7月のイベントといえば、七夕まつりに海開き。夏休みに入って旅行に出かけたりと短歌の題材もたくさん見つかりそうです。
外で遊ぶことが少なかった昔はどんなことを詠んでいたのでしょうか。
今回は、7月を詠ったおすすめ短歌(昔の短歌(和歌)&現代短歌)をご紹介します。
7月の有名短歌(和歌)集【昔の短歌(和歌) 10選】
まずは昔の短歌(和歌)からご紹介します。
俳諧の季語としては秋に属する「天の川」や「七夕」ですが、ここでは7月7日の七夕まつりに準じてご紹介します。
【NO.1】紀友則
『 あまの河 あさ瀬しら波 たどりつつ 渡りはてねば 明けぞしにける 』
意味:天の川の浅瀬がどこにあるかを知らず白波を辿って渡っていたが、渡り終わる前に夜が明けてしまったよ
【NO.2】凡河内躬恒
『 たなばたに かしつる糸の うちはへて 年のをながく 恋ひやわたらむ 』
意味:七夕にお供えした糸のようにずっと長きにわたってこの恋は続くだろう
【NO.3】橘長盛
『 主なくて さらせる布を 七夕に わが心とや 今日はかさまし 』
意味:注文主もいないままにさらしている布を、私の心づくしの品として七夕の今日お供えしましょう
【NO.4】藤原定家
『 夕立の 雲間の日かげ はれそめて 山のこなたを わたる白鷺 』
意味:夕立の雲の間から日が射し始め、山のこちら側を白鷺が飛んでいくよ
【NO.5】藤原有家
『 夕すずみ 閨(ねや)へもいらぬ うたた寝の 夢をのこして あくるしののめ 』
意味:夕涼みをして寝室へも入らずにうたた寝をしたら、夢を見終わらないうちに明け方になりました
【NO.6】二条院讃岐
『 さもこそは 短き夜半の 友ならめ 臥すかともなく 消ゆる蚊遣火 』
意味:だからこそ夏の短い夜の友なのだろう。床に伏したかと思う間に消えてしまう蚊遣火は
【NO.7】俊恵
『 夏ふかみ 野原を行けば 程もなく 先立つ人の 草がくれぬる 』
意味:夏が深まって野原を歩くと程なく先を行く人が長く伸びた草に隠れてしまいます
最後は蝉の歌を3つご紹介いたします。
【NO.8】詠み人知らず
『 空蝉(うつせみ)の からは木ごとに とどむれど 魂(たま)のゆくへを 見ぬぞかなしき 』
意味:蝉の抜け殻はそれぞれ木に留まっているけれど、その魂の行方を見ることはできないのは悲しいことです
【NO.9】大伴家持
『 隠(こも)りのみ 居(を)ればいぶせみ 慰むと 出で立ち聞けば 来鳴く晩蝉(ひぐらし) 』
意味:家にこもってばかりいると心も落ち込んでくるので、慰めに外に出て見ると飛んで来たヒグラシが鳴いている
【NO.10】藤原義経
『 うつせみの なく音やよそに もりの露 ほしあへぬ袖を 人の問ふまで 』
意味:森で蝉が鳴くように、泣いている私の声も外に漏れたのでしょうか。涙の露を干し乾かせない着物の袖をどうしたのかと人が問うほどに
7月の有名短歌(和歌)集【現代短歌 10選】
次に、現代・近代短歌をご紹介します。はじめは七夕の歌からご紹介していきます。
【NO.1】正岡子規
『 天地(あめつち)に 月人男(つきひとおとこ) 照り透り 星の少女の かくれて見えず 』
意味:空と地に月の光が照りわたっていて、星の少女(織姫)が隠れてしまって見えない
【NO.2】与謝野晶子
『 たなばたの 星も女ぞ 汝(な)をおきて 頼む男は なしと待つらん 』
意味:七夕の織姫も女性です。私のようにあなた以外に頼る男性はいないと待っているのでしょう
【NO.3】俵万智
『 この味がいいねと君が言ったから 七月六日は サラダ記念日 』
意味:このサラダの味がいいねとあなたが言ったから今日七月六日はサラダ記念日にしよう
次は7月の花である向日葵(ひまわり)が大好きだったという寺山修司さんの作品から2首ご紹介いたします。
【NO.4】寺山修司
『 列車にて 遠く見ている 向日葵は 少年のふる 帽子のごとし 』
意味:列車の中から遠く離れた場所に見えている向日葵が揺れているのが少年が振っている帽子のように見えるよ
【NO.5】寺山修司
『 わがシャツを 干さん高さの 向日葵は 明日開くべし 明日を信ぜん 』
意味:自分のシャツを干せるくらいの高さにまで成長した向日葵よ。明日は花開くはずだ、明日を信じているぞ
【NO.6】前田夕暮
『 向日葵は 金の油を 身にあびて ゆらりと高し 日のちひささよ 』
意味:向日葵はまるで金色の油のような真夏の陽射しを浴びてゆらりと高く咲いています。まるで太陽が小さく見えるほどに
【NO.7】樋口一葉
『 板びさし あれてもりくる 月かげに うつるも涼し ゆふがおの花 』
意味:壊れた板葺のひさしから漏れさしている月明かりに照らされてた夕顔が涼しげに見えるよ
【NO.8】北原白秋
『 石崖に 子ども七人 腰かけて 河豚(フグ)を釣り居り 夕焼け小焼け 』
意味:海岸の石崖に子どもが七人腰掛けてフグを釣っている。夕焼け小焼けに照らされて。
それでは現代短歌も最後は蝉の歌をご紹介いたします。
【NO.9】窪田空穂
『 鳴く蝉を 手(た)握り持ちて その頭 をりをり見つつ 童(わらべ)走(は)せ来る 』
意味:鳴いている蝉を手に握って、その蝉の頭を時々見ながら子どもが走ってくるよ
【NO.10】岡本かの子
『 鳴く蝉の 命の限り 鳴く声は 夏のみそらに ひびき沁みけり 』
意味:短い命の限りいっぱいに鳴く蝉の声は夏の空に響き渡って沁みていくようだ
以上、7月の有名短歌集でした!
同じ題材でも昔と現代短歌の違い、もしくは共通点を感じていただけたでしょうか?
現代短歌では難しい古文のような言い回しをせず、口語体や自由律で詠われるものも多くなっています。
七月ならではの題材はここにあげたような七夕やひまわり・蝉の他にも、俳諧の季語を参考にしてもいいですし、サラダ記念日のように個人的に忘れられない出来事を詠むのも面白いですよね。