【別れ・旅立ちを詠んだ有名和歌 20選】おすすめ!!別れ(旅立ち)の季節に詠みたい和歌を紹介

 

現代のように気軽に旅行ができなかった奈良時代や平安時代でも、多くの人が旅をしていました。

 

神社や仏閣へのお参りや、温泉に入りに行く旅、仕事のため任地へ向かう旅など様々ですが、昔の旅は長期にわたり安全も保障されていないため、旅立ちに際して別れを惜しみ涙する人も大勢いました。

 

今回はそんな「別れや旅立ちのシーン」で詠まれた有名な和歌を20首紹介します。

 

 

短歌職人
歌の意味や言葉についても解説していますので、ぜひ一緒に鑑賞してみてください。

 

別れ・旅立ちを詠んだ有名和歌【前半10首】

 

【NO.1】大伴家持

『 あしひきの 山の黄葉に しづくあひて 散らむ山道を 君が越えまく 』

【意味】山の紅葉にしずくが付いて散る山道をあなたは越えて行くのだね。

短歌職人
任地へ赴く役人を見送る歌です。古代の旅は基本的に自分の足で歩いて行きますが、作者は旅人の一歩一歩を思い、無事山を越えてくれと願いを込めたのではないでしょうか。初句の「あしひきの」は「山」にかかる枕詞です。

 

【NO.2】詠み人知らず

『 あしひきの 片山雉 立ち行かむ 君に後れて うつしけめやも 』

【意味】片山のキジが飛び立つようにあなたに旅立たれて、どうして私は落ち着いていられましょうか。

短歌職人
旅立つ人を見送る寂しさを詠んだ歌です。「片山」は一方が険しく、一方がなだらかな山のことです。この歌にも「あしひきの」とあるように古代の旅は山をいくつも越えて行くため、旅立ちや別れの歌には山が出てくるものが多く見られます。

 

【NO.3】大伴家持

『 君が行き もし久にあらば 梅柳 誰れとともにか 我がかづらかむ 』

【意味】君の旅がもし長引くなら、梅や柳を誰と一緒に髪に飾ればいいのだろうか。

短歌職人
旅立つ友を見送る歌です。「かづら」は髪飾りのことで、作者は梅の花や柳の綿毛などの春の植物を友人とともに毎年髪に飾って楽しんでいたのでしょう。別れを惜しみ、帰りを心待ちにする気持ちが伝わります。

 

【NO.4】椋橋部弟女

『 草枕 旅の丸寝の 紐絶えば 我が手と付けろ これの針持し 』

【意味】旅の途中で草を枕に眠る時に着物のひもが切れたなら、私の手だと思ってこの針を持ってください。

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旅立つ夫に針を持たせて「私が付け直していると思ってこの針で縫ってください」と妻が言う歌です。古代では着物のひもは縁を象徴するもので、離れても自分との縁が切れないようにとの願いが込められています。

 

【NO.5】若舎人部広足

『 難波津に み船下ろすゑ 八十梶貫(やそかぬ)き 今は漕ぎぬと 妹に告げこそ 』

【意味】難波津に船を浮かべてたくさんの梶で漕ぎ出していったと妻に伝えておくれ。

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作者は北九州に向かう防人で、他の防人たちと難波津という港に集合して大きな船で海を渡って旅立ちました。「み船」はその船の立派さ、「八十梶」は船に通された大量の梶を表現しています。

 

【NO.6】有渡部牛麻呂

『 水鳥の 立ちの急ぎに 父母に 物言ず来にて 今ぞ悔しき 』

【意味】水鳥が飛び立つように急いで旅立って父母に何も言わずに来たことが今更悔しい。

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作者は急に旅に出ることになり、慌てて家を出てしまったのでしょう。古代の旅は危険なもので、無事に帰れるかは分かりません。旅路で両親のことを思い、言葉を交わしておけばよかったと悔やまれたのでしょう

 

【NO.7】在原業平

『 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む 』

【意味】別れて因幡へ旅立ちますが、因幡の山の峰に生える松のように、あなたが待っていると聞いたならすぐに帰ります。

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因幡(いなば)は現在の鳥取県で、作者は役人として因幡に赴任することになり、その旅立ちを詠んだものです。「松」と「待つ」を掛詞にして、待っていてほしい気持ちを詠み込んでいます。

 

【NO.8】蝉丸

『 これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関 』

【意味】これがあの、都から出ていく人も帰る人も、顔見知りもそうでない人も別れては出会う逢坂の関なのだな。

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「逢坂の関」は現在の京都府と滋賀県との境に置かれていた関所で、「逢坂」と「逢う」は掛詞となっています。旅立つ人と帰る人とが行き交う関所への感慨を詠んだ歌です。

 

【NO.9】菅原道真

『 このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに 』

【意味】今回の旅は幣を用意するひまもなかった。神よ、手向山の美しい紅葉をお心のままに。

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幣(ぬさ)は紙や布を細かく裂いたもので、旅の無事を祈ってばらまくものです。作者は急な旅で幣を用意できなかったので、紅葉を代わりにして道中の安全を願ったのでしょう。「このたびは」が「この度」と「この旅」、地名の「手向山」とお供えするという意味の「手向け」との掛詞になっています。

 

