今回は、歌人であり劇作家あり評論家でもあった「寺山修司(てらやま しゅうじ)」の有名短歌を30首ご紹介します。
【今日の名言】
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない。」
(歌人、劇作家 寺山修司) pic.twitter.com/WhJ1iJ1uey— 駒澤大学STUDY FOR TWO (@study42komazawa) May 2, 2016
寺山修司の生涯や人物像・作風
寺山 修司…1935年12月10日誕生。歌人、劇作家。演劇実験室「天井桟敷」主宰。
この世でいちばん遠い場所は 自分自身のこころである pic.twitter.com/nlPA4Fy6dQ
— 久延毘古⛩陶 皇紀ニ六八二年令和四年卯月💙💛🇺🇦 (@amtr1117) December 9, 2014
寺山修司(てらやま しゅうじ)は、1935年(昭和10年)に青森県で生まれました。
歌人、俳人、詩人、脚本家、演出家、映画監督、写真家、エッセイストと多くの肩書を持ち、どの分野においても優れた仕事を残しています。
詩や俳句・演劇と多角的に活躍しましたが、その中でも短歌に新しい表現形式を見出し、中央へのデビューは歌人としてでした。
1983年に肝硬変が原因で亡くなりました。享年47歳という早過ぎる死でした。
(高尾霊園A区にある寺山の墓 出典:Wikipedia)
寺山修司の有名短歌【30選】
(三沢市寺山修司記念館 出典:Wikipedia)
寺山修司の有名短歌【1〜10首】
【NO.1】
『 あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな 』
【意味】たとえ恋こがれて死んだとしても、私を「ああ、かわいそうだ」と言ってくれそうな人は思い浮かばず、きっと私はむなしく死んでしまうのだろうな。
【NO.2】
『 マッチ擦るつかのま 海に霧深し 身捨つるほどの 祖国はありや 』
【意味】マッチを擦る間のほんの少しの明かりで、海に霧がたちこめているのが見える。私が命を捨てるほどの価値がある国はあるだろうか。いや、ない。
【NO.3】
『 海を知らぬ 少女の前に 麦藁帽のわれは 両手をひろげていたり 』
【意味】海を見たことがない少女の前で、海の広さを伝えようと麦藁帽子をかぶった私は両手をいっぱいに広げている。
【NO.4】
『 列車にて 遠く見ている向日葵は 少年のふる 帽子のごとし 』
【意味】列車の中から、遠くに見えている向日葵が風に揺れている様子を見ると、少年が振る帽子のようだ。
【NO.5】
『 森駆けてきて ほてりたる わが頬を うずめんとするに 紫陽花くらし 』
【意味】森の中を走ってきて、ほてった頬を埋めようとした、紫陽花の色は暗い。
【NO.6】
『 君の歌う クロッカスの歌も 新しき家具の ひとつに数えんとする 』
【意味】君の歌うクロッカスの歌も新しい家具のひとつとして数えることにしよう。
「新しい家具」から新生活に向かう情景であることが察せられます。促音を含むクロッカスの響きが若々しさを感じさせます。歌と家具を並置することで、歌を歌う「君」も部屋に在ること、共に新生活を営むであろうことを暗示させます。
【NO.7】
『 わがカヌー さみしからずや 幾たびも 他人の夢を 川ぎしとして 』
【意味】私のカヌーは寂しくないのだろうか。さびしいだろう。何度もたどりつく川岸は他人の夢ばかりだから。
【NO.8】
『 夏蝶の屍を ひきてゆく 蟻一匹 どこまでゆけど わが影を出ず 』
【意味】夏の蝶の屍を引っ張っていく一匹の蟻は、どこまでいっても、私の影から出ることはない。
【NO.9】
『 わがシャツを 干さん高さの 向日葵は 明日開くべし 明日を信ぜん 』
【意味】私のシャツが干せるぐらいの高さの向日葵は、今はつぼみだが、明日は開くだろう。明日を信じよう。
【NO.10】
『 一本の樫の木やさし その中に 血は立ったまま 眠れるものを 』
【意味】一本の樫の木の中にも血は流れている。そこでは血は立ったまま眠っている。
寺山修司の有名短歌【11〜20首】
【NO.11】
『 かくれんぼの 鬼とかれざるまま老いて 誰を探しに来る 村祭り 』
【意味】かくれんぼの鬼となった少年が、そのまま老いて、村祭りに戻ってくる。いったい誰を探しにくるのか。
【NO.12】
