紅葉や高く見える空に鰯雲。秋は短歌作りにピッタリの季節です。
しかし、短歌での「秋らしさ」とはどのように出していけばよいのでしょうか?
短歌と同じ定型句の俳句では「季語」でその季節らしさを出してきました。実はこの季語は短歌づくりにも役立ちます。
今回は、秋の季語とそれらを使った短歌作品を20選ご紹介します。
短歌に秋らしさを出す!秋の季語を知ろう
四季のいろどりが豊かな日本には、四季にまつわる言葉がたくさんあります。
その数多い言葉を採集し、春・夏・秋・冬・新年と、それぞれに分類して定めたものを「季語」と呼びます。
5・7・5の17文字で作る俳句は季節に重きを置くため必ずこの「季語」を用いることになっていますが、短歌には「季語」を使うという決まりは特にありません。
しかし、その季節を感じ取るためにある「秋の季語」を効果的に使えば、短歌の秋らしさをぐっと高めることが出来ます。
季語は時候や天文からはじまり、生活に密着していること、行事、植物などいろいろなものがあり、その季節ならではの風景や心情などの表現を手助けしてくれます。
歳時記という本にまとめられていますが、その中から使いやすいと思われるものをピックアップしてみましたので、好きな季語をみつけてみてくださいね。
代表的な秋の季語【一覧】
【時候:天候】
秋 初秋 文月 女郎花月 立秋 残暑 秋めく 新涼 処暑 仲秋 葉月 九月 八朔 白露秋分 秋彼岸 晩秋 長月 十月 秋の日 秋の朝 秋の昼 秋の夜 夜長 冷やか 爽やか 肌寒 朝寒 霜降 秋深し 秋闌く 行く秋 秋惜しむ 冬近し 秋色 秋晴 鰯雲秋の声 秋の空 秋高し 秋の雲 月 宵待 名月 無月 雨月 十六夜 星月夜 流星 秋風 初嵐 野分 台風 秋雲 秋の雨 秋時雨 稲妻 秋の虹 秋の夕焼け霧 露 秋の霜
【地理】
秋の山 秋の野 花野 秋の園 花畑 秋の田 刈田 秋の水 水澄む 秋の川 秋の海 秋の湖 不知火
【生活】
盆帰省 運動会 新米 夜食 枝豆 栗ごはん 栗飯 干柿 とろろ汁 秋の灯 火恋し 冬支度 案山子 稲刈 月見 菊人形 紅葉狩 芋煮会 終戦記念日 敬老の日 秋分の日 体育の日 文化の日 美術展 七夕 阿波踊 秋祭 墓参 灯篭流し 大文字 解夏
【動物や植物】
鹿 猪 渡り鳥 小鳥 燕帰る つぐみ ひよどり 鶲(ひたき)せきれい 椋鳥 きつつき 雁 鶴来る 秋鯖 秋鰹 鰯 太刀魚 秋刀魚 蜻蛉 鈴虫 こおろぎ 木犀 木槿 芙蓉 桃 梨 柿 林檎 葡萄 栗 柘榴 棗 無花果 オリーブの実 胡桃 青蜜柑 柚子 橙 金柑 檸檬 紅葉 初紅葉 薄紅葉 照葉 黄葉 黄落 紅葉且つ散る 木の実 団栗 銀杏 菩提樹 山椒の実 山葡萄 蔦 竹の花 芭蕉 サフラン カンナ 蘭 朝顔 鶏頭 コスモス 鳳仙花 女郎花 秋海棠 菊 風船葛 西瓜 南瓜 馬鈴薯 芋 生姜 稲 落穂 秋草 秋の七草 芒 萩 葛 撫子 野菊 桔梗 つゆ草 松茸
高校生向け!!秋らしい有名俳句集【10選】
それでは秋の季語が使われている秋らしい有名な短歌を10選ご紹介します。
【NO.1】寂蓮法師
『 寂しさは その色としも なかりけり 牧立つ山の 秋の夕暮れ 』
季語:秋の夕暮れ
意味:この寂しさは特にどの色のせいだということはなかったのだなあ。寂しさの漂う杉やヒノキが茂る山の夕暮れよ。
※「その色」は紅葉などの秋らしい色のこと。「としもなかりけり」は『~というわけでもないのだなあ』の意。
※「牧立つ」は『杉やヒノキなどの常緑樹が茂っている』の意。
【NO.2】大江千里
『 月見れば 千々にものこそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど 』
季語:月、秋
意味:月を見上げると、いろいろな思いがあふれて悲しくなってきます。私だけのために秋が訪れたわけではないのだけれど。
※「千々に」はなにかと多いこと。
【NO.3】壬生忠岑 みのぶただみね
『 ひさかたの 月の桂も秋はなほ 紅葉すればや 照りまさるらむ 』
季語:月、秋、紅葉
意味:月に生えるといわれている桂の木も秋には紅葉するので、秋の月は一段と美しく照り輝くのだなあ。
※「ひさかたの」は天空に関係のある「月」「日」「雨」「空」「昼」「雲」「光」などにかかる枕詞。「なほ」は『やはり』の意。「照りまさるらむ」は『一段と照り輝く』の意。
【NO.4】猿丸太夫
『 奥山に もみぢふみわけ 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき 』
季語:もみぢ(もみじ)、鹿、秋
意味:人里離れた山中で、散った紅葉の葉を踏み分け鹿が鳴いている。その声を聞いていると、しみじみと秋の寂しさ、かなしさを実感します。
【NO.5】藤原敏行朝臣
『 秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる 』
季語:秋
意味:秋が来たとはっきりと目には見えないけれど、風の音に秋の気配を感じてはっと気づかされました。
※「さやかに」は、はっきりと。「おどろかれぬる」は、はっと気づく、気づく、びっくりするの意。
ここからは明治以降、近代、現代の歌人の俳句をご紹介します!
