【梅の有名短歌(和歌)集 30選】現代・新古今和歌集・万葉集など!!おすすめ作品を紹介!

 

みなさんは有名な「梅」の短歌(和歌)を聞いたことがありますか?

 

「令和」という元号が万葉集の第5巻「梅花の歌」の序文からの出典でしたので、由来に関する短歌を目にされる機会も増えているでしょう。

 

今回は、万葉集だけではなく現代の短歌、新古今和歌集からも「梅」を使った短歌をご紹介いたします。

 

短歌職人
少し長いですがゆっくり楽しんでください!

 

梅の有名短歌集【現代短歌10選】

 

【NO.1】与謝野鉄幹(よさのてっかん)

『 梅が香に 人なつかしき このごろと われまづかきぬ 京へやる文 』

意味:梅の香りに懐かしい気持ちがするこの頃。私はまず京へ送る文を書いたよ。

短歌職人
これは結婚前に鉄幹から同じ歌人である晶子へ送った短歌だそうです。出だしに自分(鉄幹)が好きな梅の香と書かれるとドキっとしますね。

 

【NO.2】与謝野晶子(よさのあきこ)

『 秋の人の よりし柱に とがめあり 梅にことかる きぬぎぬの歌 』

意味:秋に人が寄りかかった柱に咎めごとがあります。梅に言葉を借りた男女の衣の歌です。

短歌職人
晶子の歌は謎めいたものが多く、これも「梅」を詠みながら「秋の人」が入っているのは意図的なものでしょう。自分と同じように鉄幹に情熱を燃やしたもう一人の女性が寄りかかった柱のことを指しているのかもしれません。

 

【NO.3】山川登美子

『 恋に病み けふ死ぬほどに いと熱きを とめにふらせ 紅梅の露 』

意味:あなたへの強い想いに病気になって今日死んでしまうほどの気持ちの私を止めるためにどうか紅梅の露をください。

短歌職人
鉄幹に情熱を燃やしたもう一人はこの登美子さんです。鉄幹が好きだった梅を使い彼のことを「紅梅の露」と詠んだ熱い歌ですね。

 

【NO.4】島木赤彦

『 紅梅の 花にふりおける あわ雪は 水をふくみて 解けそめにけり  』

意味:紅梅の花に降りかかっている淡雪が水を含んで解けて紅色に染まっているよ

短歌職人
じっと梅の木にかかった雪を解けるまで見ていないとこのような描写は歌えないですよね。美しくゆったりとした時の流れを感じます。

 

【NO.5】:佐藤佐太郎

『 憂ひなく わが日々はあれ 紅梅の 花すぎてより ふたたび冬木 』

意味:心配事なく私の毎日が過ぎていって欲しい。紅梅が花を咲く時期がおわり、いつもと同じく再び冬木の裸木に戻っているように。

短歌職人
日々は「あれ」であってほしいという願いを詠んでいます。冬木と自分の老後の「憂い」と重ねているのかもしれません。

 

【NO.6】伊藤左千夫

『 梅の花 さやかに白く 空蒼く つちはしめりて 園しづかなり 』

意味:梅の花が白くくっきりと見えていて空は青く、土は湿っていて梅の園はしづかである。

短歌職人
快晴の空の下、シーンとした園の中に立つ白梅を眺めている姿が目に浮かびます。

 

【NO.7】馬場あき子

『 針の穴 一つ通して きさらぎの 梅咲く空に ぬけてゆかまし 』

意味:針の穴に糸を一本通すのは2月の梅が咲いている空にすっと抜けていく気持ちのようです。

短歌職人
ご本人が針の糸を通すのがお得意だったそうで、この歌の気持ちそのままに糸を通されていたのでしょうね。背筋が伸びるような短歌です。

 

【NO.8】斎藤茂吉

『 梅の花 うす紅に ひろがりし その中心にて もの栄ゆるらし 』

意味:梅の花のうす紅色が広がっているのはその中心で、ものが栄えているかのようだ。

短歌職人
白梅の中心をじっと観察したのでしょうか。中心だけの紅色に栄えているかのようだと思う想像力の豊かさがありますね。

 

【NO.9】栗木京子

『 春一番 吹きくる土手に うたふかな 馬・海・産む・梅 うまうみうむうめ 』

意味:春一番が吹いてくる土手に向かってうたいましょうか。馬・海・産む・梅と。

短歌職人
下の句はただ繰り返している言葉遊びで面白いですね。「ま、み、む、め」で最後に「梅」で終わるようまとめています。

 

【NO.10】俵万智

『 多義的な 午後の終わりに 狩野派の 梅だけがある 武蔵野の春 』

意味:雑多な午後の終わりに、狩野派が書いたような梅だけがあるのが武蔵野の春です。

短歌職人
「多義的な」とう表現が現代的です。午後の終わりとは何時頃なのでしょうね。水墨画的に見える時間、夜おそくということかもしれません。

 

梅の有名短歌集【新古今和歌集10選】

 

【NO.1】藤原定頼(ふじわらのさだより)

