想像されます。

 

【NO.2】柿本人麿

『 あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む 』

【意味】山鳥の垂れるほど長い尾のような長い長い夜をひとりで寝るのだ。

短歌職人
山鳥は尾の長いことで知られる鳥で、隠喩を使って夜の長さを長い尾でたとえた歌です。ひとりで寝る夜は寂しくて、相当長く感じたのでしょう。

 

【NO.3】菅原道真

『 東風(こち)吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ 』

【意味】梅の花よ、東風が吹いたら梅の香りを送ってよこせよ、主がいなくても春を忘れるなよ。

短歌職人
擬人法を用いて梅の花に、梅の香りを自分のもとまで送るよう、自分がいなくなっても春を忘れないよう語りかけた歌です。梅の花をとても大切な友のように思う作者の気持ちが伝わります。

 

さいごに

 

短歌は31文字の詩。この31文字に、自分が何に、どういうふうに心が動かされたのかを工夫して詠みこみます。

 

そして短歌を読んだ人にも「同じ感銘を受けてもらえたらいい」、短歌を作る人の多くがそう思うのではないでしょうか。そのためのテクニックの一つが比喩です。

 

比喩を使った短歌は古典にも近代・現代短歌にも多くありますので、興味をもった人は鑑賞してみてください。

 

短歌職人
きっと歌人が見た情景が心に浮かぶことでしょう。