みなさんは有名な「梅」の短歌(和歌)を聞いたことがありますか?
「令和」という元号が万葉集の第5巻「梅花の歌」の序文からの出典でしたので、由来に関する短歌を目にされる機会も増えているでしょう。
今回は、万葉集だけではなく現代の短歌、新古今和歌集からも「梅」を使った短歌をご紹介いたします。
梅の有名短歌集【現代短歌10選】
【NO.1】与謝野鉄幹(よさのてっかん)
『 梅が香に 人なつかしき このごろと われまづかきぬ 京へやる文 』
意味:梅の香りに懐かしい気持ちがするこの頃。私はまず京へ送る文を書いたよ。
【NO.2】与謝野晶子(よさのあきこ)
『 秋の人の よりし柱に とがめあり 梅にことかる きぬぎぬの歌 』
意味:秋に人が寄りかかった柱に咎めごとがあります。梅に言葉を借りた男女の衣の歌です。
【NO.3】山川登美子
『 恋に病み けふ死ぬほどに いと熱きを とめにふらせ 紅梅の露 』
意味:あなたへの強い想いに病気になって今日死んでしまうほどの気持ちの私を止めるためにどうか紅梅の露をください。
【NO.4】島木赤彦
『 紅梅の 花にふりおける あわ雪は 水をふくみて 解けそめにけり 』
意味:紅梅の花に降りかかっている淡雪が水を含んで解けて紅色に染まっているよ
【NO.5】:佐藤佐太郎
『 憂ひなく わが日々はあれ 紅梅の 花すぎてより ふたたび冬木 』
意味:心配事なく私の毎日が過ぎていって欲しい。紅梅が花を咲く時期がおわり、いつもと同じく再び冬木の裸木に戻っているように。
【NO.6】伊藤左千夫
『 梅の花 さやかに白く 空蒼く つちはしめりて 園しづかなり 』
意味:梅の花が白くくっきりと見えていて空は青く、土は湿っていて梅の園はしづかである。
【NO.7】馬場あき子
『 針の穴 一つ通して きさらぎの 梅咲く空に ぬけてゆかまし 』
意味:針の穴に糸を一本通すのは2月の梅が咲いている空にすっと抜けていく気持ちのようです。
【NO.8】斎藤茂吉
『 梅の花 うす紅に ひろがりし その中心にて もの栄ゆるらし 』
意味:梅の花のうす紅色が広がっているのはその中心で、ものが栄えているかのようだ。
【NO.9】栗木京子
『 春一番 吹きくる土手に うたふかな 馬・海・産む・梅 うまうみうむうめ 』
意味:春一番が吹いてくる土手に向かってうたいましょうか。馬・海・産む・梅と。
【NO.10】俵万智
『 多義的な 午後の終わりに 狩野派の 梅だけがある 武蔵野の春 』
意味:雑多な午後の終わりに、狩野派が書いたような梅だけがあるのが武蔵野の春です。
梅の有名短歌集【新古今和歌集10選】
【NO.1】藤原定頼(ふじわらのさだより)
『 来ぬ人に よそへて見つる 梅の花 散りなむ後(のち)の なぐさめぞなき 』
意味:来ないあなたになぞらえて見ているのは梅の花です。その梅の花が散った後はなぐさめになるものは何もありません。
【NO.2】大弐三位(だいにのさんみ)
『 春ごとに 心をしむる 花の枝に たがなほざりの 袖かふれつる 』
意味:春が来るたびに私が深く思う梅の枝に、どなたか気まぐれな袖を触れさせていい香りを移されたのでしょう。
【NO.3】康資王母(やすすけおうのはは)
『 梅散らす 風も越えてや 吹きつらむ 香をれる雪の 袖にみだるる 』
意味:梅の花を散らしながら風が頭上を吹き貫いていったのだろうか。良い香りのする雪が私の袖に散り乱れているよ。
【NO.4】皇太后宮大夫俊成女
『 梅の花 あかぬ色香も むかしにて おなじかたみの 春の夜の月 』
意味:梅の花はその飽きることのない色香も昔のままであり、同じような形見として春の夜の月が浮かんでいます。
【NO.5】源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)
『 心あらば とはましものを 梅が香に たが里よりか にほひ来つらん 』
意味:もしも心があるならば聞いてみたいものだ、この梅の香りに。一体あなたは誰のいる里から匂って来たのだろかと。
【NO.6】藤原敦家朝臣(ふじわらのあついえあそん)
『 あるじをば たれともわかず 春はただ 垣根の梅を たづねてぞ見る 』
意味:家の主が誰であるのかわかりませんが、春はただ垣根の梅を探したづねてみるのです。