『 ころがりし カンカン帽を 追うごとく ふるさとの道 駆けて帰らん 』
【意味】転がっていくカンカン帽を追いかけるように、ふるさとの道を走って帰ろう。
【NO.13】
『 一つかみほど 苜蓿(うまごやし)うつる水 青年の胸は 縦に拭くべし 』
【意味】小川に苜蓿が映っている。青年が小川で胸の汗を拭く時は、縦に拭くのが好ましい。
【NO.14】
『 売りにゆく 柱時計がふいに鳴る 横抱きにして 枯野ゆくとき 』
【意味】売りにいく柱時計が不意にボーンと鳴る。横抱きにして枯れた野原を歩いて行くときに。
【NO.15】
『 ふるさとの 訛りなくせし友といて モカ珈琲は かくまで苦し 』
【意味】同郷の訛りなく話す友人と、共に飲むコーヒーはこんなにも苦い。
【NO.16】
『 友のせて 東京へゆく汽笛ならむ 夕餉のさんま 買いに出づれば 』
【意味】夕飯のさんまを買いに出ると、友人が上京する列車の汽笛が聞こえる。
【NO.17】
『 一粒の 向日葵の種まきしのみに 荒野をわれの 処女地と呼びき 』
【意味】一粒の種をまいただけなのに、この広い荒野を私の処女地と呼ぼう。
【NO.18】
『 草の笛 吹くを切なく 聞きており 告白以前の 愛とは何ぞ 』
【意味】草笛の吹かれている音を、切ない気持ちで聞いている。告白をする前の愛とは何であろうか。
【NO.19】
『 舐めて癒す ボクサーの傷わかき傷 羨みゆけば 深夜の市電 』
【意味】若いボクサーの傷は、舐めればすぐ治るようなもの。それを羨む深夜の市電にある私。
【NO.20】
『 夏川に 木皿沈めて洗いいし 少女はすでに わが内に棲む 』
【意味】夏の日の清流に木皿を沈めて洗っていた少女と同様、私の心の内にも、清らかな心が棲み付いている。
寺山修司の有名短歌【21〜30首】
【NO.21】
『 生命線 ひそかにかへむために わが抽出しにある 一本の釘 』
【意味】手相の生命線をこっそりと変えるために、私の抽出しには1本の釘がしまってある。
【NO.22】
『 地球儀の 陽のあたらざる裏がはに われ在り一人 青ざめながら 』
【意味】地球儀の太陽のあたらない裏側に、私は青ざめて一人いる。
【NO.23】
『 飛べぬゆえ いつも両手をひろげ眠る 自動車修理工の少年 』
【意味】自分は実際に飛ぶことはできないが、飛ぶように両手を広げて自動車修理工の少年はいつも眠っている。
【NO.24】
『 青空より 破片あつめてきしごとき 愛語を言えり われに抱かれて 』
【意味】青い空から、破片を集めてきたような愛の言葉を彼女が呟いている。私に抱かれて。
【NO.25】
『 われ在りと おもふはさむき橋桁に 濁流の音 うちあたるたび 』
【意味】自分の存在を実感するのは、橋桁に濁流が打ち当たる音を聞く時だ。
【NO.26】
『 知恵のみが もたらせる詩を書きためて 暖かきかな 林檎の空箱 』
【意味】恵の実がもたらせる詩を書き溜めた林檎の空箱は、暖かい気持ちにさせてくれる。
知恵の実とは、『創世記』に登場するエデンの園に生える「善悪の知識の木」になっていた果実(林檎)です。林檎栽培が盛んな青森出身の寺山にとって、林檎の空箱はふるさとを思い出させ、ほっとさせてくれるアイテムだったのでしょう。
【NO.27】
『 ダリアの蟻 灰皿にたどりつくまでを うつくしき嘘 まとめつついき 』
【意味】ダリアの花に群がる蟻。蟻は灰皿へとたどり着くまで、美しい嘘を積み重ねていく。
【NO.28】
『 うしろ手に 春の嵐のドアとざし 青年は已(すで)に けだものくさき 』
【意味】後ろ手にドアを閉ざして、春の嵐を閉め出した青年は、既に獣のようだ。
【NO.29】
『 高度4メートルの空に ぶらさがり 背広着しゆゑ 星ともなれず 』
【意味】高度4メートルの空にぶらさがっているが、背広を着ているので、星になることができない。
【NO.30】
『 わが通る 果樹園の小屋 いつも暗く 父と呼びたき 番人が棲む 』
【意味】私が通りかかる果樹園の小屋は、いつも暗く、父親のような番人が棲んでいる。
以上、寺山修司の有名短歌でした!
寺山修司は、生前、「鬼才」としばしば呼ばれていましたが、その「前衛的な作風」に驚かれた方もいるかもしれません。
しかし、多彩で清冽な寺山の短歌の数々の作品は、今なお私たちの心に響いてやみません。ここでご紹介した他にも、素晴らしい短歌を寺山氏は多く作っています。