桃は古代に中国から伝わりましたが、当時は花を観賞していて桃の実はあまり食べなかったと言われています。
しかし、可憐な桃の花の人気は高く、日本各地で栽培されていました。
また、桃の木は邪気を払うとされて東洋の神話や物語に多く登場しており、短歌や和歌にも桃の花をテーマにしたものが多数あります。
今回はその中から、「桃の花」について詠ったおすすめ有名短歌・和歌を20首紹介します。
大吉でしたー 以下短歌 桃桜 花とりどりに 咲き出でて 風長閑なる 庭の面哉 pic.twitter.com/5EqnYBmz
— HassakuTatibana❖Sera (@tatibana568) January 3, 2013
桃の花について詠った有名短歌(和歌)集【前半10選】
【NO.1】大伴家持
『 春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出立つをとめ 』
【意味】春の園は桃の花の匂いが満ちている。その下の道も紅色に輝いていて、そこに立つ乙女の姿といったら。
【NO.2】詠み人知らず
『 はしきやし 吾家の毛桃 本しげみ 花のみ咲きて ならざらめやも 』
【意味】私の家の桃は育って繁っているから、花だけが咲いて実がならないことはないだろう。
【NO.3】紀貫之
『 君がため 我が折る花は 春遠く 千歳をみたび 折りつつぞ咲く 』
【意味】あなたのために私が折った花は春を遠く待ちながら三千年に一度咲くという花です。
【NO.4】詠み人知らず
『 咲きし時 猶こそ見しか 桃の花 散れば惜しくぞ 思なりぬる 』
【意味】咲いていた時にも見続けた桃の花よ。散ってしまうからこそ愛おしく思う。
【NO.5】清原元輔
『 あかざらば 千代までかざせ 桃の花 花も変わらじ 春も絶えねば 』
【意味】花を見飽きることはないから、いつまでも咲けよ桃の花。花の色も変わらず春が終わることもないのだから。
【NO.6】良寛
『 この里の 桃の盛りに 来て見れば 流れにうつる 花のくれなゐ 』
【意味】この里の桃の花の盛りに来てみれば水の流れに花の紅色が映っているよ。
この歌の「流れ」は信濃川のことです。川岸に立ち並ぶ満開の桃の花と、水に花が映って大きな川の色が紅色に染められている風景が想像されます。とても美しい春の歌です。
【NO.7】大江嘉言
『 桃の花 宿に立てれば 主さへ すけるものとや 人の見るらん 』
【意味】家の庭に桃の花があれば家の主も好色だと人が見るようだ。
【NO.8】経信の母
『 山がつの 園生に咲ける 桃の花 すけりなこれを 植ゑて見けるも 』
【意味】木こりの庭に咲いている桃の花。花を好んで植えて見ているのだな。
【NO.9】藤原仲実
『 薄く濃く 今日咲き合える 桃の花 ゑひをすすむる 色にぞありける 』
【意味】桃の花が薄く濃く咲き合っている。酔いを進める色であることよ。
【NO.10】頼慶法師
『 桃園の 桃の花こそ 咲きにけれ 梅津の梅は 散りやしぬらむ 』
【意味】桃園の桃の花は咲いたが、梅津の梅は散ってしまっただろうか。
桃の花について詠った有名短歌(和歌)集【後半10選】
次に、明治時代から現代までに詠まれた桃の花の有名な短歌を10首紹介します。
【NO.11】正岡子規
『 長安の 市の酒屋の 桃咲きて 李白が鼾 日斜ならんとす 』
【意味】長安の市場の酒屋の桃は咲いて、李白がいびきをかき、日は沈もうとする。
【NO.12】正岡子規
『 中垣の 境の桃は 散りにけり 隣の娘 きのふとつぎぬ 』
【意味】庭の垣根の桃の花は散ってしまったよ。隣の娘は昨日嫁いでいった。
【NO.13】若山牧水
『 つばくらめ ちちと飛び交ひ 阿武隈の 峯の桃の花 いま盛りなり 』
【意味】ツバメがチチと鳴いて飛び交う阿武隈の峰の桃の花は今が見頃だ。
【NO.14】山川登美子
『 鳥籠を しず枝にかけて 永き日を 桃の花かず かぞえてぞ見る 』
【意味】鳥籠を枝にかけて春の日を桃の花の数を数えながら見る。
【NO.15】与謝野晶子
『 山ごもり かくてあれなの みおしへよ 紅つくるころ 桃の花さかむ 』
【意味】山籠もりして教えを受ける日がこのまま続けばいい。紅を付ける頃には桃が咲くだろう。
【NO.16】三好達治
『 桃の花 ひともと咲きて 散りにける この踏切ゆ 遠き海見ゆ 』
【意味】桃の花は一時咲いて散ってしまった。この踏切から遠い海を見る。
【NO.17】金子薫園
『 桃の花 君に似るとは いひかねて ただうつくしと 愛でるやみしか 』
【意味】桃の花が君に似ていると言えなくてただ美しいねと愛でるのだった。
【NO.18】石川信夫
『 紅と白 ふたいろに咲く 桃の木あり 向かつて左の 枝はくれなゐ 』
【意味】紅と白の二色の花が咲く桃の木があった。向かって左の色は紅。
作者は木の正面に立って左の枝の紅色の花を見ています。二方向の道の分岐点に立って行き先を決める人のようにも思えます。第五句では「くれなゐ」と平仮名で表現しているので、紅色の花に作者なりの意味を見出だしたのかもしれません。
【NO.19】小池光
『 病棟の 夕庭紅の もも咲きて チェホフが佇って ゐると思ひぬ 』
【意味】病棟の夕方の庭に紅色の桃が咲いていてチェーホフが立っていると思った。
【NO.20】小中英之
『 鶏ねむる 村の東西南北に ぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ 』
【意味】鶏の眠る村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花を見る。
「ぼあーん」という擬音語がユニークです。村のどこを向いても桃の花が咲いており、花霞のように景色をぼやけさせているのでしょう。ぼーっと眠くなってしまうようなのどさかを感じさせます。
以上、桃の花について詠った有名短歌/和歌集でした!
桃の花は雛祭りの時期に花屋さんに多く見られますが、花の見頃は「3月末から4月中旬」となります。
桜や梅ほどには見る機会がない花かもしれませんが、赤やピンク、白の花が可愛らしい春の風物詩です。