【NO.10】紀利貞

『 かへる山 ありとはきけど 春霞 立ち別れなば 恋しかるべし 』

【意味】「かえる山」があるとは聞きますが、春の霞の中でお別れするのは寂しいですね。

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「春霞」は「立つ」にかかる枕詞です。任地に赴く友を見送る歌で、赴任先に「かへる山」と呼ばれる山があったことから、作者は「すぐに帰って来られるだろう、けれども寂しい」と友人に語ったのでしょう。

 

別れ・旅立ちを詠んだ有名和歌【後半10首】

 

【NO.11】源実

『 人やりの 道ならなくに おほかたは いきうしといひて いざ帰りなむ 』

【意味】人に命じられた旅ではないので普通はついて行きにくくて、さあ帰ろうと言うものですが。

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作者は温泉へ旅行しようとしているのですが、別れを惜しんで多くの人が後をついてくるので「自分の都合の旅なのだから、見送る人達も普通は途中で帰るものだが」と心情を歌にしました。作者はよほど大勢から慕われていたのでしょう。

 

【NO.12】良岑秀崇

『 白雲の こなたかなたに 立ち別れ 心をぬさと くだくたびかな 』

【意味】白雲があちらこちらに分かれるように、心を幣(ぬさ)のように裂いてしまう旅ですよ。

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旅に出る友人を見送る歌です。作者は寂しさのあまり、紙や布を細かく切って旅の安全を祈る幣(ぬさ)のように自分の心が引き裂かれて、雲がちぎれて別れるように自分達は離ればなれになると感じています。

 

【NO.13】僧正遍照

『 山かぜに 桜ふきまき みだれなむ 花のまぎれに たちとまるべく 』

【意味】山の風に桜が吹かれて乱れれば良い。散った花に紛れてあなたが立ち止まるように。

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親しい人との別れを惜しむ歌です。引きとめたいけれども、その気持ちを口には出せないから桜吹雪で帰り道を隠してくれと桜に願ったという、表現の美しい一首です。

 

【NO.14】幽玄法師

『 別れをば 山の桜に まかせてむ とめむとめじは 花のまにまに 』

【意味】別れは山の桜に任せましょう。止める止めないは花に任せて。

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別れたくないけど言えない、引きとめることはできないから、桜が散ったらお別れだと思うことにしよう、といった内容です。散る桜を惜しむ心は別れを惜しむ気持ちに似ているためか、桜は別れの和歌にも多く登場します。

 

【NO.15】藤原兼輔

『 君のゆく こしの白山 しらねども 雪のまにまに あとはたづねむ 』

【意味】君が行った越の白山は知らないが、雪のままに足跡をたずねて行くよ。

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「越(こし)」は現在の石川県周辺を指す地名で「白山」はその地方の山の名前です。作者は「君」の行った白山へ旅立とうとしているのでしょう。未知の地だけれど、雪に残された足跡をたどって行くよという歌です。

 

【NO.16】詠み人知らず

『 限なく 思ふ涙に そぼちぬる 袖は乾かじ 逢はむ日までに 』

【意味】あなたを思う涙が限りなくこぼれて、濡れた袖は乾かないでしょう。再会する日までは。

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作者は旅に出る人と別れたくはなく、しかしどうしても引きとめることができずに泣きぬれているのでしょう。別れが悲しくてたまらなくて辛い気持ちが強く伝わる歌です。

 

【NO.17】源寵

『 朝なけに 見べき君とし たのまねば 思ひたちぬる 草枕なり 』

【意味】常には会えないあなたのことは頼みにしないで、思い立って旅に出ます。

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この歌は「物名歌」といって、歌の内容とは別な意味の言葉が隠されています。作者は藤原公利(きみとし)という男性と恋人同士だったようで「君とし」にその名を、「思ひたちぬる」に地名の「常陸(ひたち)」を詠み込んでいます。公利さんに向けて「あなたが最近冷たいので常陸へ旅に出ます」と告げた歌です。

 

【NO.18】中納言隆家

『 分かれ路は これや限りの 旅ならむ さらにいくべき 心地こそせね 』

【意味】お別れしたらこれが最後になる旅かと思うと行く気になれません。

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作者には旅に出なければいけない事情があるのでしょうが後ろ髪引かれる思いでいます。旅立ちは行く方にとっても寂しく、もう会えなくなるかもしれない別れとなると足もつい止まってしまいます。

 

【NO.19】源重之

『 衣川 みなれし人の 別れには 袂までこそ 波はたちけれ 』

【意味】見慣れている衣川のように慣れ親しんだ人との別れは袂まで波が立ちます。

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第五句の「波」は涙の波という意味で、着物の袂(たもと)を濡らすほど涙があふれてくることを表しています。いつも顔を合わせている人ほど別れは寂しく辛いものです。

 

【NO.20】西行

『 さりともと なほ逢うことを 頼むかな 死出の山路を 越えぬ別れは 』

【意味】それにしても、また会うことを期待しますよ。死出の山道を越えない限りは。

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どこに旅立っても誰と別れても、生き別れない限りはきっとまた会えるという歌です。離れた土地にいれば気軽には会えない時代ですが、お互い生きてまた会いましょうねと約束したような希望を感じます。

 

以上、別れ・旅立ちを詠んだ有名和歌20選でした!

 

 

別れや旅立ちを詠んだ歌は和歌集では「離別歌」や「羇旅歌(きりょか)」というジャンルに分けられ、「古今和歌集」や「新古今和歌集」で多く読むことができます。

 

短歌職人
今回紹介した和歌を読んで、別れや旅立ちの和歌に興味を持った人や、もっと知りたいと思った人はぜひ和歌集にも目を通してみましょう。