【NO.7】宇治前関白太政大臣(うじまえかんぱくだじょうだいじん)
『 折られけり くれない匂ふ 梅の花 今朝しろたえに 雪は降れれど 』
意味:折る事ができたよ、紅の色が美しく咲いている梅の花を。今朝は真っ白に雪が降っているけれど。
【NO.8】藤原定家
『 大空は 梅のにほひに 霞みつつ 曇りもはてぬ 春の夜の月 』
意味:大空には梅の香りででしょうか霞んで見え、春の夜の月も曇りきっているわけでもないおぼろ月ですよ。
【NO.9】右衛門督通具(うえもんのかみ みちとも)
『 梅が香に 昔を問へば 春の月 答へぬ影ぞ 袖にうつれる 』
意味:梅の香りに懐かしくなり、昔のことを尋ねても月は答えない。けれどその光が涙で濡れた袖にうつっているよ。
【NO.10】藤原定家
『 梅の花 にほひをうつす 袖の上に 軒もる月の 影ぞあらそふ 』
意味:軒の端から漏れて入ってくる月の光が、私の袖にうつっている梅の香りと競い合っているようです。
梅の有名短歌集【万葉集10選】
万葉集の中に梅を歌った短歌は122首あります。
令和の語源となった序文があるのは巻五「梅の花の歌」で、大伴旅人が大宰府で開いた観梅の宴で詠まれた32首が掲載されています。
【NO.1】大伴旅人(おおとものたびと)
『 我が園に 梅の花散る 久方の 天より雪の 流れくるかも 』
意味:私の庭に梅の花が散っているよ。あたかも天から雪が流れてくるようだ。
【NO.2】大監伴氏百代(ばんしのももよ)
『 梅の花 散らくはいづく しかすがに この城(き)の山に 雪は降りつつ 』
意味:梅の花は散っているのは何処でしょうか。この城の山には雪が降っていますよ。
【NO.3】筑前介佐氏子首(ちくぜんのすけさしのこびと)
『 万代(よろずよ)に 年は来経(きう)とも 梅の花 絶ゆることなく 咲きわたるべし 』
意味:万年の年を経ようとも梅の花は絶えることなく咲き続けることでしょう
【NO.4】筑前守山上大夫(ちくぜんのかみやまのうえのだいふ)
『 春されば まづ咲く やどの梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ 』
意味:春になると庭に最初に咲く梅の花を、たった一人で見ながら長い春の日を過ごすことなどどうしてできましょうか。
【NO.5】筑後守葛井大夫(ちくごのかみふじいだいぶ)
『 梅の花 いま盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり 』
意味:梅の花が今満開です。気のあったもの同士で梅の髪飾りをさして遊びながら今を存分に楽しみましょう。
【NO.6】少典山氏若麻呂(しょうてんさんじのわかまろ)
『 春されば 木末隠りて 鶯ぞ 鳴きて去ぬなる 梅が下枝(しずえ)に 』
意味:春になるとウグイスは梢に隠れて鳴いては去っていくよ。梅の下枝あたりに
【NO.7】薩摩目高氏海人(さつまのあまひと)
『 わがやどの 梅の下枝(しづえ)に 遊びつつ うぐひす鳴くも 散らまく惜しみ 』
意味:わが家の梅の下枝でうぐいすが遊びながら鳴いているよ。梅の花が散るのを惜しみながら。
【NO.8】筑前目田氏真神(でんしのまかみ)
『 春の野に 霧立ち渡り 降る雪と 人の見るまで 梅の花散る 』
意味:春の野に霧が立ち渡って、人にはまるで雪が降っているかのように見えるほど梅の花が散っているよ。
【NO.9】大伴旅人
『 梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我れ思ふ 酒に浮かべこそ 』
意味:梅の花が夢の中で語ることには「私は自分でもみやびな花だと思います。どうぞお酒に浮かべてくださいな」と。
【NO.10】大伴旅人
『 残りたる 雪にまじれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも 』
意味:残っている雪に混じって咲いている梅の花よ、早く散らないでおくれ。雪が消えたとしても。
以上、梅の有名短歌(和歌)集でした!
5・7・5・7・7という41語の中で「梅」に限定しただけでもこれだけの色彩豊かな表現の作品が並んでいます。
みなさんも普段はなかなか花をじっと観察することはないと思いますが、歌ごころを育てるにはぼーっとする時間も大事です。