戦争を題材にした短歌と聞くと、なんだか堅苦しくて難しそうと感じるかもしれません。
「戦争の短歌なんてあるの?」と意外に思う人もいるのではないでしょうか。実は戦争を題材とした短歌はたくさんあります。
天皇陛下
「四方の海 みなはらからと 思ふ世に など波風の 立ちさわぐらん 」
(四方の海にある国々は皆兄弟姉妹と思う世に なぜ波風が騒ぎ立てるのであろう)
明治天皇御製 pic.twitter.com/ehPVUfoW1f— 天皇陛下の靖国神社御親拝を希望する会会長 (@tenseikaikaityo) November 19, 2013
多くは戦時中に詠まれたものですが、堅苦しい内容のものはほとんどありません。そこには戦争を通じて感じた自分の気持ちが表現されています。
今回は、そんな「戦争」を題材にした有名短歌を20首ご紹介します。
戦争を題材にした有名短歌【前半10選】
【NO.1】正岡子規
『 もののふの 屍をさむる 人もなし 菫花さく 春の山陰 』
【意味】兵隊の遺体を運ぶ人もなく、春の山陰にはスミレの花が咲いている。
【NO.2】明治天皇
『 四方(よも)の海 みなはらからと 思う世に など波風の たちさわぐらむ 』
【意味】四方の海にある国はみな兄弟だと思う世の中で、なぜ波風が立ち騒ぐのだろう。
【NO.3】斎藤茂吉
『 はるばると 母は戦を思ひたまふ 桑の木の実の 熟める畑に 』
【意味】桑の実の熟した畑の中で母は遠くの戦火を思っていらっしゃる。
【NO.4】斎藤茂吉
『 南瓜(とうなす)を 猫の食ふこそ あはれなれ 大きたたかひ ここに及びつ 』
【意味】猫がカボチャを食べている。大戦の影響はここまで及んだのだな。
【NO.5】斎藤茂吉
『 機関銃の 音をはじめて 聞きたりし 東北の兵を われは思ほゆ 』
【意味】東北出身の兵士は機関銃の音をはじめて聞いただろうなと思う。
【NO.6】石川啄木
『 一隊の 兵を見送りて かなしかり 何ぞ彼らの うれひ無げな 』
【意味】一隊の兵を見送って悲しくなる。彼らにはきっと憂いがあっただろう。
見送られる兵は、心配ごとを顔には出さなかったのでしょう。「何ぞ」は反語で憂いはないだろうか、いやきっとあるだろうという意味になっています。
【NO.7】穂積忠
『 鏡なす 月夜和多津美(つくよわたつみ) はてなくて 翔ぶ機の影ぞ 澄み移るのみ 』
【意味】月の夜に、鏡のようになった海原は果てしなく、飛行機の影だけが映り移動していく。
【NO.8】宮英子
『 配給の 品々とともに 求めこし 矢車草も 家計簿にしるす 』
【意味】配給の品と一緒に買った矢車草のことも家計簿に書いた。
【NO.9】兵士の妻
『 がし物 ありと誘(いざな)ひ 夜の蔵に 明日征く夫(つま)は 吾を抱きしむ 』
【意味】明日出兵する夫が、夜に探しものがあるからと私を蔵に連れて行き、抱きしめた。
【NO.10】宮柊二
『 自爆せし 敵のむくろの 若かるを 哀れみつつ 振り返り見ず 』
【意味】自爆した敵兵が若かったのを悲しく思いながらも遺体を振り返らなかった。
戦争を題材にした有名短歌【後半10選】
【NO.11】宮柊二
『 あかつきに 風白みくる 丘蔭に 命絶えゆく 友を囲みたり 』
【意味】夜明けの風が白く吹く丘の陰で、死にゆく友を囲んでいる
【NO.12】岡野弘彦
『 びょうびょうと 犬啼きめぐる 夜の闇に 友を焼く火を 守りて立ちをり 』
【意味】犬がびょうびょうと鳴く真っ暗な夜に、友を火葬する火を守って立っている。
【NO.13】岡野弘彦
『 唇の 熱くなるまで 一本の 煙草分ちし 彼も死にたり 』
【意味】一本の煙草を、唇が熱くなるまで分け合って吸った彼も死んでしまった。
【NO.14】特攻隊隊士
『 新しき 光に生きん おさな子の 幸を祈りて 我は散らなむ 』
【意味】新しい光の中で生きるだろう幼い子の幸せを祈って、私は散るのだ。
【NO.15】馬場あき子
『 焼けはてて のこるものなき 家のあとに 炭をひろふと 我はたちたり 』
【意味】家が焼けてしまってなにも残っていないが、炭を拾おうと私は立った。
【NO.16】土岐善麿
『 あなたは勝つ ものとおもって ゐましたかと 老いたる妻の さびしげにいふ 』
【意味】あなたは勝つと思っていましたかと老いた妻が寂しそうに言う。
【NO.17】土岐善麿
『 新しき 常に照る日の 広き心 吾等かならず 立たざらめやも 』
【意味】新しい日が昇り、太陽は常に広い心で照る。私達は必ず立ち上がるとも。
【NO.18】土岐善麿
『 武力なき 平和国家の なすわざを 世界に誇る とき来たるべし 』
【意味】武力のない平和国家のすることを世界に誇る時が来るに違いない。
【NO.19】荒浜悦子
『 ふるさとの 墓参に菜の花 供えやる 少年兵は 幼なじみよ 』
【意味】ふるさとで少年兵の墓に菜の花をお供えする。彼は私の幼なじみだ。
【NO.20】平井弘
『 男の子なる やさしさは 紛れなく かしてごらん ぼくが殺してあげる 』
【意味】男の子の紛れない優しさ。「かしてごらん、ぼくが殺してあげる」。
以上、戦争を題材にした有名短歌集でした!
戦争を題材とした短歌には、家族や大切な人の無事を祈り、人の死を悲しいと思い、平和な世の中であって欲しいと願う心がこめられています。
それは生きる時代や立場が違っても共通する気持ちではないでしょうか。
今回紹介した短歌に描かれた気持ちに共感したという人や、戦争を題材とした短歌をもっと知りたいと思った人は、気になった短歌の作者の他の作品を鑑賞してみてもいいかもしれません。