【短歌の枕詞とは】簡単にわかりやすく解説!効果や使い方・有名短歌の例など

 

競技かるた百人一首を題材にした映画『ちはやふる』(広瀬すず主演)が、2016年の春に公開されました。

 

原作はコミックスが元になっていますが、この題名『ちはやふる』は枕詞(まくらことば)になっています。

 

枕詞とは、短歌や和歌などにおいて古文の和歌の中で使われる表現技法の一つです。

 

ああああ

 

今回は、短歌の枕詞の意味や効果、訳し方、枕詞の見つけ方など簡単にわかりやすく解説していきます。

 

短歌の枕詞とは?簡単にわかりやすく解説

(1) 枕詞とは 

枕詞とは、短歌を作るときの修辞方法のひとつです。

(※修辞方法とは、短歌に情緒を持たせるための表現方法で、掛詞や枕詞、序詞、縁語などが挙げられます)

 

枕詞のルールは、基本5音から成り立ち、枕詞の後ろには特定の言葉が導き出されます。

 

【例文】在原業平朝臣(古今和歌集/百人一首)

『ちはやぶる 神代(かみよ)もきかず 竜田川(たつたがわ) からくれなゐに 水くくるとは』

意味 龍田川の川面に紅葉が流れていて、川水を紅に染めたように美しく見えるが、このようなことは神代(かみよ)にも聞いたことがありません。

枕詞 ちはやぶる(ちはやぶるが神に対する枕詞です)

 

このように、ちはやふる(ちはやぶる)の枕詞の後には「神」がセットになります。ちはやふるは「神」に対応する枕詞なのです。

 

枕詞があることによって、特定のワードがより魅力的に引き出せる、頭の中でイメージしやすくなるといった効果があります。

 

(2) 枕詞の訳し方(効果)

枕詞の言葉じたいには意味はありませんので、短歌を訳すときには枕詞は外して訳しましょう。

 

そこで一つの疑問が出てきます。そう、「意味がないなら、なぜ枕詞は使われるのか?」です。

 

枕詞は短歌をより美しく見せるもの、表現するものとして使われます。

 

枕詞があることによって、特定のワードがより魅力的に引き出せる、頭の中でイメージしやすくなるといった効果があります。

 

日本語をさらに美しく魅せるテクニックといったところですね。

 

(3) 重要な枕詞一覧(種類)

枕詞は決まった詞の前につくものですから、できれば覚えてしまった方がいいでしょう。

 

枕詞は300個近くもあり全部取り上げるのは大変なので、ここでは主な枕詞をご紹介します。

 

枕詞 後ろに来る詞 枕詞 後ろに来る詞
あかねさし(茜さし) 照る みずとりの(水鳥の) 立つ・うき
あかねさす(茜さす) 日・昼・紫・君 やくもさす(八雲さす) 出雲(いずも)
あきつしま(秋津島) 大和 やくもたつ(八雲立つ) 出雲(いずも)
あづさゆみ(梓弓) 引く・張る(春)・射る・音 わかくさの(若草の) 妻・夫(つま)・新(にい)・若
あしひきの(足引きの) 山・峰    
あらたまの(新玉の) 年・月・日 さねさし 相模(さがみ)
あをによし(青丹よし) 奈良

 

ちばの (千葉の) 葛(かづ)・葛野(かどの)
うつせみの(空蝉の) 命・世・人 しらぬひ 筑紫(つくし、ちくし
うばたまの(烏羽玉の) 黒・夜・夢・闇 をだて(小楯) 大和
かむかぜの・かみかぜの(神風の) 伊勢    
からころも(唐衣) 着る・裁つ・かへす・紐・裾    
しろたへの(白妙の) 衣・袂・紐・帯・袖・たすき・雲・雪    
たまのおの(玉の緒の) 長き・短き・絶え・乱れ・継ぐ・惜し    
たらちねの(垂乳根の) 母・親    
ちはやぶる・ちはやふる(千早振る) 神・宇治・氏(うぢ)    
ぬばたまの(射干玉の) 黒・夜・夕べ・夢・月・髪    
ひさかたの(久方の) 天(あめ、あま)・雨・月・空・光    

 

知っておきたい!枕詞の見つけ方

 

枕詞は覚えてしまうのが一番ですが、主要な枕詞は学校の授業や受験で覚えた経験がある方もいらっしゃるでしょう。しかし、枕詞は1,200個近くもあるので、全てを覚えるのは大変です。

 

そこで、枕詞の見つけ方をご紹介しようと思います。

 

枕詞は基本5音の言葉が多いです。つまり、短歌の形式「五七五七七」に当てはめると、初めの句と3句目が5音なので、枕詞の候補は初めの句と3句目に着目すれば良いと言うことになります。

 

さらに、枕詞は「~の」で終わる言葉が多いのも特徴です。「~の」の以外の言葉も「~く」や「~に」「~ふ」などリズムがあります。

 

【例文】初めの句が枕詞

『あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり』

作者 小野老(万葉集)

意味 美しい奈良の都は、咲く花の匂うかのように今は盛りです。

枕詞 あをによし→奈良にかかります

【例文】3句目が枕詞

『家にあれば 笥(け)に盛る飯(いひ)を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る』

作者:有馬皇子(万葉集)

意味:家にいれば器に盛る飯を、旅に出れば椎の葉に盛るのだ。

枕詞:草枕→旅にかかります

 

枕詞と序詞の違い

 