【NO.6】島木赤彦
『 柿の皮 剥きてしまへば 茶を入れぬ 夜の長きこそ うれしかりけれ 』
季語:柿、夜の長き(夜長)
意味:柿の皮は剥いてしまったので、あとはお茶を入れるとしよう。秋の夜長は楽しいものです。
【NO.7】土屋文明
『 りんだうは 実をもちながら 紫の いよいよ深く 草に交れり 』
季語:りんだう(りんどう)
意味:りんどうが紫色の実をつけた。これでますます野の草に交わってゆくのだなあ。
【NO.8】正岡子規
『 宮島の 紅葉が谷は 秋闌けて 紅葉踏み分け 鹿の来る見ゆ 』
季語:紅葉、秋闌く、鹿
意味:宮島の紅葉が谷の秋もそろそろ終わりのようですが、紅葉の落葉を踏み分けてやって来た鹿をみましたよ。
※「紅葉が谷」は宮島の紅葉の名所。
※「オマージュ」は敬愛している作家や作品にあえて似せて創作することで尊敬を示していること。
【NO.9】穂村弘
『 錆びていく 廃車の山の ミラーたち いっせいに空 映せ十月 』
季語:十月
意味:山のように積まれた廃車は徐々に錆びていく。ドアミラーやバックミラーたちよ、みないっせいにこの十月の空を映すのだ。
【NO.10】木下龍也
『 鮭の死を 米で包んで またさらに 海苔で包んだ あれが食べたい 』
季語:鮭
意味:調理済みの鮭をご飯で包み、またそのうえ海苔で包んであるあれが食べたい。
こんな俳句もある!秋の素人俳句集【10選】
次はみなさんと同じ高校生の方のオリジナル短歌をご紹介します。
【No.1】無花果も そろそろ終わる 神無月 コトコト煮込み ジャムにしよう
季語:無花果、神無月
意味:無花果の時季もそろそろ終わる10月だからコトコト煮込んでジャムにしよう。
【No.2】ベランダの 片隅におり 秋桜 仲間少なく 咲くもさびしや
季語:秋桜(あきざくらとここでは読む)
意味:ベランダの片隅にコスモスを植えているのだけれど、仲間が少なくてさみしそうに咲いています。
【No.3】目覚めれば 夜来の雨に 金木犀 散りはじめて 黄金に染まり
季語:金木犀
意味:ふと目覚めると、夜になってからの雨が金木犀を散らしはじめて、黄金(こがね)色に染まっています。
※「夜来」は『やらい』で夜になってからの意。
【No.4】我が庭に 漂う隣の夕御飯 隠しきれない 秋刀魚の匂い
季語:秋刀魚
意味:うちの庭にお隣の夕御飯の匂いが漂ってきています。秋刀魚を焼いている匂いは隠しきれないものですね。
【No.5】こちらへは 寄って来るなと 台風の コースをたびたび 確かめて見る
季語:台風
意味:こちらの地方には寄って来るなと思いながら、台風のコースをたびたび確かめてみています。
【No.6】秋空に 雲が描きし 美術展 君と眺めん 風の絵画を
季語:秋空、美術展
意味:秋の空に雲が絵を描いて美術展をやってるみたい。風の絵画を君と眺めよう。
【No.7】せわしなく 首動かして 鵯(ひよどり)は 柿のこずえを わが城とする
季語:ひよどり、柿
意味:せわしなく首を動かしているひよどりが、柿の木のこずえに巣を作ったようだ。
【No.8】秋祭り 雨に降られて 出番なく 子ども神輿は 雨宿りする
季語:秋祭り
意味:秋祭りなのに雨に降られてしまった。出番のなくなった子ども神輿が雨宿りをしています。
【No.9】雨風も 騒がしくなる はたたがみ 引き連れ来たる 女郎花月
季語:女郎花月(おみなえしづき)
意味:雨風が騒がしくなって、激しく鳴りとどろく雷が七月(旧暦)を引き連れてきます。
※「はたたがみ」は雷が激しく鳴りとどろくこと。
【No.10】好天を とっておきたい 週末の 荒天予報の 運動会へ
季語:運動会
意味:良いお天気をできることなら取っておきたいです。運動会のある週末はお天気が荒れそうな予報だから。
以上、高校生向け秋のおすすめ短歌集でした!
百人一首など和歌の世界では、秋を寂しく悲し気なものととらえたものが多いですが、現代では自由に心に感じた季節感や、その季節を楽しむ気持ちを詠むようになりました。
もちろん、寂しく切ない思いを詠うのもすばらしいことです。
名月を見ながらしんみりと物思いにふける秋もあれば、コスモスや紅葉などの美しい景色に弾む秋もあります。