【「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの】徹底解説!!意味や表現技法・句切れ・鑑賞文など

 

日常の中で感じたことを5・7・5・7・7の31音で表現する定型詩「短歌」。

 

今回は、第1歌集『サラダ記念日』が社会現象を起こすまでの大ヒットとなり、現代短歌の第一人者として今なお活躍する俵万智の歌「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」をご紹介します。

 

 

本記事では、『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」の意味や表現技法・句切れ・作者について徹底解説し、鑑賞していきます。

 

「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」の詳細を解説!

 

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

(読み方:よめさんに なれよだなんて かんちゅうはい にほんでいって しまっていいの)

 

作者と出典

この歌の作者は「俵万智(たわら まち)」です。

 

短歌界ではもちろん、短歌にあまり詳しくない人でも、日本ではほとんどの人が名前を知っていると言って過言ではないくらい有名な歌人です。日常の出来事を分かりやすい言葉選びで表現した短歌は、誰にでも親しみやすく、それでいて切り口が斬新で、今も多くの人の心を掴んでいます。

 

また、出典は『サラダ記念日』です。

 

1987年(昭和62年)5月に出版された第1歌集で、表題にもなった歌「サラダ記念日」は俵万智の代名詞にもなっています。出版されるやいなや280万部のベストセラーとなり、短歌に馴染みがなかった人も含め多くの人が手に取りました。この歌集をもとにいくつもの翻案・パロディ作品が出たり、収められている短歌から合唱曲が作られたりするなど社会現象となりました。

 

現代語訳と意味 (解釈)

この歌は現代語で詠まれているため、読み手がそのまま意味を捉えられるものです。

 

あえて噛み砕いて書き直すとすると、次のような内容になります。

 

「『嫁さんになれよ』だなんて大切なこと(プロポーズ)を、缶チューハイ2本飲んだくらいで言ってしまって本当に良いの?」

 

男性からのプロポーズともとれる一言に対する、言われた側の女性の心境を歌ったものです。意味としては十分に理解できますが、使われている言葉やそれが選ばれた理由、そこに込められた気持ちに焦点を当てていくと、さらに深く歌の内容を読み取ることができます。

 

では、語の意味や文法を確かめながら、この歌の真意を読み取っていきましょう。

 

文法と語の解説

  • 「『嫁さんになれよ』だなんて」

「嫁」は本来、息子の配偶者の女性を意味する言葉ですが、男性が配偶者の女性を指す呼称でもあり、この歌においては後者だと考えられます。「嫁さんになれよ」は意訳すれば「自分と結婚しろよ」ということですね。「なれよ」は命令形の「なれ」に終助詞「よ」がついたもの。「よ」は自分の主張を発言しているときの表現です。「だなんて」の「なんて」は副助詞で、意外だ・疑わしいなどと思う気持ちを表しています。

 

  • 「カンチューハイ二本で」

「カンチューハイ」はそのまま缶の酎ハイのことです。お酒の中ではアルコール感が少なく、気軽に飲めるものです。作者はお酒好きで有名なので、この歌では「お酒よりもジュースに近い、軽く飲める飲み物」と言う認識で使われているのでしょう。「二本で」は、缶酎ハイが2本目であることを表しています。「本」と数える所もポイントで、この数え方だけで、缶酎ハイを缶のまま飲んでいるのだなということが想像できます。

 

  • 「言ってしまっていいの」

「言う」の連用形「言って」に、補助動詞「しまう」がついています。「しまう」が、そのつもりでないのに事態が実現したことをあらわしています。さらに「しまう」は「しまって」と連用形になっており、最後に「いいの」と問いかける形へとつながっています。

 

「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」の句切れと表現技法

句切れ

この歌に句切れはないと考えられますが、弱い区切りで考えると2句切れの歌と言えます。

 

まず初句から2句にかけて「嫁さんになれよ」という台詞がまたがっています。2句から3句にかけてはまたがる言葉がなく、一度区切りができますが、場面や視点が大きく変わる様子はありません。強いて言うなら、ここが句切れでしょうか。

 

3句から4句にかけて「カンチューハイ2本で」、4句から5句への「言ってしまっていいの」と、句をまたいで文が続いています。はっきりとした句切れがない分、全体の流れるような印象を読み手に感じさせています。

 

固有名詞の使用

特定された商品名ではありませんが、「カンチューハイ」というイメージの限られた名詞を使うことにより、読み手が具体的に想像しやすいものとなっています。

 

字余り

3句目が5音となるところを、6音にしています。

 

しかしこれは表現的な効果を狙ったわけではなく、「カンチューハイ」という名詞を使用しているためと思われます。

 

「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」が詠まれた背景

 