『 来ぬ人に よそへて見つる 梅の花 散りなむ後(のち)の なぐさめぞなき 』

意味:来ないあなたになぞらえて見ているのは梅の花です。その梅の花が散った後はなぐさめになるものは何もありません。

短歌職人
「来ぬ人」はこの歌を贈る相手である恋人のことで、「来てくれないから梅の花を眺めて癒しているよ、早く来て欲しいな」と半ばいじけたように言っているのですね。この歌への女性の返歌が次です。

 

【NO.2】大弐三位(だいにのさんみ)

『 春ごとに 心をしむる 花の枝に たがなほざりの 袖かふれつる 』

意味:春が来るたびに私が深く思う梅の枝に、どなたか気まぐれな袖を触れさせていい香りを移されたのでしょう。

短歌職人
私が深く思っている梅の枝=恋人に、他のどなたかがいい香りをつけたのですね、と揶揄しています。「どうして来ないの」という浮気男の短歌に「よくそんなことが言えるわね」とたしなめている、大人のやりとりですね。

 

【NO.3】康資王母(やすすけおうのはは)

『 梅散らす 風も越えてや 吹きつらむ 香をれる雪の 袖にみだるる 』

意味:梅の花を散らしながら風が頭上を吹き貫いていったのだろうか。良い香りのする雪が私の袖に散り乱れているよ。

短歌職人
春の雪と風が、梅の香りと一緒に長い黒髪をたなびかせている光景が目に浮かびますね。この歌は「梅花を折りて挿頭す 二月の雪衣に落つ」という詩句を歌題にしたものです。

 

【NO.4】皇太后宮大夫俊成女

『 梅の花 あかぬ色香も むかしにて おなじかたみの 春の夜の月 』

意味:梅の花はその飽きることのない色香も昔のままであり、同じような形見として春の夜の月が浮かんでいます。

短歌職人
梅の花と春の夜の月。「むかし」から「飽かぬ」女性の色香とも関係があるのかないのか、詳しい意味は想像するしかありませんが全体的な雰囲気がなんとも美しい短歌です。

 

【NO.5】源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)

『 心あらば とはましものを 梅が香に たが里よりか にほひ来つらん 』

意味:もしも心があるならば聞いてみたいものだ、この梅の香りに。一体あなたは誰のいる里から匂って来たのだろかと。

短歌職人
どこからともなく漂ってきた梅の香を感じて誰かを思い出しながらうたったのでしょうか。答えてくれるわけはない「香り」を擬人化して「誰か」に思いを馳せているのですね。

 

【NO.6】藤原敦家朝臣(ふじわらのあついえあそん)

『 あるじをば たれともわかず 春はただ 垣根の梅を たづねてぞ見る 』

意味:家の主が誰であるのかわかりませんが、春はただ垣根の梅を探したづねてみるのです。

短歌職人
「誰ともわかず」「たづねてぞ見る」の主語を「春」とするのか「人」とするのかで解釈が変わってきます。さて梅を訪ねているのはどちらでしょうか。

 

【NO.7】宇治前関白太政大臣(うじまえかんぱくだじょうだいじん)

『 折られけり くれない匂ふ 梅の花 今朝しろたえに 雪は降れれど 』

意味:折る事ができたよ、紅の色が美しく咲いている梅の花を。今朝は真っ白に雪が降っているけれど。

短歌職人
匂ふ=美しく咲いている、映える。鮮やかな紅梅と白い雪で紅白のコントラストを強く印象づける歌です。

 

【NO.8】藤原定家

『 大空は 梅のにほひに 霞みつつ 曇りもはてぬ 春の夜の月 』

意味:大空には梅の香りででしょうか霞んで見え、春の夜の月も曇りきっているわけでもないおぼろ月ですよ。

短歌職人
本歌(元になっている歌)は「照りもせず曇りもはてぬ春の夜の おぼろ月夜にしくものぞなき」で、霞みがかっているぼんやりしている原因を「梅の匂ひ」にして嗅覚にうったえていますね。

 

【NO.9】右衛門督通具(うえもんのかみ みちとも)

『 梅が香に 昔を問へば 春の月 答へぬ影ぞ 袖にうつれる 』

意味:梅の香りに懐かしくなり、昔のことを尋ねても月は答えない。けれどその光が涙で濡れた袖にうつっているよ。

短歌職人
なんとも豊かな表現です。梅の香りがして昔を思い出し、涙を吹いた袖に月の光が当たっている、この心象が美しいですね。

 

【NO.10】藤原定家

『 梅の花 にほひをうつす 袖の上に 軒もる月の 影ぞあらそふ 』

意味:軒の端から漏れて入ってくる月の光が、私の袖にうつっている梅の香りと競い合っているようです。

短歌職人
これも泣いて濡れている袖に月の光が当たっている様子を歌ったものですね。電気がない時代の夜は月の光が人の心に与える影響が大きかったのでしょうね。

 

梅の有名短歌集【万葉集10選】

 

万葉集の中に梅を歌った短歌は122首あります。

 

令和の語源となった序文があるのは巻五「梅の花の歌」で、大伴旅人が大宰府で開いた観梅の宴で詠まれた32首が掲載されています。

 

