【月の短歌 30選】知っておきたい!!有名短歌作品集を紹介【意味&解説付き】

 

自然の美しい風物や、風雅な趣を楽しむことを『花鳥風月』と言います。

 

その言葉のとおり、月は古くからもっとも美しいものとして、私たち日本人に親しまれてきました。

 

月は、自然の美しさや心の機微を詠む短歌にとって、ぴったりなテーマのひとつと言えるでしょう。

 

また、日本だけではなく、世界中の国でその美しさをうたった詩や月を題材にした文学が生み出されています。

 

今回は、飛鳥時代の昔から現代までの『月をテーマにした有名短歌』をご紹介します。

 

短歌職人
ぜひ、あなたのお気に入りの短歌を見つけてみてください!

 

月をテーマにした有名短歌【昔の短歌(和歌) 15選】

 

まずは、昔の短歌から有名なもの10つご紹介します。

 

【NO.1】柿本人麻呂(万葉集)

『 ひむがしの 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ 』

意味:東の野に陽炎(かげろう)が立つのが見えて振り返ってみると、月は西に傾いてしまった

短歌職人
この歌は、天皇の即位を詠んだものであるとも言われており、立ち上る陽炎が新天皇を、傾く月が前天皇のことを表しています。作者の柿本人麻呂は、和歌の神様を言われており、全国に彼を奉った神社が数多く存在しています。

 

【NO.2】柿本人麻呂(万葉集)

『 あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも 』

意味:日は照らしているけれど、(皇子が)夜空を渡る月(つき)のようにお隠れになったことが惜しいことです。

短歌職人
“あかねさす”は“日”を、“ぬばたま”は“夜”を、それぞれ導き出している枕詞です。この歌は、皇子が崩御(亡くなった)ことを嘆く歌です。『万葉集』には、亡くなった人へ送る歌である“挽歌(ばんか)”が多く収録されています。

 

【NO.3】崇徳院(風雅和歌集)

『 見る人に 物のあはれをしらすれば 月やこの世の鏡なるらむ 』

意味:見る人に“もののあはれ”を知らせるとすれば、月とはこの世の鏡なのだろうか。

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崇徳院は、崇徳天皇としてわずか5歳で即位しました。若くして譲位し、上皇となってからは、後白河天皇と対立し、保元の乱という内乱が起こりましたが、敗北した崇徳院は讃岐(現在の香川県)へ流刑になってしまったそうです。不幸な人生を過ごした崇徳院ですが、このように悲しげで美しい歌を残しています。

 

【NO.4】猿丸大夫(古今和歌集)

『 夕月夜 さすや岡部の 松の葉の いつともわかぬ 恋もするかな 』

意味:夕月夜の岡の松の葉のように、いつも変わらない恋をするものだ。

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夕方、少し早めに顔を出している月の光が、松の葉にさして美しく輝いている様子が、まるで恋をしている自分のようだ、と歌われています。恋をしている時のわくわくした気持ちが伝わってくる一首です。

 

【NO.5】紀貫之(出典不明)

『 弾く琴の 音()のうちつけに 月影を 秋の雪かと 驚かれつつ 』

意味:弾いている琴の音を聞いているうちに、月の光をまるで秋の雪のように思って、驚いた。

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紀貫之は、後醍醐天皇の勅命により、『新選和歌』を編纂しました。また、彼の書いた随筆『土佐日記』は、日本で最初のひらがなで書かれた日記であると言われています。

 

【NO.6】阿倍仲麻呂(百人一首)

『 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも 』

意味:空を仰ぎ見ていると月が出ている。あの月は、故郷である春日の三笠山に出ているものと同じなのだなあ。

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作者の阿部仲麻呂は、19歳の時、唐(現在の中国)へ遣唐使として派遣されました。そこで驚くべき才覚を発揮した彼は、唐へ渡ってから30年もの間帰国を許されませんでした。やっと帰国できるようになったのですが、船が難破し、とうとう死ぬまで日本へ帰ることはなかったそうです。切実な望郷の想いが、歌の中によく表れています。

 

【NO.7】大江千里(百人一首)