この歌が最初に収録されたのは第1歌集の『サラダ記念日』です。作者は当時24歳でした。この歌が実体験なのか、完全なるノンフィクションなのかは議論が分かれるところです。

 

しかし『サラダ記念日』のあとがきで、作者は次のように語っています。

 

原作・脚色・主演=俵万智、の一人芝居――それがこの歌集かと思う。(中略)

なんてことない二十四歳。なんてことない俵万智。なんてことない毎日のなかから、一首でもいい歌を作っていきたい。それはすなわち、一所懸命生きていきたいということだ。生きることがうたうことだから。うたうことが生きることだから。

(『サラダ記念日』186~190頁より)

 

「『嫁さんに』・・・」の歌が実体験なのかはわかりませんが、少なくともその思いに近い体験を作者がしたか、身近にそんな心境の人物がいたことが考えられます。

 

また、作者はお酒好きで有名であり、『百人一酒』というタイトルのエッセイも書かれています。缶酎ハイ2本を「その程度で」と言わんばかりの、この歌におけるお酒の感覚は、作者自身の感覚によるものでしょう。

 

後日、この歌について作者は次のように語っています。

 

作ったときは、正直言って、一連の中では地味な歌だと思っていた。揺れる乙女心を、結句のたゆたいに込めたつもりだった。が、作者の思惑をはるかに超えて、この歌はたくましく代表作になってくれた。

(角川「短歌」7月号)

 

「『嫁さんになれよ』だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」の鑑賞

 

【「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの】は、プロポーズともとれる言葉を掛けられた女性の心情を詠んだ歌です。

 

「嫁さんになれよ」…結婚という言葉は使われていないものの、とてもストレートな求婚の台詞。それを放ったこの男性は、2本目の缶酎ハイを飲んだ状態。缶の酎ハイ2本という酒量をどう捉えるかは個人差があると思いますが、少なくともこの歌では「たったそれだけで」という意味で使われているのでしょう。

 

酔っぱらってもいない、なんならほとんどシラフなのかもしれない…そんな状態で言う言葉は、決して適当に言ったものではないはず。それが分かるから、言われた側の女性は「ふざけて言っているの?本気で言っているの?本当にいいの?」と心の中で問いかけているのでしょう。男性が真面目で堅めのタイプか、ふざけて軽口をたたくお茶目なタイプなのかによっても、この台詞の捉え方が変わってきそうです。

 

また、缶酎ハイを「二本」と数えているところもポイントです。この数え方ひとつで、缶のまま飲んでいるのだということが分かります。つまりは、缶の酎ハイをそのまま飲むような場面設定だということ。バーや居酒屋ではなくプライベートな空間だと考えることができます。どちらかの家か、同棲している2人の家なのか…このことから、2人の間柄も想像することができます。

 

突然の言葉にドキッとした女性の心境と、甘酸っぱい空間を感じられる、いわば「胸キュン」な一首です。

 

作者「俵万智」を簡単にご紹介!

 

俵万智は、現在も短歌界の第一人者として活躍する歌人です。会話を活かした口語定型の分かりやすい歌が特徴で、一般読者の共感を広く呼んでいます。

 

1962年に大阪府門真市で生まれ、13歳で福井に移住。その後上京し早稲田大学第一文学部日本文学科に入学しました。歌人の佐佐木幸綱氏の影響を受けて短歌づくりを始め、1983年には、佐佐木氏編集の歌誌『心の花』に入会。大学卒業後は、神奈川県立橋本高校で国語教諭を4年間務めました。

 

1986年に作品『八月の朝』で第32回角川短歌賞を受賞。翌1987年、後に彼女の代名詞にもなる、第1歌集『サラダ記念日』を出版します。現代人の感情を優しくさわやかに詠んだ歌は瞬く間に話題を呼び、この歌集は260万部を超えるベストセラーになりました。同年「日本新語・流行語大賞」を相次ぎ受賞し、『サラダ記念日』は第32回現代歌人協会賞を受賞しています。

 

高校教師として働きながらの活動でしたが、1989年に橋本高校を退職。本人曰く、「ささやかながら与えられた『書く』という畑。それを耕してみたかった。」とのことで、短歌をはじめとする文学界で生きていくことを選んだそうです。

 

その後も第2歌集『かぜのてのひら』、第3歌集『チョコレート革命』と、出版する歌集は度々話題となりました。現在(2021年)は第6歌集まで出版されています。短歌だけでなくエッセイ、小説など活躍の幅を広げています。現在も季刊誌『考える人』(新潮社)で「考える短歌」を連載中。また19966月から毎週日曜日読売新聞の『読売歌壇』の選と評を務めています。20196月からは西日本新聞にて、「俵万智の一首一会」を隔月で連載しています。

 

プライベートでは200311月に男児を出産。一児の母でもあります。

 

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