短歌職人
ここにはその32首と後の4首から10選ご紹介いたします。

 

【NO.1】大伴旅人(おおとものたびと)

『 我が園に 梅の花散る 久方の 天より雪の 流れくるかも 』

意味:私の庭に梅の花が散っているよ。あたかも天から雪が流れてくるようだ。

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これも太宰府で詠まれています。この句は雪のようにふわふわと漂う花びらの様子は歌ごころを沸き立たせるのでしょう。

 

【NO.2】大監伴氏百代(ばんしのももよ)

『 梅の花 散らくはいづく しかすがに この城(き)の山に 雪は降りつつ 』

意味:梅の花は散っているのは何処でしょうか。この城の山には雪が降っていますよ。

短歌職人
実はこれ、前の大伴旅人の「我が園に〜」の歌を受けついで詠まれたもので、主人の旅人の短歌に茶目っ気で返したものなのです。こういう遊びごころが面白いですね。

 

【NO.3】筑前介佐氏子首(ちくぜんのすけさしのこびと)

『 万代(よろずよ)に 年は来経(きう)とも 梅の花 絶ゆることなく 咲きわたるべし 』

意味:万年の年を経ようとも梅の花は絶えることなく咲き続けることでしょう

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このように梅の花の永続を唱えながら、その席を開催した大伴旅人やそこにいる一同の栄華が「万代」まで続くことも祈っているようにも感じます。

 

【NO.4】筑前守山上大夫(ちくぜんのかみやまのうえのだいふ)

『 春されば まづ咲く やどの梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ 』

意味:春になると庭に最初に咲く梅の花を、たった一人で見ながら長い春の日を過ごすことなどどうしてできましょうか。

短歌職人
詠み人は長い名前ですが、山上憶良のことです。「見つつや」という反語を使って、一人で見るなんてできません、みなさんと一緒に見ることができていることが嬉しいのです、という意味ですね。

 

【NO.5】筑後守葛井大夫(ちくごのかみふじいだいぶ)

『 梅の花 いま盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり 』

意味:梅の花が今満開です。気のあったもの同士で梅の髪飾りをさして遊びながら今を存分に楽しみましょう。

短歌職人
梅の花盛りと宴の席の盛り上がりを掛けているのですね。髪飾りも梅の花で遊ぼうとは大人の風雅なひとときですね。

 

【NO.6】少典山氏若麻呂(しょうてんさんじのわかまろ)

『 春されば 木末隠りて 鶯ぞ 鳴きて去ぬなる 梅が下枝(しずえ)に 』

意味:春になるとウグイスは梢に隠れて鳴いては去っていくよ。梅の下枝あたりに

短歌職人
春・されば=春になると、です。梅とウグイスは歌ごころ的にも絵ごころ的にも鉄板の組み合わせですね。梅「が」下枝で梅に属する枝であることを強調していますね。大宰府では「梅ヶ枝餅」という銘菓が有名です。

 

【NO.7】薩摩目高氏海人(さつまのあまひと)

『 わがやどの 梅の下枝(しづえ)に 遊びつつ うぐひす鳴くも 散らまく惜しみ  』

意味:わが家の梅の下枝でうぐいすが遊びながら鳴いているよ。梅の花が散るのを惜しみながら。

短歌職人
これも梅とウグイスのセットと梅の花ではなく「下枝」がでてきますね。ウグイスの鳴き声に「花が散るのを惜しんでいる」自分の思いを重ねています。

 

【NO.8】筑前目田氏真神(でんしのまかみ)

『 春の野に 霧立ち渡り 降る雪と 人の見るまで 梅の花散る 』

意味:春の野に霧が立ち渡って、人にはまるで雪が降っているかのように見えるほど梅の花が散っているよ。

短歌職人
霧の中で梅の花びらが散る様子を眺めることができるなんて、とても優雅な光景ですね。

 

【NO.9】大伴旅人

『 梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我れ思ふ 酒に浮かべこそ 』

意味:梅の花が夢の中で語ることには「私は自分でもみやびな花だと思います。どうぞお酒に浮かべてくださいな」と。

短歌職人
32首後に作られた4首のうちの1首。夢の中で梅の花が語りかけてくるほど旅人さんも梅を愛していたのでしょう。

 

【NO.10】大伴旅人

『 残りたる 雪にまじれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも 』

意味:残っている雪に混じって咲いている梅の花よ、早く散らないでおくれ。雪が消えたとしても。

短歌職人
32首後に作られた4首のうちの1首。雪の中の梅の花、絵になりますね。花に向かって「早く”な”   散り”そ”」と遠回しにお願いしているところに可愛らしさも感じる表現です。

 

 

以上、梅の有名短歌(和歌)集でした!

 

5・7・5・7・7という41語の中で「梅」に限定しただけでもこれだけの色彩豊かな表現の作品が並んでいます。

 

みなさんも普段はなかなか花をじっと観察することはないと思いますが、歌ごころを育てるにはぼーっとする時間も大事です。

 

短歌職人
梅の季節に1時間でも30分でもいいので梅花を眺める時間を作って、ぜひ感じたことを短歌にしてみてください!