【卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった】徹底解説!!意味や表現技法・句切れ・鑑賞文など

 

今回は、千葉聡さんの歌「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」をご紹介します。

 

 

本記事では、卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」の意味や表現技法・句切れ・作者について徹底解説し、鑑賞していきます。

「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」の詳細を解説!

 

卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった

(読み方:そつぎょうせい さいごのひとりが もんをでて にほばっくして またでていった)

 

作者と出典

この歌の作者は「千葉聡(ちば さとし)」です。

 

歌人として活動しながら教師でもある千葉さんは、現在も横浜の高校で教諭をされています。生徒たちにも人気で、「ちばさと」先生と呼ばれているそうです。短歌同人誌「かばん」に所属。作風は口語短歌で、親しみやすいのが特徴です。固有名の付いた人物が多数登場するなど、物語志向の強い青春小説風の連作を得意としています。教育現場を舞台としたエッセイの執筆も行っています。

 

また、出典は『飛び跳ねる教室』です。

 

20109月に亜紀書房より出版された歌集です。歌集といっても短歌だけを収めたものではなく、短歌とそれらにまつわるエッセイをともに収録しています。歌を作った当時は中学校の先生だった「ちばさと」先生が、新米教師としての苦労や生徒との関わりなど、「学校」での日々をリアルに描いた1冊です。

 

現代語訳と意味 (解釈)

「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」は、そもそもが現代語で表された歌ですので、言葉そのままに意味をとらえることができます。

 

言葉の意味としては難しいものではありませんが、使われている言葉やそれが選ばれた理由、そこに込められた気持ちに焦点を当てていくと、さらに深く歌の内容を読み取ることができます。

 

では、語の意味や文法を確かめながら、この歌の真意を読み取っていきましょう。

 

文法と語の解説

  • 「卒業生」

辞書で引くと、「その学校を卒業する者。また、その学校を卒業した者」と書かれています。その学校のOBOGとも考えられますが、この歌においては、今まさに卒業していく生徒を指していると考えるほうが自然です。また、日本では卒業式と言えば3月。この言葉だけで、歌の舞台が春であることが想起できますね。

 

  • 「最後の一人が門を出て」

「最後」は「いちばんあと、いちばん後ろ」の意味ですので、たくさんいる卒業生たちの本当に最後の「一人」を指しているのでしょう。「門」は建築物の外囲いに設けた出入り口のことなので、家やお城など様々な建物にあるものですが、この歌では学校の門のことですね。格助詞「を」のあと、動詞「出る」に接続助詞「て」が続いているので、この卒業生が出たあと何か物語に続きがあることが分かります。

 

  • 「二歩バックして」

「バック」は英語の「BACK」で、背中や背景という意味がありますが、日本語においてはよく「後進」の意味で使われます。この歌でも「後ろに戻ること」の意味で使われています。その後進が「二歩」なのですね。動詞「する」連用形のあとさらに接続助詞「て」が続き、物語もまだ続いています。

 

  • 「また出て行った」

「また」は前にあったことがもう一度繰り返されるさまを表す副詞です。繰り返されたのは「出て」の部分。3句目に「門を出て」いたので、それが再び行われたわけですね。その後、卒業生は目的地へ向かって進んで行ったのでしょう。最後は「行った」と言い切りの形で終わっています。

 

「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」の句切れと表現技法

句切れ

この歌は初句から結句までひと続きで詠まれていて、明確に「〇句切れの歌」ということはできません。

 

よって、「句切れなし」という解釈ができます。句切れをつくらないことで、全体の流れるような印象を読み手に感じさせています。

 

字余り

短歌の魅力の一つは、五・七・五・七・七のリズム感にあります。字余りとは、通常五・七・五・七・七のリズムで表現するところを、あえて六音や八音で表現することです。

 

初句が5音になるところを「6音」にしています。これは「卒業生」という言葉を使っているためです。また2句目が7音になるところを「8音」にしています。

 

明確に何かしらの効果を狙って字余りにしたわけではなく、歌全体がスムーズに流れることを優先したためではないかと考えられます。

 

「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」が詠まれた背景

 

作者の千葉聡さんは、教師として過ごす学校での日々の中での出来事や気付きなどを作品にしています。

 

「卒業生…」の歌が詠まれた当時は中学校の教師をされていたので、勤務していた中学校の卒業式での一コマなのでしょう。実際に生徒が門のところで2歩バックした…のかどうかは分かりませんが、卒業していく生徒たちの姿を実際に見てこの一首ができたのは間違いなさそうです。

 

この歌が詠まれたのは、千葉さんが中学校に努めていた2001年から2007年までの間ですが、現在(2022年)の卒業シーズンにも、千葉さんご本人がこの歌についてツイッターでコメントされています。

 

卒業は本来、嬉しいこと。でも、まだここにいたくなったり、なぜかせつなくなったり。全国の卒業生のみなさん、おめでとうございます。せつない、いろんな思いすべて、大切です。(略)

(千葉聡さん @CHIBASATO 2022年3月7日のツイートより)

 

たくさんの卒業生を送り出してきた今でも、この歌のような「卒業生の気持ち」は変わらないと感じられているのでしょう。

 

「卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった」の鑑賞

 

【卒業生最後の一人が門を出て二歩バックしてまた出ていった】は、卒業の日の一場面を詠んだ歌です。

 

学校を卒業する日。中学・高校であれば3年間を終えた日。その嬉しさや、これから始まる新しい生活への期待を抱きつつも、どこか「まだ中学生・高校生でいたい」という気持ちがある……。その思いが「2歩バックして」という行動に表れています。

 

また、この歌は卒業生の視点ではなく、周りの人の視点で詠まれています。少し下がってまた前に進んで行く卒業生を、どこか懐かしい、あたたかい気持ちで見ているように感じ取れます。

 

一人の生徒の行動をただ文字にしただけで、入り混じる微妙な感情や見守る周囲の空気まで感じ取れる素敵な歌となっています。

 

作者「千葉聡」を簡単にご紹介!

 

千葉聡(ちば さとし)は、196894日、神奈川県横浜市生まれ。歌人であり、高校教諭です。短歌同人誌「かばん」に所属し、三省堂の教科書「明解国語総合」の編集委員です。

 

東京学芸大学教育学部を卒業し、シンガポール日本人学校中学部の教諭時代には、朝日歌壇の佐佐木幸綱選歌欄に投稿していました。

 

1998年には 『フライング』で第41回短歌研究新人賞を受賞。國學院大學大学院文学研究科(博士課程後期)を単位取得退学し、その後は横浜市立上菅田中学校、横浜市立戸塚高等学校、横浜市立桜丘高等学校、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校にて教員をしながら、歌人活動をされています。

 

著書には教育現場での出来事をつづったエッセイが複数あり、『飛び跳ねる教室』は上菅田中学校、『今日の放課後、短歌部へ!』は戸塚高校、『グラウンドを駆けるモーツァルト』は桜丘高校がモデルとなっています。 

 

「千葉聡」のそのほかの作品

 

  • 教師とは幻みんなが去った後教室に一人影を落として
  • 三年間みんなほんとに(    )←空欄に好きな言葉を入れ卒業せよ
  • グラウンドを駆けゆく背中まっすぐに天空を挿すオールであれよ
  • 「おはよう」に応えて「おう」と言うようになった生徒を「おう君」と呼ぶ
  • 日誌には「先生しっかりしてください」丁寧すぎる女子の字だった
  • 歌に詠み続けよう 今ここにある光、ため息、くちぶえなどを