【くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき】徹底解説!!意味や表現技法・句切れ・鑑賞文など

 

今回は、『伊勢物語』の23段「筒井筒」に収録されている一首「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」をご紹介します。

 

 

本記事では、くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」の意味や表現技法・句切れ・作者について徹底解説し、鑑賞していきます。

 

「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」の詳細を解説!

 

くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき

(読み方:くらべこし ふりわけがみも かたすぎぬ きみならずして たれかあぐべき)

 

作者と出典

この歌の作者は不詳です。

 

出典である伊勢物語は、平安時代の前期に書かれた物語ですが、作者についてははっきりと分かってはいません。江戸時代の初めごろまで、物語の主人公である在原業平 自身の作品だと伝えられており、現在の研究でも物語の原型は在原業平が書いたのではという見方があります。その原型が業平の縁者によって語られ、その後は数人の作者によって書き継がれていったと考えられています。

 

前述したように、出典は『伊勢物語』です。

 

平安時代前期に書かれたもので、現存する最古の「歌物語」です。各章段にそれぞれ独立した物語があり、和歌を中心として作られています。現行本では125段から成っており、それぞれの物語は独立しているものの、全体を通して男(主人公)の元服から臨終までを描いています。しみじみと心を打つ内容が多く、様々な形の「愛」がテーマとなっています。

 

現代語訳と意味 (解釈)

 

この歌の現代語訳は・・・

 

「(あなたと長さを)比べてきた私の振分け髪も(伸びて)肩を過ぎました。あなた(のため)ではなく誰(のため)に、髪上げをしましょうか。(あなたのためにです。)」

 

となります。

 

この歌は返歌で、実はこの前に「筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」という歌があります。

 

簡単に説明すると「あなたに会わない間に背もずいぶん大きくなったんだよ。」という内容で、これは男性が幼馴染の女性にプロポーズするときに詠んだ歌です。そして、「くらべこし…」は女性から男性に向けての答えの歌なのです。

 

 

文法と語の解説

  • 「比べこし」

「比べ」…動詞「比ぶ」。現代語では「比べる」。

「こ」…動詞「来(く)」の未然形

「し」…過去の助動詞「き」の連体形

 

  • 「振分髪も肩すぎぬ」

「振分髪」…頭の中心から髪を左右にわけて垂らし、肩の辺りで切りそろえた髪型で、男女ともに8歳ごろまでしていた髪型。

「すぎぬ」…動詞「過ぐ」連用形+完了の助動詞「ぬ」終止形

 

  • 「君ならずして」

「君」…あなた。この歌では、恋の相手である男性のことを指しています。

「ならず」…断定の助動詞「なり」未然形+打消の助動詞「ず」連用形

「して」…接続助詞

 

  • 「たれかあぐべき」

「たれ」…「誰」の意味です。

「か」…係助詞で、反語を表しています。

「あぐ」…動詞「上ぐ(あぐ)」の終止形で、この歌では髪上げをすることを指しています。

髪上げとは、12~15歳ごろに行う女子の成人の儀式で、垂らしていた髪を一つに結い上げて後ろに垂らす髪型にすることです。

「べき」…意志・当然・推量の助動詞「べし」の連体形

 

「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」の句切れと表現技法

句切れ

この歌は3句切れです。

 

初句から3句までで「長い年月で髪が伸びたこと」を説明し、4句と結句では「この髪を上げるのはあなたしかいない」という思いを詠んでいます。

 

係り結び

「たれかあぐべき」の「か~べき」が係り結びの関係になっています。

 

係り結びは、疑問を表したり文の内容を強調したりするために使います。

 

反語

反語とは、本来の意味とは反対の意味を含ませる表現法のことです。

 

「か~べき」の係り結びがあることで、反語の表現となっています。この歌では「あなたしかいない」ということを強調するために、「あなたではなくて誰が上げるのでしょうか」と、わざと疑問文の形にしています。

 

「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」が詠まれた背景

 

伊勢物語は男女の愛情を中心として、親子・兄弟・友人などの物語もあり、様々な「愛」を描いています。

 

「くらべこし…」の歌が詠まれている物語(伊勢物語23段)は、次のようなものです。

 

<伊勢物語23段 筒井筒 あらすじ>

田舎で暮らす幼馴染の男女が、成長に伴って互いに相手を意識し始める。やがて望み通り結婚するが、男は浮気をする。しかし妻は男を恨む様子もない。男は不審に思い妻の様子をうかがう。そこで見たのは、一途に自分のことを想ってくれる妻の姿だった。男は、浮気相手のもとへは通わなくなった。

 

「くらべこし…」の歌が詠まれるのは始めのほうで、実はその後につづく物語のほうがこの段の主題となっています。伊勢物語の23段は高校の国語の教科書に載っていますが、大人になって物語の内容を覚えている人は少ないのではないでしょうか。

 

物語の終盤にもう一つ、浮気相手のもとへ男を送り出した妻が詠む歌「風吹けば沖つ白浪龍田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」があります。この歌は後に、伊勢物語以外にも『古今和歌集』『大和物語』にも収録されました。

 

『伊勢物語』の主人公は在原業平がモデルだとされていますが、実名は一度も出てこず、事実とフィクションが入り混じっているとされています。したがって「筒井筒」が業平の経験した実話なのかどうかは分かっていません。

 

「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき」の鑑賞

 

【くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき】は、幼馴染からの愛の告白に返事をする女性の歌です。

 

まだ無邪気な子どもだったころ、性別なんて関係なく、一緒に遊んでいた二人。いつの間にか相手を異性として意識するようになり、少しぎくしゃくした関係に…。このような経験がある人は、現代でも珍しくないかもしれません。

 

自分の気持ちに気付いていたけれど、ずっと言えずにいた。そんな相手からの告白は、さぞ嬉しかったことでしょう。「君ならずしてたれかあぐべき」の部分には、「あなたしかいない」という強い思いが込められています。

 

物語の中の和歌ですので、一般的な解釈は「恋が叶ったロマンチックな歌」です。

 

しかし、歌のみで考えてみるとどうでしょう。「あなたしか考えられない!」の、「あなた」がもう会えない人だったら?相手に別の交際相手がいたら?…このような風に想像すると、また違った解釈ができるかもしれません。

 

作者であり主人公のモデル?「在原業平」を簡単にご紹介!

(在原業平 出典:Wikipedia) 

 

在原業平は825年(天長2年)生、880年(元慶4年)没。業平は平城天皇の孫で、平安時代に活躍した歌人です。

 

六歌仙・三十六歌仙にそれぞれ名を連ねており、凄腕だったと言われています。その証拠に、古今和歌集に30首、その他勅撰和歌集に87首が入手しています。

 

斬新で大胆な発想、大げさな詠嘆など、当時としては「新しい」作風が特徴でした。

 

また、在原業平は美男で恋多き男性だったとも言われており、『伊勢物語』の主人公に擬せられています。多感な性格で、歌にも情熱的な特色があらわれています。

 

「在原業平」のそのほかの作品(伊勢物語に収録されているほかの作品)

(在原業平と二条后 出典:Wikipedia)

 

  • 起きもせず寝もせで夜をあかしては春の物とてながめ暮らしつ
  • 数々に思ひ思はずとひがたみ身をしる雨はふりぞまされる
  • 世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし
  • ちはやふる神世もきかず竜田河唐紅に水くくるとは
  • あづさ弓引けど引かねど昔より心は君に寄りにしものを