枕詞とよく勘違いしやすい言葉に、序詞(じょことば)という表現方法があります。

 

枕詞のルールは、基本5音から成り立ち、枕詞の後ろには特定の言葉がつきました。

 

大きな違いは、序詞は「七音以上からなり」「序詞の後に来る単語は必ず決まった単語ではない」というルールです。

 

枕詞はそれ自体に意味はありませんが、序詞は短歌に重要な意味を持たせます。さらに、序詞は「比喩表現」「同音反復で繋がる」「直後が掛詞で繋がる」などの使い方があります。

 

枕詞は、枕詞と特定の言葉がセットなので覚えてしまえば分かりやすいです。

 

それに対して、序詞は短歌の作り手が即興で組み合わせを考えるので、ちょっと難しいかもしれません。

 

【序詞の例】「比喩表現」

『あしひきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜を一人かも寝む 』

作者:柿本人麻呂(万葉集)

意味:まことに長い秋の夜を、あなたを恋い慕いながらひとりで寝ます

序詞はあしひきの山鳥の尾のしだり尾の で「ながながし」を装飾しています

 

実は、「山鳥は昼は一緒に過ごしますが、夜は別々に寝るという習性」があります。山鳥を比喩表現として登場させ、さらに「しだり尾の」の尾が長いと「長い夜」を強調しています。

 

【序詞の例】「同音反復で繋がる」

『あさぢふの(浅茅生)の小野の篠原 忍ぶれどあまりてなどか 人の恋しき 』

作者:参議等(さんぎひとし)(後撰集)

意味:浅茅の生えた寂しく忍ぶ小野の篠原ではありませんが、あなたへの思いを忍んではいますが、もう忍びきることは出来ません。なぜこんなにあなたが恋しいのでしょうか。

序詞はあさぢふの(浅茅生)の小野の篠原で、「しのはら」からの「しのぶれど」と同じ音を反復することでリズミカルな短歌になります。

 

枕詞と掛詞の違い

 

掛詞とは、同音異義になる景物と心情の言葉を掛け合わせて歌に詠む技法です。

 

有名なところで「あき」に「秋・飽き」を、「まつ」に「松・待つ」を掛けるという言葉の遊びになります。その他にも「うき」は「浮き・憂き」、「きく」は「菊・聞く」などがあります。

 

掛詞の見つけ方としては、例えば「あき」は「秋」と表記してもいいのに、わざわざ「あき」と平仮名で表記してあるときは、同音異義語を疑って歌をみると、「飽き」が隠れていることが分かります。

 

昔の人は日本語が美しいものであると知っていたからこそ、このような日本語の「音」の最大に活かす技法を編み出したのです。

 

序詞の使い方として直後が掛詞で繋がる技法があります。大変高度なテクニックであり、作り手のレベルの高さを感じさせます。

 

【序詞の例】「直後が掛詞で繋がる」

『唐衣ひも ゆふくれになる 時は返す 返すぞ人は恋しき 』

作者:よみ人しらず(古今和歌集)

掛詞:衣の縁語として 「紐結ふ」を 「日も夕」 に掛け、衣をたたむ時に折り返すということを、「返す返す」に掛けています。

 

知っておきたい枕詞を使った短歌【3選】

 

同じ短歌でも枕詞があると、情緒的になり歌の仕上がりに深みが増してイメージしやすくなります。

 

ここでは、知っておきたい枕詞を使った短歌を3選ご紹介します。

 

【NO.1】小野老(おののおゆ)(万葉集)

『あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今さかりなり 』

意味:奈良の都は、咲いた花の色が鮮やかに映えるかのように、今が繁栄の盛りである。

枕詞:あをによし→奈良

短歌職人
小野老が太宰府に派遣されていたときに、奈良の都を懐かしんで詠まれた歌です。詠まれたのは天平二年(730年)頃で奈良の都が造られてから20年程経った頃のことで、遠くにいることで一層奈良の都の咲く花は今頃真っ盛りであろうと目に浮かぶようだという望郷の歌です。

 

【NO.2】山部赤人(やまべのあかひと)(新古今集)

『田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ 』

意味:田子の浦に出かけて見ると、まっ白な富士の高嶺に雪は降り続いているよ。

枕詞:しろたへの(白妙の)→雪

短歌職人
田子の浦の眺めは良いところばかりで、寒いけれども富士山を見上げてみると、富士の高嶺に雪が降り積もっている。こんな壮大な景色を見られるのは感慨深いといった作者の思いが伝わってきます。

 

【NO.3】紀友則(古今集)

『ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ 』

意味:日の光がのどかで降りそそぐ春の日に、なぜあわただしく桜の花は散ってしまうのだろう。

枕詞 ひさかたの→光

短歌職人
こんな日の光がのどかな春の日に、桜の花びらが散ってしまう様子に作者の寂しい気持ちが伝わってきます。「静心なく」こんなに天気が良いのだから、そんなに桜の花びらが散らないで欲しい、もっとゆっくり長く桜を眺めていたいなあ思うのに。

 

さいごに

 

今回は、短歌の枕詞について簡単に解説しました。

 

覚えてしまうと当たり前のような、空気の存在のような枕詞ですが、枕詞があることによって歌に深みが出て情景をイメージしやすくなります。

 

有名な短歌の例も載せましたので、詠んで学校の授業、百人一首を思い出した方もいるのではないでしょうか。

 

この機会にまた短歌に興味を持って頂けたらうれしく思います。

 

短歌職人
是非、あなたも短歌作りにチャレンジしてみてください!