短歌や俳句で文字数が多かったり少なかったりするものを「字余り・字足らず」と言います。
国語の授業で聞いたことがあるという人も多いでしょう。しかし、「なぜ文字数を増やしたり減らしたりするんだろう?」「何文字までOKなの?」と疑問に思ったことはないでしょうか?
字余りルールあるのですか?
— ぶりぬい (@burinui_rus) November 5, 2016
字余り?細かいルールわかんねw
— 風呂 (@furogaeri) August 8, 2012
字余り 具体的に何文字まで許されるのか気になる
— ついじそら (@tsuisora) April 20, 2012
そこで今回は、短歌の字余り・字足らずのルールや効果などについて簡単にわかりやすく解説していきます。
目次
短歌の字余り・字足らずとは
短歌は言葉の音の数が決まっていて「5・7・5・7・7」からなる31音が基本の形です。
【基本形の例】作者/紀貫之
さくらばな(5) ちりぬる風の(7) なごりには(5) 水なき空に(7) 波ぞ立ちける(7)
この5音のところが6音以上、7音のところが8音以上と多くなったものを「字余り」と呼びます。逆に5音が4音以下、7音が6音以下だと「字足らず」と呼んでいます。
【字余りの例】作者/山中智恵子
つむぎいと(5) ひきあふ空に(7) 夏くれて(5) ゆらゆらと露の(7) 夢たがふ(5)
【字足らずの例】作者/前田夕暮
木に花咲き(6) 君わが妻と(7) ならむ日の(5) 四月なかなか(7) 遠くもあるかな(8)
基本の形と文字数が違うといっても、字余り・字足らずの短歌がいけないということではありません。
字余りや字足らずは、上手に使うと短歌を更に味わい深いものに変えられるテクニックです。
字余り・字足らずの効果
字余り・字足らずの効果として、印象に残る短歌が作れることが挙げられます。
短歌のように文字数が決まっている詩を「定型詩」と言います。詩は本来は声に出して詠むもので、その音も楽しむものでした。その中でも定型詩は音のリズムを重要視しています。
そして第5句を7音で締めるのも、音の据わりがよく落ち着いた終わり方に聴こえます。
31音が基本形の歌
「5・7・5・7・7」からなる31音が基本の形をひとつ例を挙げます。
【例】さくらばな ちりぬる風の なごりには 水なき空に 波ぞ立ちける
こちらの歌は「5・7・5・7・7」の音のリズムですらすらと違和感なく読めたと思います。
字足らずの歌
これに対して字足らずの短歌の例も紹介します。
【例】つむぎいと(5) ひきあふ空に(7) 夏くれて(5) ゆらゆらと露の(7) 夢たがふ(5)
この歌の第5句は5音となっており、耳になじんだリズムと異なります。「あれっ?そこで終わり?」という違和感を感じませんか?
リズムを変えて、読み手に「あれっ?」と思わせることが字余り・字足らずの効果です。あえてすらすらと読ませないことで読み手を一瞬立ち止まらせて、その歌を印象付けることができるのです。
この歌の「夢たがふ」は、「夢が行き違ってしまった」様子を表しています。少し寂さを感じさせる歌です。「夢たがふ」と字足らずにすることで、文字数の欠落感でも寂しさを表現しています。
字余りの歌
字余りの短歌の例も見てみましょう。
【例】木に花咲き(6) 君わが妻と(7) ならむ日の(5) 四月なかなか(7) 遠くもあるかな(8)
第1句が6音、第5句が8音の字余りです。やはりリズム通りにはすらすらと読めないので、かえって印象に残ります。
この歌は「君が妻になる日が待ち遠しい」という意味で、月日が長いという気持ちを文字数を増やすことでも表しています。
字余り・字足らずを使う時のポイント
短歌の導入である第1句は音の数に融通がきくため、字余りや字足らずにしやすいとされています。
【字足らずの例】作者/弟橘比売命
さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問はし君はも
この歌は第1句が4音の字足らずです。このように冒頭のリズムを変えることでインパクトのある短歌になります。
また、第4句は字余りに向いていて、音の数をかなり増やしても全体のバランスを保つことができます。
【字余りの例】作者/斎藤茂吉
夜をこめて 鴉(からす)いまだも 啼かざるに 暗黒に鰥鰥(くわんくわん)として 国をおもふ
この歌は第4句が12音もありますが、第5句を7音で締めくくることで、収まりが良くなっています。
反対に短歌の中心部分である第3句は、5音のままの方が短歌のリズムを取りやすいため、字余りや字足らずに向かないとされます。絶対にダメというわけではありませんが、第3句の音数を変えるのはかなり上級者向けと言えるでしょう。
何となくで使用するのは避けましょう。目的をもって変化させることで、字余りや字足らずは活きてきます。
字余り・字足らずは何文字までOK?
字余りや字足らずに何文字までというルールはありません。
しかし、字足らずにする場合は、全体で1音減らす程度が良いでしょう。字足らずは字余りに比べて、短歌のリズムの違和感が大きくなりやすいからです。
一方、字余りの場合は許容範囲が広く、相当な字余りにも対応できますが、一般的には1~3音程度の字余りがよく使われています。
字余り・字足らずに文字数の決まりはありませんが、できあがった短歌を声に出して読んでみて、あまりにリズムが悪ければ見直した方が良いでしょう。
字余り・字足らずを活用した有名短歌【4選】
字余りの短歌
【NO.1】小野小町
『 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに 』
【意味】私が物思いにふけっている間に桜の花は長雨で空しく色あせてしまった。
【NO.2】土屋文明
『 馬と驢(ろ)と 騾(ら)との別(わかち)を 聞き知りて 驢來り騾來り馬(ま)來り 騾と驢と來る 』
【意味】馬とロバとラバの違いを知ったが、往来にロバが来たりラバが来たり馬が来たりロバとラバが来たりする。
字足らずの短歌
【NO.1】斎藤茂吉
『 この体 古くなりし ばかりに 靴穿(は)きゆけば つまずくものを 』
【意味】この体は歳をとって、靴をはいて歩けばつまずいてしまう。
【NO.2】正岡子規
『 瓶にさす 藤の花ぶさ みじかければ たたみの上に とどかざりけり 』
【意味】瓶にさした藤の花が短くて畳の上に届かなかった。
さいごに
字余り・字足らずは、あえて文字数を変えるテクニックです。
難しそうに聞こえますがコツを覚えれば使いこなすことができます。特に現代短歌では多く使われていますので鑑賞してみるのも良いでしょう。