『 月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど 』

意味:月を見ると、色々な思いがこみあげてきて悲しくなる。私ひとりのための秋ではないのに。

短歌職人
この歌は、白居易の「燕子楼(えんしろう)」という漢文の詩をふまえた“本歌取り”です。本歌取りとは、有名な古歌(本歌)の一句、または二句を自分の歌のなかに取り入れて作歌するという方法です。

 

【NO.8】清原養父(百人一首)

『 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらん 』

意味:夏の夜は、まだ暗くなってきたばかりかと思えば、すぐに明るくなってしまった。今頃どの雲を宿にして眠っているのだろうか、あの美しい月は。

短歌職人
月が隠れてしまった=雲を宿にして眠っている、という例えがユニークで、なおかつロマンチックな一首ですね。作者の清原養父は、平安時代の貴族であり歌人です。彼の子孫は『枕草子』の作者である清少納言だと言われています。代々、優れた歌人を輩出する家柄だったようです。

 

【NO.9】紫式部(百人一首)

『 めぐりあひて 見しやそれとも 分かぬまに 雲隠れにし 夜半の月かな 』

意味:せっかく久しぶりに会えたのに、それがあなただとわかるかどうかの間に帰ってしまわれた。まるで雲間に隠れてしまう夜半の月のように。

短歌職人
この歌の中で言う「あなた」は、紫式部の幼友達のことを指します。「雲隠れにし」という言葉に、すぐに見えなくなってしまった夜半の月と、友達の姿を重ねて表現しています。作者の紫式部は、『源氏物語』の作者です。一条天皇の中宮()である藤原彰子に仕えました。

 

【NO.10】赤染衛門(百人一首)

『 やすらはで 寝なましものを 小夜明けて かたぶくまでの 月を見しかな 』

意味:あなたがいらっしゃらないとわかっていたら、ためらわずに寝てしまっていたのに。お待ちしている間に夜が明けて、月が傾いていくのを見てしまいましたわ。

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「やすらう」とは、ためらう、ぐずぐずする、という意味です。恋しい人がやってくるのをただ待つだけの悲しい歌ではなく、恋人に一言物申すような雰囲気のあるからりとした一首です。作者の赤染衛門は、紫式部や清少納言など、多くの才女たちと交流がありました。

 

【NO.11】藤原道長(出典不明)

『 この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば 』

意味:この世界は(まるで)私のためのものであるように思う。満月に欠ける部分がないように、私は完全に満ち足りているからだ。

短歌職人
平安時代中期、道長を中心とする藤原一族が隆盛を極めていました。和歌は、何度も推鼓を重ねてから披露するというのが一般的だと言われていますが、この歌は、藤原道長の娘である威子が天皇の妃になり、そのお祝いの席で即興で詠まれたものだと言われています。

 

【NO.12】後徳大寺左大臣(百人一首)

『 ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる 』

意味:ホトトギスが鳴いたと思ってそちらを眺めてみると、そこには、ただ有明の月が残っているだけでしたよ。

短歌職人
“有明の月“とは、夜が明けてもなお、空に残っている月のことを言います。特に和歌では多く用いられている名詞ですが、この言葉が出てくる和歌・短歌は夜明けのあとの時間を表していると言えるでしょう。平安時代、貴族のあいだでは、夜明けにホトトギスの声を聞くことが縁起の良いことだとされていました。

 

【NO.13】坂上是則(百人一首・古今和歌集)

『 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪 』

意味:夜が白み始めたころ、有明の月の光はこんなにも明るいのかと思ったが、それは吉野の里にふった白い雪の明るさだったことだ

短歌職人
さえざえとした美しい景観が目に浮かぶようですね。月の光を白い雪に例えるというのは、中国の漢詩の中で頻繁に使われた技法でした。平安時代前期には、漢詩のモチーフを取り入れた歌がよく詠まれていたようです。

 

【NO.14】左京大夫顕輔(百人一首)

『 秋雲に たなびく雲の 絶えまより もれいづる月の 影のさやけさ 』

意味:秋風に吹かれてたなびく雲の切れ目から、もれ出てくる月の光の澄み切った美しさと言えばどうだろう!

