【桃の花の有名短歌 20選】万葉集(和歌)から現代短歌まで‼︎おすすめ短歌を紹介

 

桃は古代に中国から伝わりましたが、当時は花を観賞していて桃の実はあまり食べなかったと言われています。

 

しかし、可憐な桃の花の人気は高く、日本各地で栽培されていました。

 

また、桃の木は邪気を払うとされて東洋の神話や物語に多く登場しており、短歌や和歌にも桃の花をテーマにしたものが多数あります。

 

今回はその中から、「桃の花」について詠ったおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介します。

 

 

短歌職人
ぜひ一緒に鑑賞してみましょう。

 

桃の花について詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】

 

短歌職人
まずは、歌作りが盛んだった平安時代を中心にして桃の花の有名な和歌を10首紹介します。

 

【NO.1】大伴家持

『 春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出立つをとめ 』

【意味】春の園は桃の花の匂いが満ちている。その下の道も紅色に輝いていて、そこに立つ乙女の姿といったら。

短歌職人
「紅にほふ」が、桃の花が辺りを埋め尽くすように咲いていて香りが満ちていることを思わせます。そこに佇む女性の姿があまりに景色と合っていて美しく、作者は感動して見つめていたのでしょう。

 

【NO.2】詠み人知らず

『 はしきやし 吾家の毛桃 本しげみ 花のみ咲きて ならざらめやも 』

【意味】私の家の桃は育って繁っているから、花だけが咲いて実がならないことはないだろう。

短歌職人
桃は実に産毛があることから古くは「毛桃」と呼ばれ、柔らかな触り心地の実から女性を連想させる言葉としても使われていました。この歌は好きな女性のことを桃にたとえていて、恋が成就することを願ったものです。

 

【NO.3】紀貫之

『 君がため 我が折る花は 春遠く 千歳をみたび 折りつつぞ咲く 』

【意味】あなたのために私が折った花は春を遠く待ちながら三千年に一度咲くという花です。

短歌職人
中国の伝説には三千年に一度だけ実をつける桃の話があります。この歌はその伝説を踏まえて、そんな貴重な桃の花をあなたのために手折ってきたのですよと恋人に贈ったというロマンチックな内容です。

 

【NO.4】詠み人知らず

『 咲きし時 猶こそ見しか 桃の花 散れば惜しくぞ 思なりぬる 』

【意味】咲いていた時にも見続けた桃の花よ。散ってしまうからこそ愛おしく思う。

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「惜しくぞ思なりぬる」に係り結びが使われて心情が強調されています。桃の花が散ってしまうのが惜しく、無くなってしまうからこそ愛おしいという心を詠んだ歌です。

 

【NO.5】清原元輔

『 あかざらば 千代までかざせ 桃の花 花も変わらじ 春も絶えねば 』

【意味】花を見飽きることはないから、いつまでも咲けよ桃の花。花の色も変わらず春が終わることもないのだから。

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桃の花が描かれた屏風を見て詠まれた歌です。絵の中の春は終わらないのだから綺麗な花をいつまでも咲かせていなさいと桃の花に語りかけていて、美しく描かれた花への賛辞も込められています。

 

【NO.6】良寛

『 この里の 桃の盛りに 来て見れば 流れにうつる 花のくれなゐ 』

【意味】この里の桃の花の盛りに来てみれば水の流れに花の紅色が映っているよ。

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この歌の「流れ」は信濃川のことです。川岸に立ち並ぶ満開の桃の花と、水に花が映って大きな川の色が紅色に染められている風景が想像されます。とても美しい春の歌です。

 

【NO.7】大江嘉言

『 桃の花 宿に立てれば 主さへ すけるものとや 人の見るらん 』

【意味】家の庭に桃の花があれば家の主も好色だと人が見るようだ。

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昔の桃の実は酸っぱく「酸(す)けるもの」と言われ、そこから「好けるもの(好色家)」を暗に指す言葉としても使われました。古代から桃は女性を連想させ、ひいて好色を思わせる単語となったようです。言葉は面白いですが、家に桃の木があるだけで好色と言われるとは作者も心外だったのではないでしょうか。

 

【NO.8】経信の母

『 山がつの 園生に咲ける 桃の花 すけりなこれを 植ゑて見けるも 』

【意味】木こりの庭に咲いている桃の花。花を好んで植えて見ているのだな。

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「山がつ」は木こりや猟師などの山に住む人のことです。作者は木こりの家の庭に桃の花があるのを見て、身分の低い彼らも桃の花を愛でる気持ちがあることに気付き感動したのではないでしょうか。

 

【NO.9】藤原仲実

『 薄く濃く 今日咲き合える 桃の花 ゑひをすすむる 色にぞありける 』

【意味】桃の花が薄く濃く咲き合っている。酔いを進める色であることよ。

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作者は桃の花を眺めながらお酒を飲んでいるのでしょう。それぞれの花は色の濃淡が違って美しく、作者が花を堪能し満足している様子が想像できます。きっといつまでも見飽きなかったでしょう。

 

【NO.10】頼慶法師

『 桃園の 桃の花こそ 咲きにけれ 梅津の梅は 散りやしぬらむ 』

【意味】桃園の桃の花は咲いたが、梅津の梅は散ってしまっただろうか。

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梅も桃も春の訪れを告げる花ですが、梅が咲き終わってから桃の花は咲きはじめます。「桃園の桃」「梅津の梅」と桃と梅を反復で使い、それぞれの花を思い起こさせ春を感じさせる歌です。