短歌職人
作者の左京大夫顕輔は、『詞花和歌集』の撰者として活躍しました。“さやけさ”とは、鮮やかな様子、非常にはっきりとした様子を表す言葉で、形容詞である“さやけし”を名詞化したものです。ここでは、「くっきりと澄み切っていること」という意味で使われています。

 

【NO.15】西行法師(百人一首)

『 なげけとて 月やはものを 思はするか こち顔なる わが涙かな 』

意味:嘆きなさいと、月が私に物思いをさせるのだろうか。いや、そんなことはない。そう思っているのに、私の涙はどんどん流れていく、まるで月がそうさせているようかのように

短歌職人
西行法師は鎌倉時代の人物で、元々は武士でした。23歳で出家をしてからは、日本全国を旅歩き、たくさんの和歌を詠みました。月には、心を大きく動かすような不思議な力があるのかもしれませんね。

 

月をテーマにした有名短歌【現代/近代短歌 15選】

 

ここからは、明治時代(近代)から現代に歌われた月を題材にした短歌についてご紹介します。

 

【NO.1】与謝野晶子(太陽と薔薇)

『 秋の空 冷たき水の 中に立つ うら悲しさを 語る月かな 』

意味:秋の空に浮かぶ、冷たい水の張った水面に映っているその月は、なんとはなしに悲しさを語っている

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恋の歌を多く詠んだ与謝野晶子ですが、激しい恋情の想いだけではなく、切なく静かな歌も詠んでいます。

 

【NO.2】与謝野晶子(佐保姫)

『 青白し 寒しつめたし もち月の 夜天に似たる しら菊の花 』

意味:青白くて、寒くて冷たい満月が出ている夜空に似ているわ、この白菊の花は。

短歌職人
白菊の花を温度を感じない冷たい月のように例えた歌です。月は、月そのものとしても多く歌に詠まれていますが、何か別のものを月に例えるという手法も多く用いられています。

 

【NO.3】与謝野晶子(青海波)

『 夕月の ひかりの如く めでたきは 木立の中の 月読の宮 』

意味:木立の中に建っている月読の宮は、夕方の月が照らし出す光のようにめでたいことだ。

短歌職人
月読の宮とは、伊勢神宮の中にある内宮のことです。内宮はまるで夕方に浮かぶ月の光のように、美しく、めでたいものであると詠まれた歌です。

 

【NO.4】正岡子規(出典不明)

『 月てらす 梅の木の間に たたずめば わが衣手の 上に影あり 』

意味:月明かりに照らされている梅林の間にたたずめば、袖の上には影が落ちていることだ。

短歌職人
美しい情景が表現された一首です。夜は暗いので、本当ならば影はできるはずがないのですが、月明かりがあまりにも明るいので、まるで昼間のように影ができてしまったのでしょう。

 

【NO.5】正岡子規(出典不明)

『 聖霊(しょうりょう)の 帰り路送る 送り火の もえたちかぬる 月あかりかな 』

意味:亡くなった先祖を送る送り火が、月あかりの明るさに燃え立ちかねているようだ。

短歌職人
送り火とは、お盆の行事のひとつで、盆の最終日に家の前で焚く火のことです。お盆が始まる頃には、同じく迎え火を焚きます。「夜に燃え盛る送り火よりも、月あかりの方が明るい。」と作者は感じたのでしょう。

 

【NO.6】正岡子規(出典不明)

『 何見ても 昔ぞ忍ぶ 中んづく 墨田の夏の 夕暮れの月 』

意味:何を見ても、昔のことを思い出してしまうような、墨田で過ごした夏の夕暮れの月だ。

短歌職人
思い出というのは、いつまでも、私たちの心の中に残りますね。作者にとって、この夕暮れの月は、さまざまな夏の思い出を思い出す印象的な存在だったのでしょう。

 

【NO.7】若山牧水(山桜の歌)

『 湯けむりの 立ちおほひたる 谷あひの 湯宿を照らす 春の夜の月 』

意味:春の夜の時が、湯煙の立つ谷合いの温泉宿を照らしている。

短歌職人
若山牧水は日本中を旅し、さまざまな旅先で多くの歌を残しました。この歌も、もくもくとけむりたつ温泉宿の上に、静かにのぼっている月が目に浮かびます。旅先ならではの短歌と言えるでしょう。

 

【NO.8】齋藤茂吉(ともしび)

『 わがこころ いつしか和み あかあかと 冴えたり月の のぼるるを見たり 』

意味:私の心はいつしか和んでいる、赤々と冴えわたった月がのぼってゆくのを見ると。

短歌職人
作者は何か辛いこと、悲しいことがあったのかもしれません。大きな月がのぼっていくのを見るうちに、自然と心癒されたのでしょう。赤い月というのは、皆既日食の際に見られる月だと言われています。

 

【NO.9】齋藤茂吉(赤光)

『 鶏頭の 古りたる紅の 見ゆるまで わが庭のへに 月ぞ照りぬる 』

意味:色あせてしまった鶏頭の赤い花がよく見えるまで、私の庭のそばに月明かりが照ってきていることだ。

短歌職人
鶏頭(けいとう)とは、赤い花をつける植物の一種で、その花がまるで鶏のとさかに見えることから、そう名付けられています。

 

【NO.10】石川啄木(一握の砂)

『 あめつちに わが悲しみと 月光と あまねき秋の 夜となりけり 』

意味:この世界のすべてに、私の悲しみと月の光とが満ち溢れているような、そんな秋の夜になってしまった。

短歌職人
あめつちとは“天と地”のことです。ここでは“全世界”という意味で使われています。月の光と同じように、全世界を包み込んでしまうような悲しみが、作者の心を覆ってしまっているのでしょう。

 

【NO.11】樋口一葉(出典不明)

『 打ちなびく 柳をみれば のどかなる 朧月夜も 風はありけり 』

意味:ぼんやりとのどかに見える朧月夜も、柳が揺れているのをみると、風が吹いているということがわかります。

短歌職人
ぼんやりかすんだ薄い光の月が出ている日のことを、朧月夜(おぼろづきよ)と言います。

 

【NO.12】中村憲吉(出典不明)

『 そとに出て 月に立てれば 夏の雲 明るき空を 近く飛べるも 』

意味:外に出て月面に立つことができたなら、夏の雲や明るい空を近く飛ぶことができるのになあ。

短歌職人
作者の願いを表した、ユニークな一首です。

 

【NO.13】島木赤彦(出典不明)

『 大の月 海の上からまんまろく まろびいづれば 吾泣かむとす 』

意味:大きな月が、海の上からまんまるに転がり出てきたので、私は泣きそうになってしまった。

短歌職人
“まろく”は“まるく”、“まろびいづれば”は、“転がり出たので”という意味です。海の上から見えた大きな月があまりにも美しくて、作者は胸を打たれ、思わず涙が出てきそうになったのでしょう。

 

【NO.14】伊藤左千夫(出典不明)

『 かへらんと おり立つ庭の 草むらに こほろぎ鳴いて 月薄雲る 』

意味:そろそろ帰ろうかと庭に下り立ってみると、草むらにはころおぎが鳴き、月が薄雲に覆われてしまった。

短歌職人
作者はどこかの家を訪ねていたのでしょう。そろそろお暇しようかと庭に出てみると、虫の声が聞こえ、月が雲間に隠れてしまい、ますます帰りがたくなってしまったという作者の心情を表しているかのようです。

 

【NO.15】渡辺松男(寒気氾濫)

『 月読に 途方もなき距離 照らされて 確かめにいく ガスの元栓 』

意味:月の明かりが、思いがけないほどの距離を照らしており、その月あかりに照らされながら、ガスの元栓があるかを確めにいく。

短歌職人
月読(つくよみ)とは、月の古語です。作者は、普段はこの時間に行動することはあまりないようで、思いがけず月の光が明るいことに驚いています。

 

以上、月を詠んだ短歌20選でした!

 

月ははるか昔から現代まで、私たちの生活に深く寄り添い、さまざまな感情を呼び起こしてくれるものです。

 

ご自分で短歌を作るときにも、月を題材にするといいかもしれません。

 

短歌職人
皆さんもお時間のある時には月を眺め、ぜひ感じたことを短歌にして詠んでみてくださいね!