 

桃の花について詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】

 

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次に、明治時代から現代までに詠まれた桃の花の有名な短歌を10首紹介します。

 

【NO.11】正岡子規

『 長安の 市の酒屋の 桃咲きて 李白が鼾 日斜ならんとす 』

【意味】長安の市場の酒屋の桃は咲いて、李白がいびきをかき、日は沈もうとする。

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「長安」は中国の唐時代の都の名前で、李白は酒好きで知られる唐の詩人です。昔の中国に思いを馳せて詠まれた歌で、桃の花が咲く春ののどかな夕暮れが想像で表現されています。

 

【NO.12】正岡子規

『 中垣の 境の桃は 散りにけり 隣の娘 きのふとつぎぬ 』

【意味】庭の垣根の桃の花は散ってしまったよ。隣の娘は昨日嫁いでいった。

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隣家との境目に桃の木があり、作者は花が散った桃を見ているのでしょう。娘がお嫁に行ってお隣の家はいつもより静かなのかもしれません。少し寂しい春の情景を詠んだ歌です。

 

【NO.13】若山牧水

『 つばくらめ ちちと飛び交ひ 阿武隈の 峯の桃の花 いま盛りなり 』

【意味】ツバメがチチと鳴いて飛び交う阿武隈の峰の桃の花は今が見頃だ。

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「つばくらめ」はツバメのことです。ツバメが飛び交う空は青空でしょうか。黒いツバメと桃の紅色というはっきりとした色合いで表現された情景は明るい印象で、自然豊かな春の風景を想像させます。

 

【NO.14】山川登美子

『 鳥籠を しず枝にかけて 永き日を 桃の花かず かぞえてぞ見る 』

【意味】鳥籠を枝にかけて春の日を桃の花の数を数えながら見る。

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この歌の「鳥籠」には鳥がいるのでしょうか。「桃の花」という明るい色味が詠み込まれていますが、のどかな春の一日の歌のようにも、一日を所在なく過ごす寂しい歌のようにも感じられます。

 

【NO.15】与謝野晶子

『 山ごもり かくてあれなの みおしへよ 紅つくるころ 桃の花さかむ 』

【意味】山籠もりして教えを受ける日がこのまま続けばいい。紅を付ける頃には桃が咲くだろう。

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歌の主人公は人里離れた山で僧侶などの尊い人物と暮らしていて、その彼を愛しているのでしょう。「紅」は化粧を表し、山では化粧をしていないが再び自分が化粧をする頃にはきっと彼との恋が成就すると感じています。恋の成就を桃の花が咲くと表現した、ロマンスを思わせる歌です。

 

【NO.16】三好達治

『 桃の花 ひともと咲きて 散りにける この踏切ゆ 遠き海見ゆ 』

【意味】桃の花は一時咲いて散ってしまった。この踏切から遠い海を見る。

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桃の花が散ったという情景は時が過ぎ去った寂しさを思わせます。踏切は境界線をイメージさせ、作者はそこから海を見つめています。踏切を越えたいと思っているのでしょうか。越えられないやるせなさを感じているのでしょうか。

 

【NO.17】金子薫園

『 桃の花 君に似るとは いひかねて ただうつくしと 愛でるやみしか 』

【意味】桃の花が君に似ていると言えなくてただ美しいねと愛でるのだった。

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作者は「君は桃の花のように美しいよ」といった言葉を言いたかったのでしょうが、気恥ずかしくてただ花を美しいと言うだけにとどめたのでしょう。恋をしている心のもどかしさが歌われています。

 

【NO.18】石川信夫

『 紅と白 ふたいろに咲く 桃の木あり 向かつて左の 枝はくれなゐ 』

【意味】紅と白の二色の花が咲く桃の木があった。向かって左の色は紅。

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作者は木の正面に立って左の枝の紅色の花を見ています。二方向の道の分岐点に立って行き先を決める人のようにも思えます。第五句では「くれなゐ」と平仮名で表現しているので、紅色の花に作者なりの意味を見出だしたのかもしれません。

 

【NO.19】小池光

『 病棟の 夕庭紅の もも咲きて チェホフが佇って ゐると思ひぬ 』

【意味】病棟の夕方の庭に紅色の桃が咲いていてチェーホフが立っていると思った。

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チェーホフはロシアの劇作家で医師です。彼には「桜の園」という作品がありますが、作者は桃の花を見て桜を連想しチェーホフの存在を想像したのかもしれません。

 

【NO.20】小中英之

『 鶏ねむる 村の東西南北に ぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ 』

【意味】鶏の眠る村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花を見る。

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「ぼあーん」という擬音語がユニークです。村のどこを向いても桃の花が咲いており、花霞のように景色をぼやけさせているのでしょう。ぼーっと眠くなってしまうようなのどさかを感じさせます。

 

以上、桃の花について詠った有名短歌/和歌集でした!

 

 

桃の花は雛祭りの時期に花屋さんに多く見られますが、花の見頃は「3月末から4月中旬」となります。

 

桜や梅ほどには見る機会がない花かもしれませんが、赤やピンク、白の花が可愛らしい春の風物詩です。

 

短歌職人
今回紹介した短歌や和歌を読んで桃の花の歌に興味を持ったという人は、ぜひ桃の花を鑑賞した感想や、桃の花について思ったことを短歌にしてみてください。